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アルク・ティムシーというドエム

アルク・ティムシーというドエム44

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「……ねえ、デイビッド。何で私まで鬼ごっこに参加しているの。なんかこれ、意味あんの?」

「……ああ? そんなの決まって……――っ!?」

 アルクに居場所がばれないように小声でデイビッドに尋ねると、デイビッドは愚問を聞くなとでもいう様に片眉をあげて口を開いたが、何故か言葉の途中で突然口を押えて黙り込んでしまった。

 …え!? もしかして、油断した今の一瞬で、アルクに見つかったとか!?

 慌てて先程までアルクがいた辺りに視線を向けるも、そこには先程と変わらず木々をかき分けてデイビッドを探し回っているアルクの姿が見えた。……なんだ。見つかってないじゃん。
 ほっと胸を撫で下ろす。

「……びっくりした。アルクに見つかったのかと思った。どーしたのよ、急に」

「………」

 溜め息交じりに視線を戻せば、何故か顔が赤いデイビッドが何かに……そうまるで羞恥に耐えるかのように俯いていた。心なしか、肩が震えている気がする。
 ……え、本当、どうしたの? この反応。

「……デイビッド? デイビッドさん? どうしたの?具合、悪いの?」

「……うっせぇ。ドエム野郎に見つかるだろうが。黙ってろ」

 ……せっかく人が心配しているというのに、この反応ですよ!
 酷い、酷過ぎる……なんて冷血漢な鬼畜野郎なんだ……!

 私が心の中できぃーっとハンカチを噛みしめている一方で、どうやら心の整理が出来たらしいデイビッドは、ふんと鼻を鳴らして、悪魔の称号に相応しい無慈悲な言葉を言い放つ。

「――んなもん、いざという時に盾にする為に決まっているだろう。それ以外にお前に何の使い道があるんだ? ん?」

 ――うん、やっぱり、そういう理由ですよね―!!大丈夫、分かってた!
 そうだよね、デイビッドは、そういう奴だよね! 別に、最初から期待なんかしてなかったから、全然大丈夫ですよ!
 なんかほっぺた赤くなっているデイビッド見て、(もしかしてマシェルに嫉妬して、考えるより先に体動いてたとか……?暴走してた自分に今頃気が付いて、今頃恥ずかしくなっちゃていたりなんかして……)なんてこと、そんな期待なんて、一ミクロンも抱いてなんかいなかったさ!
 脳内乙女劇場が繰り広げられたあげくに、そんな期待を粉々に打ち砕かれて、ほんのり泣きそうになってなんかいるはずがないだろう!
 視界がほんのり霞んでいる!? そんなの気のせいさ! 気のせいなんだよ! ……うう……

「――まあそれならそれでいいけど、あんまり私が表だって介入したら勝負としてはあんまり良くないんじゃない? 一応さ、一対一の男同士の対決なんだし。……まあ、アルクはデイビッドを女だと思っているけど」

 ……そんな内心の叫びをひた隠しにして、何でもないことのようにさらりと言葉を返す自分、流石だと思います。貴族令嬢の鏡。
 ……取り繕うことばかり上手になるね、本当。

「一言余計だ、馬鹿。……まあ、お前を盾にすんのはあくまで最終手段だな。男同士の勝負だとかはどうでもいいが、極力俺一人の力で逃げ切ったと思わせといた方が、後が楽だからな。第三者の手が介入したから、やり直しだとか言われたら面倒だ。出来るだけ、アルクにみつからねぇようにしろよ」

「……はあーい」

 口ではわざとらしいまでの良い子な返事を返しつつ、内心で首を傾げる。

 ……だったら、やっぱり私連れて逃げない方がいいんじゃ……。

 しかし、デイビッドの手は相変わらず繋がれたままで、どうも離す気はなさそうである。
 触れた掌から伝わる熱が、どうも落ち着かない。
 繋いだ手から、再び乙女チック劇場が開催しだしそうになるのを、必死で振り払いながら、改めて現状を分析する。

 現在のアルクとの距離、約30メートル。
 ……しかし、いつの間にこんな近くまで迫ってしまったのだろう。思い返しても、何がどうなって、ここまで追いつめられてんのかよく分からない。どうしてこうなった。
 月明かりしかない森の暗さと、生い茂る木々で姿が隠れているから、今のところアルクからこちらの居場所は見つかってはいないが、見つかれば簡単に捕獲されうる距離にいる。

 緊張で乾いた唇を、舌で舐めて湿らせる。

 ……さて、ここからどうやって逃げようか。
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