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連載2
対決10
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私の問いかけに、ユーリアは勝ち誇ったように笑った。
「ええ。アシュリナを殺したことで、私は過去の全ての記憶を思い出したのよ。記憶を思い出して、本当の私になることができたの」
「……だから……」
「蓄積された記憶があるから、今の私は過去のどの代の私よりも力があるわ。何百年もの歳月をずっと、【厄】を操ることに集中し続けたのだから当然よね。たかだか数十年分の記憶しかないあなたとは格が違うのよ」
そう言ってユーリアは両手を広げた。
その手に、どこからか出現した成熟しきった厄が集中し、ユーリアの腕全体を覆った。
「この亜空間は、私が【厄】を収集している器に直接つながっているの。この空間の中なら、私はどんなに成熟して制御の効かなくなった【厄】も、自在に操れる」
にいっと口端を釣り上げたユーリアの顔は醜悪そのもので、自慢の美貌は見る影もななかったが、おそらく本人は気づいていないのだろう。
まるで少女のように無邪気に、どこまでも上機嫌で【厄】をボールのようにもてあそびながら、ユーリアは続けた。
「何度殺してやっても、私が生きている限りしつこく転生して蠅のように付き纏ってくるだろうから、今回はやり方を変えることをしたわ。あなたは私とルイス陛下しか入れないこの亜空間で、飽和しきった厄の器になり続けるの。私は慈悲深いから、聖女としての力は封じないし、生きていけるだけの最低限度の生活は保障してあげる。だから、せいぜい私とルイス陛下の為に【厄】を結晶化し続けなさい?」
「……そうやって私に制御できないくらい成長した【厄】の結晶化を任せることで、あなたは【厄】の排出を恐れることなく、聖女として力を発揮できるというわけね」
【災厄の魔女】は人の傷病を取り除くことはできても、封じることはできない。
他の傷病やユーリアの思想を吸収して成長した【厄】は、やがてユーリアの自身の力でも制御できなくなり、人の器を求めるようになる。
【災厄の魔女】の力は、本来は誰かの犠牲を前提にしなければ行使できないものなのだ。私がただ疲弊するだけの聖女の力と比べて、代償が大きくて不便なように思うけど、その力を与えたのが混沌の神トリアスだと考えれば納得できる。
けれど【厄】を封じることのできる私さえいれば、ユーリアの力は聖女の癒しの力と大差なくなる。寧ろ有事の際は、【厄】を使って敵を攻めることができる分、【災厄の魔女】の力の方が一層重宝されるかもしれない。
ユーリアはこの亜空間に私を閉じ込めることで、よりセーヌヴェットの為に役立つ、本物の聖女になるつもりなのだ。
「ええ。アシュリナを殺したことで、私は過去の全ての記憶を思い出したのよ。記憶を思い出して、本当の私になることができたの」
「……だから……」
「蓄積された記憶があるから、今の私は過去のどの代の私よりも力があるわ。何百年もの歳月をずっと、【厄】を操ることに集中し続けたのだから当然よね。たかだか数十年分の記憶しかないあなたとは格が違うのよ」
そう言ってユーリアは両手を広げた。
その手に、どこからか出現した成熟しきった厄が集中し、ユーリアの腕全体を覆った。
「この亜空間は、私が【厄】を収集している器に直接つながっているの。この空間の中なら、私はどんなに成熟して制御の効かなくなった【厄】も、自在に操れる」
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「何度殺してやっても、私が生きている限りしつこく転生して蠅のように付き纏ってくるだろうから、今回はやり方を変えることをしたわ。あなたは私とルイス陛下しか入れないこの亜空間で、飽和しきった厄の器になり続けるの。私は慈悲深いから、聖女としての力は封じないし、生きていけるだけの最低限度の生活は保障してあげる。だから、せいぜい私とルイス陛下の為に【厄】を結晶化し続けなさい?」
「……そうやって私に制御できないくらい成長した【厄】の結晶化を任せることで、あなたは【厄】の排出を恐れることなく、聖女として力を発揮できるというわけね」
【災厄の魔女】は人の傷病を取り除くことはできても、封じることはできない。
他の傷病やユーリアの思想を吸収して成長した【厄】は、やがてユーリアの自身の力でも制御できなくなり、人の器を求めるようになる。
【災厄の魔女】の力は、本来は誰かの犠牲を前提にしなければ行使できないものなのだ。私がただ疲弊するだけの聖女の力と比べて、代償が大きくて不便なように思うけど、その力を与えたのが混沌の神トリアスだと考えれば納得できる。
けれど【厄】を封じることのできる私さえいれば、ユーリアの力は聖女の癒しの力と大差なくなる。寧ろ有事の際は、【厄】を使って敵を攻めることができる分、【災厄の魔女】の力の方が一層重宝されるかもしれない。
ユーリアはこの亜空間に私を閉じ込めることで、よりセーヌヴェットの為に役立つ、本物の聖女になるつもりなのだ。
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