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兆す15歳→16歳

41.すずらんの花をあなたへ

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「今日もありがとう。また今度は3日後かな?」
「あ、あぁ。また、……今度」

 いつも通りにレオを門の前でお見送りだ。
 玄関前まで馬車を停めて貰っても良いんだけど。レオがうちのお屋敷の庭を見ながら歩きたい、という希望で門前でのお見送りだ。
 本当にそういう可愛らしいところはお花好きなレオらしいよね。
 こうして毎回、門までお見送りをイヴとアッシュ一緒にしているよ。
 レオは大げさにするのを嫌がるけど、王族様ですから丁重にお見送りさせていただいています。

 屋敷の敷地内に停められたレオの馬車はとっても立派だ。
 王家の紋ががっつり施された4頭立て馬車。控えめに言っても、財力誇示していますね。

 レオが馬車に乗り込もうとステップに足を掛けるが、すぐにまたこちらにスタスタと早足で戻ってきた。

 僕の目の前に立つレオは何やら緊張を漲らせた表情。

「す、すずらんを今度ラズに送るから! 一緒に育てよう!」
「あ、ありがとう?」
「すずらんの花言葉は『純粋』『純潔』『謙虚』なんだ! 白い小さな花に慎み深さを感じるから、といわれていて……。俺は可憐なラズにぴったりだと思う! だから……この世界で、白色が持つ意味は悪いものばかりじゃないんだ! あ、その……」

 普段余裕そうなレオが言いよどみながらも、必死に伝えたいことがソレだったなんて。
 嬉しくて堪らない。僕の白髪にそんな素敵な意味を見出してくれるなんて、レオは優しすぎる。

「あと、すずらんって葉や茎全てに毒があるんだ。だから虫がつかなくて育てやすいし、見た目と違って図太いところもラズそっくりなんだ!」
「…………ありがと。それ、言うことなかったと思うんだけどさ」

 おい。レオさんや。感動を返してくれないか。
 お花のことになるとレオはこだわりが強いのだ。
 正直なところがレオらしいけれど、すこーし不満が顔に出てしまった僕はプクっと頬を膨らませた。

「あ、いや。あ! 花はきれいに咲くためには、土や水、日差しなんかが必要だろ?」

 レオは焦ったように、話題を変えてきた。僕はよくわからないけど頷いた。

「そう! 花だけの力じゃ咲くことすらできないんだ。だから、ラズが笑顔でいられるためにも、俺を頼って欲しい! ラズの抱えているものはわからないけれど、俺は白髪が似合うラズが大切だからさ……」

 レオは僕を射抜くように夏空色の瞳をじっっと向けた。
 眼差しの強さに、彼の真心や優しさがにじんでいる。

「……いいの?」

 僕は今のまま『色無し』でいいの?
 本当はそう聞きたかった。でも、断罪イベントの時に吐かれたセリフが喉に言葉を留めた。 

 僕の試すような弱気な返事を聞いたレオは破顔した。
 真夏の太陽を思わせる鮮烈で華やかな笑顔。
 誰もが彼に明るく照らされてしまいそうな、眩しく完璧な王子様の笑顔だ。

 返事代わりに返された笑顔の眩しさにあてられ、僕の頬はほんのり熱を持つ。

「髪に触れても良い?」

 初めて言われ、唐突に自覚する。
 誰かが白髪に触れたいと欲することは無い、と僕は心の奥で諦めていた。あの神様以外が。

 戸惑いながら、こくん、と頷くとレオの長い指が僕の白髪に伸ばされる。
 そっと横髪を掬う指を見ているだけで、なぜだか心臓が小さくトクンと高鳴った。
 スラリとした指は、慈しむようにすり、と髪を親指の指腹で撫でる。

 ふっと影がさし、暗くなりレオが屈む気配。
 白髪の毛先に、レオが恭しく唇を寄せた。
 夏の陽射しのようにきらきら光を撒くまつ毛から覗く熱を孕んだ蒼穹に、ぎゅっと喉が詰まる。

「!?」

 いたずらっぽく白磁の頬を染め甘く微笑んだ王子様。
 そのまま別れの挨拶をそそくさと早口で口にし、ステップを1段踏み外し、ふらつきつつ馬車へ乗り込んだ。

 僕は夕陽に輝く黄金色がさらりと揺れる逃げるような背中を呆然と見送った。
 馬車の扉が閉じられ、背中が見えなくなった頃。
 黄昏の中に浮かんだ笑顔、後に贈られるすずらんの花を決して忘れない、と確かに感じた。

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