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聖女の日々45

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「聖女様……貴女は愚かですね」

 辛辣なマナエさんの言葉に、思わず、うっと声が出た。
 ……自分がけして、賢くない自覚はある。

「何故、負わなくても良い傷を、わざわざ自ら背負おうとするのか、理解に苦しみます。貴女は『聖女』というだけで、既に常人なら負わなくてもいいものをたくさん抱えているのに」

「それは……」

「……まあ……嫌な気はしませんけどね。貴女が、私に全てを背負わせまいとしていること自体は」

 そう言って、マナエさんは小さく笑った。
 やっぱり微笑みはぎこちなく不自然なものだったが、その眼差しはどこか、母様が私に向けるそれと似ていた。

「分かりました。聖女様のお言いつけ通りに致しましょう。貴女は愚かだから、私が詳細を告げなかった場合、救えなかった人を真実以上に膨らませて苦しむことになるのは目に見えてます。それならいっそ、真実を把握しておいた方が良いでしょう」

「……すみません」

「謝るようなことではないですよ。どんな患者だって治療をしたらカルテを纏めるのが、医者です。それを貴女に見せて、経過を報告することはさして苦になりません」 

「……ですが、マナエさんには、ただでさえ通常であればしなくても良い治療をして頂いているのに……」

 私の言葉に、マナエさんは大きくため息を吐いた。

「……聖女様。貴女は、こんなに若くて愛らしいのに、随分とまあ、人に甘えるのがお下手なのですね」

「え……」

「私は、貴女のお母様より、もっと年長です。甘えて寄りかかって、責任を全て押し付けるくらいがちょうど良いかと」

「そんな……こと」

 できるはずもない。
 マナエさんは……知り合ったばかりの、他人なのに。

「聖女様。お若い貴女には分からないかもしれませんが、甘えるという行為は、信用することと同義なのですよ。他人に甘えられない人間は即ち、他人を信用できない人間なのです」
 
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