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第三章

アイラはフィクスと約束する

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「ベロニカとカスバールへ?本気ですの?」

「ああ。たぶん、あのまま行かせたら帰って来ないと思う」

お兄様。中々無茶な事仰いますわね?
これがエルハド様が統治されていた頃なら許されたかも知れませんが、一国の騎士がプライベートで平民と他国に向かうなんて、許されませんわよ?

「ベロニカはカスバールに行けば治るのですよね?でしたら、無理にこちらに連れ帰る必要が、あるのですか?」

「ないな。彼女はもう自由の身だ」

ですわよね?それで、お兄様は、そのお答えをお持ちなのでしょうか?

「彼女と結婚する」

「・・・・・・・・お兄様。寝言は寝てる間にお願い致します」

私。今平静を装っておりますけれど?膝も腕もガクガクしておりますわよ?え?お兄様がベロニカと結婚?
二人は今付き合ってすら、いませんわよね?
え?お兄様、変なものでもお召し上がりになられました?

「彼女が向こうに行っている間に彼女を俺に振り向かせる。だから、この家に迎え入れる準備をして欲しい」

「・・・・本気、ですの?」

「もし、駄目なら俺はここには戻らない。もし、そうなった時のことをアイラとヨシュアに頼みたい。この家の事情知っているな?いずれ俺達は平民とそう変わらない生活をする事になる。領主であってもそこに身分差は無くなるだろう。だが、当たり前だがそれを納得しない奴らもいる。そいつらが我が家を利用しようと目論んでいる。決して奴等に隙を見せるな。俺が居なくなればそれだけこの家の力も失くなるがその分、アイラ、お前が狙われる」

嫌になりますわね。本当に。
貴族として生まれ、その責任を果たすため努力し生きていたというのに、いずれそれも必要無いものになるのですから。でも、わかっております。私、結構賢いですので?

「あの方を振り向かせるのは大変だと思いますわよ?ハイト様の苦労を側で目にしておりますのに。お兄様はそれ以上のご負担になるのでは?何故、彼女なのです?」

「あはは。そうだな。なんでかな?」

あ、理屈ではないんですのね?
私初めて恋愛に対する意見がお兄様と合致致しましたわ。

「ベロニカには内緒にしてくれよ?多分知られたら全速力で逃げられる」

「ですわね。わかりましたわ。私達だけの秘密にしておきます」

それにしても、ベロニカが不憫ですわね。
知らぬ間にこんな話を進められて、私もそうでしたから分かりますわ。絶対、拗れるでしょうね?

「あと。ゼクトリアム家の事だが」

「はい。大樹でしょうか?」

「ああ。セルシス様が気付きそうだ。まだハイトの母親がいるから時間はあると思うが、もし、万が一にもあの方に何かあったら、ハイトを助けてやって欲しい」

「・・・・私達に、何が出来るのです?」

「ハイトが一人になった時、一体何が起こるかはデズロ様にさえ分からない。それでも、ゼクトリアムを守るのが本来の俺達の役目だからな」

ティファ。
私、貴方に言えない事が山程あるのです。
他の事は素知らぬ振りで通してきました。でも、これは。

「・・・ティファに、言わなくても良いのでしょうか?」

「あの二人はまだ付き合ってもない。それなのにハイトの事情を俺達が勝手に言う事なんて出来ない。それに、それはハイトの口からでないと駄目だろ」

「・・・・でも、後で知らされる事で取り返しが付かなくなる事もありますわ。ハイト様はもう、覚悟を決めてらっしゃるのでは?だから、ティファに想いを伝えたのでしょう?」

「え?アイツ、ティファに言ったのか?あれ?宣言ってそういう?」

お兄様!!にぶ!!あれだけ分かりやすければ誰だって分かりますわよ?空気読めない系ヨシュア様も気付いておりましたわ!前ちゃんと見えてますの?

「まだ、付き合ってはおりませんけど、時間の問題なのでは?ティファの答え次第ですけれど」

私が考える限りティファもハイト様の事そういう目で見てらっしゃると思うのですけど。なんせティファですから。断言は出来ませんわ。あの方奇想天外過ぎてついて行けない事もありますので。

「ハイトを信じるしかないな。アイツ昔から絶対に欲しいと思うものは手に入れて来たからな。手段選ばずだったけど。なんでハイトがそうやって生きて来たのか俺は知ってるから・・・最後まで自由にさせてやりたい」

初めて、その話を聞いた時は怖くて眠れませんでした。
もし、自分がその役目を背負わなければならないとしたらと想像して。それに、信じられなかったのですわ。
あんな、お伽話のような話。

「ハイトはもうすぐ20歳になる。もう、ここまで来たらそのまま普通に爺さんになるまで人として生かしてやりたいだろ?」

ごめんなさいティファ。
貴方に伝える事が出来なくて。でも、きっとそれを知ってもティファは変わらないと思いますわ。

「大樹には悪いが。ハイトをあちらに返すわけにはいかない。アイツはもう人間なんだから」

きっと今まで通り変わらずハイト様の側で料理を作り続けると思いますわ。きっとそうですわ。

「約束致しますわ。ヴァンディル家の名にかけて。ハイト様を影でお守り致します」

お兄様はそんな事より、ご自分の事を心配なさったらいかがですか?本当にここに帰って来れないかも知れませんわよ?それにしても、やはりお兄様追いかけられるより追いかける方が性に合ってらっしゃるのですね?血を感じますわ!私達やはり似てますわね?
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