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姉さんの朝ごはん

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 ありがたいことに、中世ヨーロッパ風世界でありながら、ご飯や醤油も存在していて、普通に口にすることはできる。
 朝ごはん作りが母さんの時は和食(こっちの世界では、ワーショクという駄洒落にしか聞こえない言葉で分類わけしている。……私の名前といい、つっこみどころが多い世界だ)多めだけど、姉さんの時は洋食多め。
 卵かけご飯の未練はあれど、どっちもとても美味しいので、文句はない。

「母さんは、また熱出して寝てるの?」

「うん。そうなのよ。最近はすっかり元気だったのに、やっぱり季節の変わり目は体が弱くなるのよねぇ……。でも、いつもみたいに、すぐに良くなるとは思うけど」

「看病が必要なら代わるから、姉さんも無理しないでね。姉さんまで、倒れちゃわないか、心配だよ」

「そうはいかないわよ。リッカには、小さい頃からずっと父さんの手伝いをやってもらっているのだから、せめて家のことくらいは私がしないと」

 母さんも姉さんも、生まれつき病弱で、疲労が蓄積し過ぎると、すぐに熱を出して倒れてしまう。
 一方私は、父さんに似て健康優良児。見かけは、大変愛らしいが(顔も父さん似だけど、父さんは実は可愛いよりのイケメン顔なのだ……マッチョで分かりづらいけど!)、日々のコカトリスとの戦いで体は鍛え抜かれた鋼の体も持っている。(筋肉の付き方ばかりは、父さんに似なくて本当によかったと思う)
 
 だから、家事は母さんと姉さん、コカトリスの世話は父さんと私が担当すると構図が、当然のごとく出来上がったわけだけど。

「はい。トーストと、オムレツね」

 ……おっと。焼いてとしか言わなかったから、卵焼きのつもりがガッツリ洋なオムレツになってしまった。
 まあ、いーや。ちゃんと父さんの分も作ってくれたみたいだし。

「ありがとう。姉さん。……うん、すごく美味しい!」

 トーストは外側さっくさく。中モッチリ。
 オムレツは、ふんわりとろっと、絶妙な火加減。

 相変わらず、姉さんの料理は最高だ!

 夢中で食べる私を、微笑ましげに見ていた姉さんだが、すぐに物悲しそうに、マツエクなみに長い地睫毛を伏せた。

「……こんなことしか出来なくて、ごめんね。リッカ。五歳も年下の貴女に、きついコカトリスの世話を任せきりにしてしまって」
 
 オムレツを口に運ぶ手が、思わず止まる。

 どうも姉さんは、自分が病弱故にコカトリスの世話が出来ないことを、ずっと気に病んでいるようだ。

 ……姉さんの家事は完璧だし、適材適所ということで、そんな気にしないでくれて良いんだけど。

 遊び惚けていた元ヤンの前世兄ちゃんと違って、今世の姉さんには私は全く不満はない。

 ご飯美味しいし。美人で目の保養になるし。いつもいい匂いするし。(力仕事で汗臭くなるのは、私だけでいい)


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