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はじまりの10歳
22. お友達は騎士さま(仮) 1
しおりを挟む「あーっしゅ! 久しぶりー!」
神殿真裏のうっそうと茂る森。
初夏らしい青葉に包まれたトンネルの下、石畳のデコボコ道をとてとて早足で抜ける。
明るい光が溢れる開けた場所があらわれ、目的の人物の背中が。
久しぶりに会えた喜びで、ついつい、はしゃいだ声を出しちゃった。
「妖精? いや! はっ?!」
振り向き、僕に気が付いた友達のアッシュ。手には木刀を持ち、顔には汗が光る。
えらいな。ここでいつも1人で黙々と剣術の訓練しているんだよね。
騎士になるのが夢なんだけど、アッシュはお家の都合で反対されているから。こんなところでひっそりとしている。
「あのね。今日は礼拝に来たの。だから久しぶりにアッシュに会いたくて寄ったんだよー」
「うぁ、あぁ。………そうか」
カラン、と大切にしていたはずの木刀を落とすアッシュ。
髪色と一緒な真っ赤なお顔で俯いちゃった。
どうしちゃったんだろう。訓練のし過ぎかな?
とことこ近づいて、地面に落ちた木刀を拾う。
使い込まれた木刀は持ち手部分が飴色に変色し、僕には両手でただ持つだけで精一杯なくらい重い。
これをあんなに早く剣を振れるアッシュは、やっぱり努力家さんでかっこいいな。
はいっとアッシュのお顔を下から覗きこみながら、大切な木刀を差し出した。
「ぴょっ」
深緑の瞳とパチリと目が合った瞬間に、すっごい素早い動作でぴょんっと後ろに跳ばれた。
そのままアッシュは身体のバランスをぐらんと崩し、凄い音を立て尻もちをついた。
「ご、ごめんな。いきなりち、近くて、お、驚いただけだ……」
アッシュはお尻についた土をはたき落とし、すっと立ち上がる。
「ごめんね。驚かしちゃった……」
「あ、いや。大丈夫! ほ、ほら! あれは……? 婚約者とその……」
「あー。色々と事情があって婚約は保留になったよ」
「ほ、ほんとかッ?!」
いよっし、と拳を天高く振り上げるアッシュは、今はにこにこでご機嫌だ。
僕が婚約についてぽろりと、少しだけ漏らしてしまったから、それを心配してくれていたみたいだ。
僕の年令で、婚約が決められているのは、かなり珍しいから。
ましてや、会ってもいない人、生まれる前からなんて。
かっこよくて優しいなんて素敵なお友達だ。
そんなアッシュはパーソナルスペースが広いから、時々近づき過ぎるとこうなるんだよね。
よくわからないけど、気をつけよう。
体調悪そうだったから、ちょこんと二人で地べたに座ってゆっくり話すことに。エリアスがうるさいけど。
「聞いてー! 弟が出来たんだよー! 猫ちゃんみたいで、すーっごく可愛いの!」
「今のラズのほうが絶対可愛いっ!!」
何故かアッシュが小さく唸り、両手で顔を覆い空を仰いでいた。
「アッシュ? あ、また! 足怪我しているのに隠してる!」
「いいっ! 大丈夫だから!!」
よくわからないアッシュに首を傾げていると、アッシュの右のふくらはぎに黒いもやもやが。
ズボンの上からふくらはぎのもやもやに手をかざし、聖力を流す。もやもやを白銀の光がふわりと包み込むと霧散した。
「はい! これで大丈夫!」
「あ、ありがとう。ラズ。でも、こんな貴重な聖力を使って良いのか。ラズにもしものことがあったら、困るだろ?」
「あのね。僕は大事な人を癒せるときに癒やしたいの。僕は、もうお母さまのときみたく、後悔したくないんだ。それに、僕のことは大丈夫。そういう時のためのエリアスだしねっ」
アッシュは優しいから、いつも僕の体質の弱点を心配してくれている。
とってもこれは秘密なんだけど、アッシュのお家が大神官さまの家系だからか、知られていた。
クレイドル家の人間は自分以外の聖力を受け付けない。
つまり、怪我しても他の人に聖力で癒やして貰えない。
死傷したら、そのまま自分で意識があって癒せれば良いけど、出来ないと最悪死ぬ。
だから過剰なまでに怪我をすることに敏感なんだよ。エリアスとお父様が。
でも、この『聖力』を受け付けない理由は多分。
指紋みたいに一人一人『聖力』の色が微妙に違うのが原因な気がする。
違う『聖力』が体に流れ込むことに、体が拒否反応を示しているんだよ。
体の持ち主の持つ『聖力』の色に変化させつつ流し込めれたら、他のクレイドルも癒やすことが可能っぽいんだよね。
この『聖力』って万能じゃないんだよね。他にも致命的な欠点があるし。
「お、俺だって……」
「あ! それにね! 聖女のおじさまが使えば使うほど、この力が強くなるって言っていたんだ!
だから今度こそ、大事な人たちを助けるためにも、僕はこの力を役立てたいからさっ! アッシュにしか頼めないんだ! 協力して!」
あぁ、僕がこうやって大丈夫っていうと、いつもいつも、アッシュは険しいお顔になってしまう。
だから、今日は咄嗟に思いついた言い訳? メリットをさらにアッシュに伝えたんだけど。
アッシュは言葉を詰まらせ、さらに眉間にきゅうっとシワを寄せ俯いてしまった。
あ、い、いやかな。これだと、アッシュを練習台みたいに利用したことになるよな……。
それで、怒っちゃったのかも。
でも、言ったことは嘘ではないし、普段思っていることを本心からいったんだ。
拳をぎゅうっと握りしめ、なにかに耐えるように唇を引き結ぶアッシュ。
くいっと袖を掴み、顔をことりと傾げ、アッシュンの顔を掬い上げるようにのぞき込んだ。
ぱちってアッシュの綺麗な新緑の瞳と目が合ったはずなのに、すぐに逸らされちゃった。
「うゔ。ら、ラズが無理しないならいぃっ」
「ありがとう。アッシュはやっぱり優しい!」
アッシュは口元を片手で覆いながら言う。瞳が潤んで、お耳が赤い気がする?
優しいアッシュに頬を緩め、きょろきょろ周りを見渡す。
エリアスがふと口元をほんのり緩め、こくりと小さく頷いた。
今は近くに誰もいないみたい。
神殿の敷地内に入ってから、ずっと目深にかぶっていたマントをいそいそと脱ぐ。
誰かの視線を気にしながら過ごすのは、とっても窮屈だ。
マントを脱ぐと、髪を揺らす初夏の爽やかな風が気持ちいい。
ふふっ! 気のおけない友人との久しぶりのお話しはすっごく楽しいなっ!
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