119 / 225
連載2
決戦の時24
しおりを挟む
生まれた国を捨てて他国に亡命することに成功したとしても、その国にきちんと適応して職を得て、新しい国民の一人として生活できるとは限らない。
職がなければ、人は生きる為に犯罪に手を染め、難民の母数が増えれば増える程その数は増える。
「よくそのような状況をアニリドが許していますね。アシュリナの時代のアニリドなら、荒れた国を建て直すという大義名分でセーヌヴェットに攻め込んでいたでしょうに」
父様の活躍によって撤退を余儀なくされたアニリド国と、セーヌヴェットの遺恨は深い。
セーヌヴェットを手にすることは、アニリド国にとって地理的な利があるし、今の荒廃したしたセーヌヴェットであったとしても併合することができれば十分旨味はあるように思う。
それなのに何故、アニリドはこの状況を黙認しているのだろう。
「それはアニリドが自国民が【災厄の魔女の呪い】に侵されることを恐れているからです」
「アシュリナの呪いに?」
「セーヌヴェットに都合の悪い人間ばかりが【災厄の魔女の呪い】に侵されている現状をみて、未だに呪いの原因が故アシュリナ王女にあると思っている他国の王はいませんよ。政に携わる人間なら、誰しもある程度真実に気づいています。その真実を公にするかどうかは、国によって対応が違うだけで」
ルシトリアが未だに【災厄の魔女の呪い】の原因を訂正していないせいか、シャルル王子はどこかばつの悪そうな表情で笑いながら、言葉を続けた。
「アニリドは恐らく、ルシトリア以上に呪いについて理解できていない。だからこそ今のアニリドは、呪いを恐れ、他のどの国以上に、ルシトリアの聖女である貴女が災厄の魔女ユーリアを打ち倒すことを待ち望んでいます。ユーリア逝去の話を耳にするやいなや、民を救うという大義名分を掲げてセーヌヴェットに攻め込むつもりでしょう」
「……せっかく父様が守ったセーヌヴェットが、私のせいでアニリドに併合されてしまうのは複雑ですね」
「いや、ディアナ。セーヌヴェットは最早頭が変わってくらいではどうしようもない。一度滅びるべきだと俺は思う。多分父さんだって同じ意見のはずだ。……本当なら、攻め込むのはアニリドよりルシトリアの方がありがたいけどな」
「マーナアルハの森に国境があるルシトリアにとって、セーヌヴェットを併合する利点はあまりないのですよ。マーナアルハの森は強力な護符がなければ立ち入れない危険地帯ですし、何よりあの森にはルシトリア国内随一の剣士であるお父様がいます。たとえアニリドがセーヌヴェットの併合に成功したところで、あそこを突破してルシトリアに攻め込むのはまず不可能でしょう」
「……勝手に、父さんを国境の警備要員に組み込むなよ。ルシトリア王宮から、何の手当ももらってないぞ」
「父上は必要なら、お父様に辺境伯の地位を授与するくらいの心づもりはあると思いますよ? お父様の拒絶を見越して、今は特に何もしていないだけで」
「いや……辺境伯って、国にとってかなり重要な身分でしょう。そんな軽々しく授与できるものじゃ……」
「だからですよ」
職がなければ、人は生きる為に犯罪に手を染め、難民の母数が増えれば増える程その数は増える。
「よくそのような状況をアニリドが許していますね。アシュリナの時代のアニリドなら、荒れた国を建て直すという大義名分でセーヌヴェットに攻め込んでいたでしょうに」
父様の活躍によって撤退を余儀なくされたアニリド国と、セーヌヴェットの遺恨は深い。
セーヌヴェットを手にすることは、アニリド国にとって地理的な利があるし、今の荒廃したしたセーヌヴェットであったとしても併合することができれば十分旨味はあるように思う。
それなのに何故、アニリドはこの状況を黙認しているのだろう。
「それはアニリドが自国民が【災厄の魔女の呪い】に侵されることを恐れているからです」
「アシュリナの呪いに?」
「セーヌヴェットに都合の悪い人間ばかりが【災厄の魔女の呪い】に侵されている現状をみて、未だに呪いの原因が故アシュリナ王女にあると思っている他国の王はいませんよ。政に携わる人間なら、誰しもある程度真実に気づいています。その真実を公にするかどうかは、国によって対応が違うだけで」
ルシトリアが未だに【災厄の魔女の呪い】の原因を訂正していないせいか、シャルル王子はどこかばつの悪そうな表情で笑いながら、言葉を続けた。
「アニリドは恐らく、ルシトリア以上に呪いについて理解できていない。だからこそ今のアニリドは、呪いを恐れ、他のどの国以上に、ルシトリアの聖女である貴女が災厄の魔女ユーリアを打ち倒すことを待ち望んでいます。ユーリア逝去の話を耳にするやいなや、民を救うという大義名分を掲げてセーヌヴェットに攻め込むつもりでしょう」
「……せっかく父様が守ったセーヌヴェットが、私のせいでアニリドに併合されてしまうのは複雑ですね」
「いや、ディアナ。セーヌヴェットは最早頭が変わってくらいではどうしようもない。一度滅びるべきだと俺は思う。多分父さんだって同じ意見のはずだ。……本当なら、攻め込むのはアニリドよりルシトリアの方がありがたいけどな」
「マーナアルハの森に国境があるルシトリアにとって、セーヌヴェットを併合する利点はあまりないのですよ。マーナアルハの森は強力な護符がなければ立ち入れない危険地帯ですし、何よりあの森にはルシトリア国内随一の剣士であるお父様がいます。たとえアニリドがセーヌヴェットの併合に成功したところで、あそこを突破してルシトリアに攻め込むのはまず不可能でしょう」
「……勝手に、父さんを国境の警備要員に組み込むなよ。ルシトリア王宮から、何の手当ももらってないぞ」
「父上は必要なら、お父様に辺境伯の地位を授与するくらいの心づもりはあると思いますよ? お父様の拒絶を見越して、今は特に何もしていないだけで」
「いや……辺境伯って、国にとってかなり重要な身分でしょう。そんな軽々しく授与できるものじゃ……」
「だからですよ」
0
お気に入りに追加
3,720
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。
せいめ
恋愛
婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。
そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。
前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。
そうだ!家を出よう。
しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。
目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?
豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。
金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!
しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?
えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!
ご都合主義です。内容も緩いです。
誤字脱字お許しください。
義兄の話が多いです。
閑話も多いです。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。