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星聖エステレア皇国編
鉢合わせ
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マーヴスネットでのアザー暴走から、町は異界の星詠みが来ていると騒ぎになってしまい、わたしは逃げるように出て行った。
アザーの一掃をわたしがやった確証はないと思ったけれど、異界の星詠みがいるという騒ぎ自体があのローダー皇子を呼んでしまうのではないかって怖かったから。
さすがに国境を越えてまで一国の皇子が来るかは疑問に思う。でも、もしもがあれば……だからわたしは逃げた。
だけど逃げた先ではルジーとノーヴの追求が待っていて。
「エイコ……なぁ、聞いて欲しくないって分かってる。それでも本当の事、聞きたい。エイコの力になりたいんだよ!」
「本当の事って言っても……」
この世界でのわたしの事で、何か確信を持って話せる内容なんて一つもない。言い淀むわたしの手を取ってルジーは真剣に見つめてくる。
「何でも良いんだ。抱えてるもの、話してくれよ。もしエイコが隠したい事があるなら、協力だって出来るかもしれないだろ! なぁ、ノーヴもそう思うよな!?」
「まぁ……そうですね。少なくとも貴方お一人で抱えるよりは、やり易くなるのではないでしょうか」
「……」
「エイコ。信じてくれよ」
真摯なルジーの眼差しに心が揺れる。二人を信じて良いの? でも確かに、いつまでもわたし一人の胸に秘めていたって無駄な時間を過ごすだけかもしれない。
それなら誰かに話して、解決法を探す方が前向きかもしれない。
ただ……。
「話したら、本当に巻き込んじゃうかも……」
「良い! 巻き込めよ。あんなの見たら今さらだ」
「あんなの?」
「エイコから青い光が出て、そしたらアザーも光に包まれて崩壊した。オレも信徒だ。聞いた事くらいある。青は星詠みさまが扱う色だって!」
「……光、わたしから出てた……?」
おそるおそる訊いたら、二人は力強く頷く。じゃあ、これまでに何度か見た煌めきもわたしから……?
茫然とするわたしの手が、強く握られる。促されてると感じた。
「……分かった。本当の事、話す。信じられないかもしれないよ」
「信じる!」
食い気味なルジーの返事に少し微笑った。
三人で木陰に座り、一度深呼吸して覚悟を決める。話すことでどうなるか分からないけど、前を向きたいから。
「ーー話してくれてありがとな。エイコ」
この世界に来てからの事を話し終えた時、ルジーからそんな言葉を貰った。その途端、身体が軽くなった心地になる。
(わたし……知らない内にすっかり縮こまって、固くなってたんだ)
誰にも話せなかった。事態がどう転ぶかが怖くて、でもいつまでも怯えていても苦しい時が続くだけだったんだと、ようやく気付く。
「エレヅ皇室が貴方を異界の星詠みと……ふむ。しかしその存在はエステレアの地と星詠みさまによってのみ喚ぶことの叶うものの筈。貴方が異界の星詠みさまだとすると矛盾が生じますね」
「じゃあ、やっぱりエレヅの誤解なのかな」
「いや、それも考えにくいでしょう。星詠みさま召喚の話はあまりに有名。その上で貴方をそう呼んだのなら、何か確信があってのことなのでしょうな」
「ウラヌス達が時々隠れたり逃げたりするような行動を取ったのは何だったんだ?」
「エイコ嬢の正体を知っていた……あるいは疑っていた? しかしそうなると、そのウラヌス殿達は星詠みさまを保護しに来た存在になる。危険を冒しても星詠みさまを保護する者といえば……エイコ嬢、まだ隠しておられる事がありますね」
「え!?」
ノーヴの発言にルジーが声を上げた。反射的に口を噤んだわたしに、二人から非難するような視線が送られる。
<話すって、言っただろ>。
ルジーの言葉にわたしは、白旗を上げた。
「……ウラヌスはエステレアの皇子だったの。オージェとシゼルはその臣下」
