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第29話 大統領記者会見

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…………なんだか知らない天井だ。
どうやら寝ていて、そして今目が覚めたらしい。そして段々と脳に昨日までの記憶が流れ込んでくる。そうだ。この天井はホテルの天井だ。

俺はベッドから立ち上がるとカーテンが閉めてあった窓を開ける。外はすっかり明るくなっていた。

その光によって目が覚めたのか、後ろの方でヒカルがむくっと起きる。

「…おはよう」

俺はヒカルに目覚めの挨拶を言ったが、ヒカルは寝ぼけているのか数秒経った後に「おはようと」と言ってきた。

「もう朝か?」

「外が明るいから朝だよ。ヒカル、今何時?」

「今か?」

ヒカルはそう言うと隣に置いてあったスマホをとる。

「9時57分…あ、もうすぐで大統領の会見始まるじゃん。テレビつけて!」

ヒカルに言われ、俺はテレビのそばに置いてあるリモコンを手にする。また赤いボタンを押せばいいのだろうか。

俺がリモコンの赤いボタンを押すと、テレビがついた。

そのテレビの映像には、マイクが置いてあるデスクが映った。そこには誰もいない。
いや、正確に言えばカメラを持った記者が両端のほうに映っているが。
右上のほうには[Live]と映っている。

カメラは、ずっとデスクの一点に向けられている。周りの記者達はそれぞれ俯いていたり、メモをとっていたり、周りをキョロキョロしたりと様々だ。

「あと1分くらいか」

ヒカルがそう言った時、突然カメラの焦点が変えられ、1人の人物が映される。
白味がかかった灰色の髪と青を基調としたスーツを着た男だ。顔立ちは細長く整っている。

それまで自由奔放だった記者達はその人物が来た途端にカメラを手に持ち、パシャパシャと言わせる。

それはその人物がデスクの前で静止するまで止まなかった。
パシャパシャが止まると、その人物は話しだす。

『えぇ皆さんおはようございます。本日集まってもらった理由はニューヨークの件についての話をさせてもらうためです。
昨日、現地時間の午後3時半頃、ウォール街にて突如出現した巨大生物により、当時その場にいた多くのアメリカ国民を巻き込みました。現在、州兵を最大限動員し、救助活動にあたっておりますが難航している状況であると言えます。
この生物が一体なんなのか、どこから来たのかについては現在は詳しいことが判明しておらず、全力を上げて操作にあたっているところです。
そして我々はこのニューヨークの件をアメリカに明確な敵意を持った組織によるテロ行為だと見ています。このような行為を行った組織、もしくは国に対してはいかなる報復措置をもとる覚悟であることを忘れないでいただきたい。多くのアメリカ国民が巻き込まれていたことを大変お悔やみ申し上げます。
何か質問は?』
_________________
2022年7月12日 アメリカ東部標準時
午前10時01分
アメリカ合衆国 ワシントンDC
ホワイトハウス記者会見室

ヴォイドの「何か質問は?」という声に対してその場にいた何人かの記者が手を挙げる。

ヴォイドは直感的に比較的手前にいた若い女性記者に手を向けると、その女性記者は立ち上がる。

「中国とロシアはこの事態の関与を否定していることについてはどう思いですか?」

「我々は現在この件の首謀者たる存在を調査しているところです」

「あの、よろしいでしょうか?」

今度は40代くらいの丸い頭が特徴の男性記者が手を挙げてヴォイドに向かって話す。その記者はヴォイドの返事を待たずにその後を続ける。

「巨大生物がニューヨークを襲ったとのことですが、現在その巨大生物はどういう状態なんですか?」

「その巨大生物に関しましても現在調査中です」

ヴォイドは先程から調査中としか言っていないがこれは言い逃れではない。
調査中というのは嘘ではない。現にCIA、FBI、NSA(アメリカ国家安全保障局)の3つの機関が中心となって調査しているし、
FEMA(連邦緊急事態管理庁)によって優先的にニューヨーク市民の避難やニューヨーク州政府の業務の調整を行うようにしている。

今のニューヨークは相当の金と人員を導入しているが、あの巨大生物については一向に分からないのだ。そう、アメリカ合衆国大統領のヴォイドでさえこの事態を詳しく理解できていない。幸いとも言えることは、人口密集地のタイムズスクエアの被害が少なかったことだけだ。

「何か他に質問は?」

ヴォイドがそう言うと、多数の記者が手を挙げる。


その様子を横目に見ている人物がいた。記者会見の裏方に潜んでいる国防長官のジェイコブはこの会見をじっと見ていた。

だがジェイコブ自身もこの会見には参加する。今後のアメリカの国防についてを説明しなければならない。最も予め書いてもらった原稿を読むだけだが。

このまま私の番まで来るかと思われたその時だ。黒服が裏方にいた人々の間をすり抜けてこちらへとやって来た。

「国防長官。ペンタゴンから連絡です。大至急だとのこと」

黒服はそう言うと手に持っていた連絡用の携帯電話(ガラケー)を渡す。
ジェイコブはそれを受け取ると、電話の相手先を引き継ぐ。

「私だが、どうした?」

ジェイコブは記者達に聞こえないよう口元をおおって話す。

…3分くらいだろうか。ジェイコブは電話を近くの黒服に渡すと同時に言う。

「大至急ペンタゴンまで送ってくれ。アフガニスタンで緊急事態だ」

ジェイコブはそれだけ言うと、急いで車のもとへと向かった。










    
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