上 下
135 / 191
アルク・ティムシーというドエム

アルク・ティムシーというドエム8

しおりを挟む
 だけど、溜め息交じりに続けられたマシェルの言葉は、完全に予想外の物だった。

「どうせお前も、舞踏会のパートナーの申し込みが殺到して、困惑しているのだろう。私も先程、いくつかの申し込みを断って来たところだ。……普段は消極的な生徒も、舞踏会シーズンばかりは積極的にアタックを仕掛けてくるから、お互い難儀するな」


 ……へ?

 いや、私は別にそんなことで悩んでいるわけじゃは……て、あれっ!?

 マシェルの言葉に、ようやく私は自分が今置かれている状況の異常性に気が付いた。

「……ん? どうした、ルクレア。突然そんな風に顔を青くして」

「――ない……」

「? うん?」

「……私、今現在に至るまで、誰からも舞踏会のパートナーに誘われてないわ……っ!」

 口に出した途端、改めてその事実に打ちのめされる。

 ありえない。去年は引く手あまたで、休み時間の度に男子生徒が押しかけて来たというのに、何故!?
 処理が面倒臭くて、面倒臭くて、もう家の方に連絡下さいって完全に丸投げ状態しても尚、パートナーの申し込みをやめない生徒達が多かったのに……!
 今年は今まで、0って一体どうゆうこと?

 ……え、私もしかして一年の間に、魅力なくなってしまった?
 ボレア家という、ブランドすらなくなってしまった程に!?

「――それ、は……」

 驚愕に目を見開いたマシェルが言葉に詰まり、暫く視線をあちこちに彷徨わせてかた、そっと私から視線をはずした。

「……大丈夫だ、ルクレア。まだ舞踏会まで一週間以上あるから、おそらく皆誘いあぐねいているだけだろう。まだまだ、これからだ。悩むことはない」

 ……うわん、心底可哀想な子に同情するような、そんな反応やめろ――っ! 逆に傷つくだろうがぁ!

 マシェルの優しさが、とても胸に突き刺さる。

「……そ、そうよね。これからよね」

「……そうだぞ、ルクレア。ボレア家令嬢であるお前を、放っておくわけないだろう」

「そうよね! 私ほど、魅力的なパートナー、そういないものね!」

 胸を張ってそう言いながらも、口からは乾いた笑いしか出てこない。

 ……デイビッドすら、アルクという申込者(しかもアルクは三年なのに)がいたというのに、私は0.…く、屈辱的……。なんか女として負けた気分だわ。

 思わず項垂れる私に、マシェルがこほんと咳払いを一つ打つ。

「――それに、だ」

 思わず顔を見上げて、マシェルを見てしまった私は、瞬時に後悔をした。
 苦虫を噛む様な難しい表情を浮かべて、視線を横に逸らすマシェルの頬は、ほんのり赤く染まっていた。


「お前が、その……当日までパートナーが見つからないようなら、私がパートナーになってやってもいいぞ。……今のところ、誰とも約束をしていないしな」


 ――やべぇ、これ、うっかりまた、マシェルのフラグを立ててしまったっぽい。

「――優しいのね。マシェル。でもいいのよ? 私のことは別にそんな風に気にしなくて。貴方は貴方で誘いたい女性がいるでしょう? 私の為に、せっかくのチャンスが無駄になってしまったら、勿体無いわ」

「いや……残念ながら今のところ、これといって踊りたい相手はいないな。よく知らない相手と共にダンスを踊るよりも、それなりに気心が知れたお前の方が踊りやすいから、私としてもお前がパートナーになってくれるとありがたいな」

「……そんな妥協で私をパートナーに選んだら、結ばれることが出来なくてもせめてもの思い出にと、貴方と舞踏会で踊ることを夢見ている女生徒が悲しむわよ?」

「それは私のパートナーにと望む生徒たちの中から、誰か一人を選んだところで同じだろう。パートナーを務められるのは、一人だけだからな。それに叶うことがないと分かっている想いを抱く相手に、下手に期待を持たせる方が残酷だろう」

「……もしかしたら、パートナーを務めたことで、貴方がその生徒を好きになるかも……」

「ありえんな」

 向けられるマシェルの視線が余りに真剣で、マシェルの言葉の真意までしっかり伝わってきて、辛い。
 ……この状況で、マシェルはトリエットが好きだなんて寝ぼけた自己暗示、掛けられないわ。流石に。……もともと、そんなの単に自分が都合が良いように思いたいだけだってこと、本当は気づいてたし。

 表面的にはにこやかに笑みを浮かべながらも、こめかみの辺りに冷たい汗がだらだらと伝っていくのを感じていた。

 本当、どうすればいいの。こういう状況って。
 だれか、助けて。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢なのに下町にいます ~王子が婚約解消してくれません~

ミズメ
恋愛
【2023.5.31書籍発売】 転生先は、乙女ゲームの悪役令嬢でした——。 侯爵令嬢のベラトリクスは、わがまま放題、傍若無人な少女だった。 婚約者である第1王子が他の令嬢と親しげにしていることに激高して暴れた所、割った花瓶で足を滑らせて頭を打ち、意識を失ってしまった。 目を覚ましたベラトリクスの中には前世の記憶が混在していて--。 卒業パーティーでの婚約破棄&王都追放&実家の取り潰しという定番3点セットを回避するため、社交界から逃げた悪役令嬢は、王都の下町で、メンチカツに出会ったのだった。 ○『モブなのに巻き込まれています』のスピンオフ作品ですが、単独でも読んでいただけます。 ○転生悪役令嬢が婚約解消と断罪回避のために奮闘?しながら、下町食堂の美味しいものに夢中になったり、逆に婚約者に興味を持たれたりしてしまうお話。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。 貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。 そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい? あんまり内容覚えてないけど… 悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった! さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドを堪能してくださいませ? ******************** 初投稿です。 転生侍女シリーズ第一弾。 短編全4話で、投稿予約済みです。

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

処理中です...