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セルドアイベント?7
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「……セルドア。来なくていいって言ったのに」
口もとに当てられたままの掌の隙間から、小さくこぼした私の言葉を耳聡く拾って、セルドアは笑った。
「貴女が、泣いている気がしたので」
「……泣いてないよ」
「『まだ』泣いていない、でしょう?」
その言葉があまりに優しかったから、鼻の奥がツンとなった。
……だめだ。だめだ。私が泣いちゃあ。
私のことで今、姉さんが、泣いているんだから。
音もなく転移魔法で現れたセルドアに、しばらく呆気にとられていた姉さんだったが、すぐにまた怒りで顔を歪めた。
「っ部外者は黙っていてください! そもそも貴女がリッカを騙して、ドラゴンの世話なんかさせたから!」
「部外者、ですか。家族が一番リッカのことを大切に思っているという思い込みも捨てられたらいかがですか。血の繋がりはないし、共に過ごした時間もまだ短いですが、それでも私は貴女と同じくらいリッカを想っている自信がありますよ。……それに、私はリッカを騙してなんかいません。あくまで騙したのは、反対するであろう、貴女たち家族だけ。リッカは全て承知したうえで、この仕事を選んだのですよ」
姉さんの目が見開かれ、私へと向けられる。
裏切られたと、いうようなその表情が辛くて目を伏せると、口もとに当てられていた手が、今度は私の目もとを覆ってくれた。
「初めて知った事実ばかりで、情報処理しきれていないようですね。ずいぶん感情的になられてますし、今日は頭を冷やすために一度お引き取りください。明日お迎えにあがりますので、その時に改めてお話しましょう」
「っな、勝手なことを……!」
「--それでは、また」
聞こえて来た姉さんの怒鳴り声は、瞬く間に消えて行った。セルドアの手に視界が隠れて、何が起こってるか分からない。
しんと静まり返ってから、セルドアはゆっくり私の目もとから手を離した。
さっきまでそこにいた、姉さんはもちろん、父さんや母さんの姿はない。
「みんなは……?」
「転移魔法で家までお帰りいただきました」
「あ、そうなんだ……って、え!?」
--セルドアの転移魔法って、セルドアに触れてなければ、亜空間に取り残されるんじゃ……!?!?
口もとに当てられたままの掌の隙間から、小さくこぼした私の言葉を耳聡く拾って、セルドアは笑った。
「貴女が、泣いている気がしたので」
「……泣いてないよ」
「『まだ』泣いていない、でしょう?」
その言葉があまりに優しかったから、鼻の奥がツンとなった。
……だめだ。だめだ。私が泣いちゃあ。
私のことで今、姉さんが、泣いているんだから。
音もなく転移魔法で現れたセルドアに、しばらく呆気にとられていた姉さんだったが、すぐにまた怒りで顔を歪めた。
「っ部外者は黙っていてください! そもそも貴女がリッカを騙して、ドラゴンの世話なんかさせたから!」
「部外者、ですか。家族が一番リッカのことを大切に思っているという思い込みも捨てられたらいかがですか。血の繋がりはないし、共に過ごした時間もまだ短いですが、それでも私は貴女と同じくらいリッカを想っている自信がありますよ。……それに、私はリッカを騙してなんかいません。あくまで騙したのは、反対するであろう、貴女たち家族だけ。リッカは全て承知したうえで、この仕事を選んだのですよ」
姉さんの目が見開かれ、私へと向けられる。
裏切られたと、いうようなその表情が辛くて目を伏せると、口もとに当てられていた手が、今度は私の目もとを覆ってくれた。
「初めて知った事実ばかりで、情報処理しきれていないようですね。ずいぶん感情的になられてますし、今日は頭を冷やすために一度お引き取りください。明日お迎えにあがりますので、その時に改めてお話しましょう」
「っな、勝手なことを……!」
「--それでは、また」
聞こえて来た姉さんの怒鳴り声は、瞬く間に消えて行った。セルドアの手に視界が隠れて、何が起こってるか分からない。
しんと静まり返ってから、セルドアはゆっくり私の目もとから手を離した。
さっきまでそこにいた、姉さんはもちろん、父さんや母さんの姿はない。
「みんなは……?」
「転移魔法で家までお帰りいただきました」
「あ、そうなんだ……って、え!?」
--セルドアの転移魔法って、セルドアに触れてなければ、亜空間に取り残されるんじゃ……!?!?
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