「じゃあもう決定だろ!! マジかよ!?」
「で、でも! エステレア宮殿にはもう異界の星詠みがいたの! わたしと同じくらいの歳の女の子で、ウラヌスや皇帝陛下からそう扱われてるって、本人が言ってた!」
「……ふむ。それが勇壮なる剣の話していた存在でしょうか? ですが異界の星詠みさまがお二人も召喚されるなど、聞いた事がありませんが……」
わたしが投下した新しい情報に、二人はまた混迷の中に戻った顔になる。
わたし……何者なんだろう。それか、何者でもないのかな。
「いっそ宮殿へ戻り、皇子に事情をお訊きした方が良いのでは?」
「……わたしが星詠みじゃなかったらウラヌス達に迷惑を掛けちゃう。優しいから、きっとまた面倒見てくれようとすると思う。それは……嫌なの」
「まずその前提が間違いの可能性はありませんか」
ノーヴの指す意味がよく分からなくて彼を見る。わたしの表情だけで察してくれたのか、ノーヴは続けた。
「今の状態を纏めるとエイコ嬢は星詠みさまとも言えるし、星詠みさまでないとも言える。皇子が貴方をエステレアに連れて行ったのは星詠みさまだと知っていたからであれば、貴方に逃げられると困ります。疑っていたのなら、やはり逃げられると困ります」
「……え……」
「ただの親切ならば、逃げたり隠れたりする必要がありません」
「つまり……エイコは探されてる可能性があるって事か?」
「ただの親切心からでなければ、ね」
「うそ……」
わたし、あの女の子から話を聞いたらもう思い込んでしまって……。
思い出すのは出て行こうとするわたしを必死に止めてくれる姿。優しさからだと、拾った責任感からだと思っていた。わたしの素性を気にしていた可能性がある……?
思い掛けない<もしも>に頭が混乱する。ずっと思考停止していたのかもしれないと、改めて考えようとしたわたしの耳に獣の咆哮が飛び込んできた。
「何だ? うえぇ!?」
ルジーを真似て空を見上げたら、ここにいるはずのないものが目に映る。
緋と白の、翼を広げた生き物ーー六頭の飛竜。
その背に跨り、先頭で睨み合う二人。フードを深く被り顔を隠した男とウラヌスが、一触即発の空気で火花を散らしていた。
アザーの一掃をわたしがやった確証はないと思ったけれど、異界の星詠みがいるという騒ぎ自体があのローダー皇子を呼んでしまうのではないかって怖かったから。
さすがに国境を越えてまで一国の皇子が来るかは疑問に思う。でも、もしもがあれば……だからわたしは逃げた。
だけど逃げた先ではルジーとノーヴの追求が待っていて。
「エイコ……なぁ、聞いて欲しくないって分かってる。それでも本当の事、聞きたい。エイコの力になりたいんだよ!」
「本当の事って言っても……」
この世界でのわたしの事で、何か確信を持って話せる内容なんて一つもない。言い淀むわたしの手を取ってルジーは真剣に見つめてくる。
「何でも良いんだ。抱えてるもの、話してくれよ。もしエイコが隠したい事があるなら、協力だって出来るかもしれないだろ! なぁ、ノーヴもそう思うよな!?」
「まぁ……そうですね。少なくとも貴方お一人で抱えるよりは、やり易くなるのではないでしょうか」
「……」
「エイコ。信じてくれよ」
真摯なルジーの眼差しに心が揺れる。二人を信じて良いの? でも確かに、いつまでもわたし一人の胸に秘めていたって無駄な時間を過ごすだけかもしれない。
それなら誰かに話して、解決法を探す方が前向きかもしれない。
ただ……。
「話したら、本当に巻き込んじゃうかも……」
「良い! 巻き込めよ。あんなの見たら今さらだ」
「あんなの?」
「エイコから青い光が出て、そしたらアザーも光に包まれて崩壊した。オレも信徒だ。聞いた事くらいある。青は星詠みさまが扱う色だって!」
「……光、わたしから出てた……?」
おそるおそる訊いたら、二人は力強く頷く。じゃあ、これまでに何度か見た煌めきもわたしから……?
