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連載2

決戦の時22

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 そう言って足取り軽く馬車に乗り込んで行ったシャルル王子に、兄様も私もしばらく何も言えなかった。

「……まるで行楽に出かけるみたいで、まるで緊張感がないな。あいつ。今の状況でセーヌヴェットに向かうことが、どれだけ危険なのか本当に理解しているのか」

「うん……でもシャルル王子は、本当はちゃんとわかっていると思うよ」


『シャルル兄様……本当に、行ってしまうのですか』

 出発の前、ミーシャ王女に最後の挨拶をしに行った時に、たまたま見てしまった。

『本当に……本当に、シャルル兄様が行く必要があるのですか。兄様じゃなくても、いいのではないですか』

『ミーシャ……』

『私は嫌です! 聖女様と聖女様のお兄様、そしてシャルル兄様のおかげで私はこうして生きながらえることができたのに……また、シャルル兄様と、こうして共に生きていくことができるのに。それなのにどうして、自ら死地に出向くシャルル兄様を黙って見送らなければならないのですか!』

 胸元に顔を埋めてすすり泣くミーシャ王女の体を優しく抱きしめながら、シャルル王子は微笑んだ。

『ごめんね。ミーシャ。もしかしたら、聖女様の身分を証明するのは別に私じゃなくて構わないのかもしれない。他にいくらだって方法はあるのかもしれない』

『なら!』

『でもね。ミーシャ。それでも「私」が聖女様の為の身分証明の役割を果たしたいと思うんだ』

 ミーシャ王女の髪を優しく指ですきながら、シャルル王子は続けた。

『私はただ、聖女様の役に立ちたい。たとえそれが自分の命を捨てることにつながったとしても』

『シャルル兄様……』

『大丈夫。ミーシャ。私に何があったとしても、この国には兄上たちがいるし、お前がいる。私が死んでもルシトリアは揺らがない』 

『ルシトリアが揺らぐとか、そういう問題じゃないって、わかってるでしょう……』

『うん。わかってる。本当、ごめん。ミーシャ。お前にさみしい想いをさせるかもしれない』

『兄様の馬鹿……誰よりも慈しんでくれた大切な兄を失って、さみしい程度で済むわけがないでしょう……』

 さめざめと泣くミーシャ王女を抱きしめながら、シャルル王子は黙って微笑み続けていたから、私はミーシャ王女に挨拶するのをやめて、その場を去った。
 あの場所には、家族以外は入っていけないと思ったから。

「全てをわかっててーーそれでもなお、セーヌヴェットに同行することを選んでくれたんだよ。私の為に」

「…………」

 苦々しい顔で兄様は馬車を見据える。
 しばらく二人で黙って馬車を見つめていると、先に馬車に乗り込んでいたシャルル王子が窓からひょっこり身を乗り出した。

「聖女様! お兄様! 早く行きましょうよー。あまり出発が遅くなると、宿に着く前に日が暮れてしまいますよ? 今夜はどの村に泊まりましょうか? また一人だけ別の部屋に泊まるのはさみしいので、今度は三人一緒に泊まれる大きな部屋にしましょうね!」

「……まあ、強がりでも何でもなく、あれはあれで素の態度なんだろーな、ってのがシャルル王子のすごいところなんだけど」

「誰がお前をディアナと同じ部屋に泊まらせるか!」

「でも今の状況を考えてたら、部屋を分ける方が危険じゃありません?」

「母さんから預かった護符があるから問題ない!」



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