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連載2

神との戦い17

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 体が動かないまま、火がすぐそばまで迫っている。
 会話以外の自由を封じられた私が、ここを脱出する方法なんてあるのだろうか。
 トリアスと対峙していた時以上に、絶対絶命な状況。
 あの時と違うのは、トリアスを倒さなければ後の世に災いがふりかかったかもしれないけど、予言者の場合はその心配はないこと。
 彼は自ら滅びを望んでいて、そもそも生き延びる気がないこと。

 そして……。

「……無事に生きていてくれるなら、私は死んでも構わないと思っていたけど、いざこうなるとあの時の私が羨ましい自分もいるな……」

 まばたきした目から一筋、涙が頬を伝ってこぼれ落ちるのがわかった。

 
 トリアスと対峙した時の最大の違いは、この場所には兄様はいないこと。
 兄様は無事で……私だけがここで予言者に殺されるということ。

 私が死んでも、兄様は無事生きていくれることが嬉しい私がいる。

 けれどあの時。
 兄様と抱き合ったまま、一緒に死後の世界に旅立つ覚悟をしたあの時の自分が、たまらなくうらやましい自分がいるのも、事実だった。

「……兄様……」

「無粋ですね。最期の時に、目の前にいる私ではなく、別の男を呼ぶなんて」

 涙の筋が残った頬に、予言者がそっと口づける。

「私が愛しているのは、セーラなはずのに……妬けるじゃないですか。そんな風に泣かれると」

 予言者にまっすぐ顔を覗き込まれた瞬間、彼から視線を逸らせなくなった。
 かろうじてまばたきはできるけど、何秒か目をつぶると、目に見えない何かから無理やり瞼をこじ開けられる。

「死ぬその瞬間まで、私だけを見ていてください。憎しみでいいから、私のことだけを考えてください。……ここにはもう、私とあなた以外は誰も来られないのですから」

「……そんなこと、ない……」

「はい?」

「兄様が、来てくれるもん」

 ぶわりと涙が溢れ、視界が滲んだ。

「……私のピンチの時にはいつだって、兄様が来てくれるんだもん……!」

 トリアスに宣言した時と違って、確信なんか全っくなかった。
 予言者は……今のルトーは、あの時のトリアスとは格が違う。
 ろくに畏怖の感情を受けてこなかったトリアスと違って、彼は聖女に向けられた信仰の力を自分のものにしてきた。
 今の彼の力は、おそらく全盛期とそう変わらないだろう。
 とても敵う相手じゃない。
 そんな彼が、ここには誰も来られないと言っているんだ。間違いなく大聖堂の周辺には念入りに結界を張っている。兄様が駆けつけれるはすがない。

 だからこれはただの私の願い……いや、子どもの駄々だ。

 こんな形で、兄様との約束を果たせないまま死ななければならない現実を受け入れたくなくて、子どものように泣いて駄々をこねているだけなんだ。


 
 
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