茫然とするわたしの手が、強く握られる。促されてると感じた。
「……分かった。本当の事、話す。信じられないかもしれないよ」
「信じる!」
食い気味なルジーの返事に少し微笑った。
三人で木陰に座り、一度深呼吸して覚悟を決める。話すことでどうなるか分からないけど、前を向きたいから。
「ーー話してくれてありがとな。エイコ」
この世界に来てからの事を話し終えた時、ルジーからそんな言葉を貰った。その途端、身体が軽くなった心地になる。
(わたし……知らない内にすっかり縮こまって、固くなってたんだ)
誰にも話せなかった。事態がどう転ぶかが怖くて、でもいつまでも怯えていても苦しい時が続くだけだったんだと、ようやく気付く。
「エレヅ皇室が貴方を異界の星詠みと……ふむ。しかしその存在はエステレアの地と星詠みさまによってのみ喚ぶことの叶うものの筈。貴方が異界の星詠みさまだとすると矛盾が生じますね」
「じゃあ、やっぱりエレヅの誤解なのかな」
「いや、それも考えにくいでしょう。星詠みさま召喚の話はあまりに有名。その上で貴方をそう呼んだのなら、何か確信があってのことなのでしょうな」
「ウラヌス達が時々隠れたり逃げたりするような行動を取ったのは何だったんだ?」
「エイコ嬢の正体を知っていた……あるいは疑っていた? しかしそうなると、そのウラヌス殿達は星詠みさまを保護しに来た存在になる。危険を冒しても星詠みさまを保護する者といえば……エイコ嬢、まだ隠しておられる事がありますね」
「え!?」
ノーヴの発言にルジーが声を上げた。反射的に口を噤んだわたしに、二人から非難するような視線が送られる。
<話すって、言っただろ>。
ルジーの言葉にわたしは、白旗を上げた。
「……ウラヌスはエステレアの皇子だったの。オージェとシゼルはその臣下」
「じゃあもう決定だろ!! マジかよ!?」
「で、でも! エステレア宮殿にはもう異界の星詠みがいたの! わたしと同じくらいの歳の女の子で、ウラヌスや皇帝陛下からそう扱われてるって、本人が言ってた!」
「……ふむ。それが勇壮なる剣の話していた存在でしょうか? ですが異界の星詠みさまがお二人も召喚されるなど、聞いた事がありませんが……」
わたしが投下した新しい情報に、二人はまた混迷の中に戻った顔になる。
わたし……何者なんだろう。それか、何者でもないのかな。
「いっそ宮殿へ戻り、皇子に事情をお訊きした方が良いのでは?」
「……わたしが星詠みじゃなかったらウラヌス達に迷惑を掛けちゃう。優しいから、きっとまた面倒見てくれようとすると思う。それは……嫌なの」
「まずその前提が間違いの可能性はありませんか」
ノーヴの指す意味がよく分からなくて彼を見る。わたしの表情だけで察してくれたのか、ノーヴは続けた。
「今の状態を纏めるとエイコ嬢は星詠みさまとも言えるし、星詠みさまでないとも言える。皇子が貴方をエステレアに連れて行ったのは星詠みさまだと知っていたからであれば、貴方に逃げられると困ります。疑っていたのなら、やはり逃げられると困ります」
「……え……」
「ただの親切ならば、逃げたり隠れたりする必要がありません」
「つまり……エイコは探されてる可能性があるって事か?」
「ただの親切心からでなければ、ね」
「うそ……」
わたし、あの女の子から話を聞いたらもう思い込んでしまって……。
思い出すのは出て行こうとするわたしを必死に止めてくれる姿。優しさからだと、拾った責任感からだと思っていた。わたしの素性を気にしていた可能性がある……?
思い掛けない<もしも>に頭が混乱する。ずっと思考停止していたのかもしれないと、改めて考えようとしたわたしの耳に獣の咆哮が飛び込んできた。
「何だ? うえぇ!?」
ルジーを真似て空を見上げたら、ここにいるはずのないものが目に映る。
緋と白の、翼を広げた生き物ーー六頭の飛竜。
その背に跨り、先頭で睨み合う二人。フードを深く被り顔を隠した男とウラヌスが、一触即発の空気で火花を散らしていた。
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