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アルク・ティムシーというドエム

アルク・ティムシーというドエム26

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『ルクレア。この村に来てから、ずいぶんと楽しそうにしているじゃないか。よい友人が出来たのかい?』

 父の問いに、私は微笑みながら頷く。

『ええ。お友達が出来たの。私をとても喜ばせてくれる、素敵なお友達が』

 ――掌の上で意のままに転がって、私の優越感を満たしてくれる玩具おもちゃが。



『クレア!』

 私の顔を見るなり、嬉しそうに顔を緩めて手を振るデイビッドの姿に、笑みが漏れる。
 私もまた大きく手を振りながら、駈け足でデイビッドのもとに向かった。

『おはよう! デイビッド。今日はどこに連れて行ってくれるの?』

『それは、見てからのお楽しみだ。――クレア、着いて来い』

 そう言ってデイビッドは私の手を握ると、私の返答も待たずに私の手を引いて駆け出した。

 ……ちょ、速い、速い!

 こら、野性児の君の足と、深窓の令嬢の私の細足を一緒にするんじゃない!

 内心では文句を零しながらも、私は黙ってデイビットについて行った。

 今回の目的はどこだろうか……あんまり、行程がハードなところじゃないといいんだが……。

 小山を越えて、谷を渡り、木々の間をすり抜けて。

 30分くらい経って、ようやく目的の場所についた。


『――どうだ、クレア! 綺麗だろう?』

 ドヤ顔で振り返るデイビッドが、片手で指し示すその場所、は。

『……わぁー……』

 ――どこにでもあるような、花畑だった。

 ……いや、綺麗だよ。色とりどりの花が咲いているし、うん、季節感があってとてもいいところだとは、思う。
 でも、花だってさして珍しい種類のものが生えているわけでもないし、特別感動するような場所ってわけではないな。

 こんなもんの為に、わざわざ30分も歩かんでも……。


 内心そんな冷めた感想を抱きながらも、表面上は感動しているかのように頬を紅潮させて、きらきらおめめで花畑を見つめてみせた。

『……すごく綺麗ね。とても素敵だわ……!』

『だろ?』

『昨日連れて行ってくれた、虹の滝壺もとても素敵だったけど、ここもすごく素敵ね。デイビッドは素敵な場所をたくさん知っているのね。すごいわ!』

 ……ちなみに虹の滝壺も、ふつーの滝壺である。高さが低くて水量も少ないので、迫力もない。絵になる植物が周辺に生えているわけでもない。
 単に、水が跳ねているので、陽の加減によっては、虹がかかることもあるってだけである。……ホースの水でもかかるよね、虹って。

 しかしそんな本心を隠した演技120%の大げさなヨイショに、デイビッドはドヤ顔でご満悦な様子である。

 ……いやはや、実に単純で愛らしいこと。

『おう。まだまだいっぱい、綺麗な場所も、面白い場所も知っているぞ。お前の滞在中じゃ回りきれねぇくらい、たくさん、な』

 そういって、デイビッドは私を真っ直ぐに見つめながら、白い歯を見せて笑う。

『全部、俺だけの秘密の場所だけど……クレア、お前にだけ特別教えてやる。光栄に思えよ』

『わぁ、嬉しい! ありがとう、デイビッド』

 ……まぁ、十中八苦、秘密でも何でもない、ふつーな場所なんだろうーな。どこも。

 好きだよね。子どもって。秘密基地でもなんでもない物、秘密基地って言ったりとか、さ。

 ……まぁ、ただ来ただけというのも何なので、ここは子供らしく花遊びでも興じてみるとするか。恐らく、デイビッドもそういう展開期待しているだろうし。

『デイビッドは、お花の冠の作り方知っている?』

『いや、……』

『作ってあげるわ。ちょっと待ってて』

 花と美少女わたし。これ、間違いなく、最強の組み合わせ。
 私は花畑の中にわけ入ると、手頃な花を摘んで、冠を編み始めた。うん、前世でも、うんと小っちゃい頃に作ったきりだけど、意外と覚えているもんだな。

 そんな私に明らかにぼうっと見惚れているデイビッド。……ふふん、これくらいで頬を染めるとは甘いな、少年よ。私のあざとさはそんなもんじゃないぜ?

 出来上がった花冠を掲げて、にっこりとデイビッドに向き直る。

『はい、完成! ……デイビッド、ちょっと屈んでくれる?』

『あ、ああ』

 屈んだデイビッドの頭の上に、花冠を載せた。

『わぁ、素敵。良く似合っているわ』

『……そうか?』

 手を叩いて大げさにはしゃいでみせると、デイビッドの顔が照れ隠しをするように仏頂面に歪む。だが、その口端がどこか緩んでいるから、非常に分かりやすい。

 ……まぁ、でも実際似合ってんな。客観的にみても。流石エンジェルフェイス。花が映えるわ。私より似合ってそうなところがムカつく。

『素敵。素敵。まるで王子様みたいだわ。デイビッド』

 ムカつくから、ここらで止めを刺すとするか。

『素敵よ。私の花の王子様。……なあんて、ね』

 恥らう様に両手で口元を隠して、こてんと首を傾げて見せる。

 あざとさ200%、ぶりっこ300%

 見る人が見れば鳥肌ものの演技臭満点の仕草だが、まだ幼いデイビッドには有効だったようだ。

『……っ―――!!!』

 一気に耳まで真っ赤になって、頭を抱えて唸るデイビッド。

 やっほい、デイビッド、撃ちーん! ストライク―!

 ふははは、超愉しいな。これ。
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