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第5話『人生の転機』
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実は小学校に上がる少し前に、父さんの仕事の都合で引越しをしていた。
その頃、元気になって一層騒がしくなる祐生に対して、俺は祐生の一件が後ろめたくて口数が徐々に減っていき両親から見ると大人しい子供になっていた。
引越し前の街では、公園を騒がした一件から「柵木さんところの秀生くんはちょっと変わってる」と噂されるようになっていたのを覚えていたし、その噂を聞いた両親は憤慨していたが俺は子供ながらその噂の正しさに胸が痛かった。
引越しが決まって内心嬉しかったし、新しい土地では上手くやろうと意気込んだ。
だけどそんな願いは上手くいかなかった。
どうしても視界に入ってしまうそれらを無視することは難しかった。
見えてしまったそれらに驚き、震え、逃げる。
十歳くらいまでそういった行動の連続で、学年でも一際浮いた存在だった。
虚言癖があり、周囲の視線を集めたいために騒ぎ立てる困った子供。
悲しいかな、それが俺の小学校時代の評価だった。
中学生になる頃には、それらの対応に徐々に慣れてきた。
徹底的に無視するのが良い。
小学校の俺を知っている人は、漸く落ち着きだしたが、相変わらず陰気な雰囲気があるのを感じて遠巻きにしていた。中学校から俺を知った連中も、それに倣い距離をとっていた。
余計なことを言わず見ずという環境を提供してくれているようで有難かった。
しかしたまにそういう空気を気にせずに話しかけてくるやつもいて、少し面倒だと思う中学時代だった。
しかしながら、また一つの転機が訪れた。
そろそろ高校受験が見えてきた頃、再び父さんの仕事の都合で引越しすることになった。それも俺が小学校に入るまで住んでいた土地へだ。
両親も祐生も「わあ、あっちの方へ帰るんだね」くらいのお花畑全開の様子だったが、俺は当然そうではなかった。
引越しと聞いた瞬間は、新しい土地でまた一からやり直せるような期待があった。
最近は見えていない振りも自然になってきたし、新天地でもう少しマシな自分になれるんじゃないかと思えたから。
早い話が『高校デビュー』だ。
それなのに、よりによってあの土地だなんて。
十年近く経った今でも夢にみることがあるトラウマを植え付けた場所。
それにもしかしたら、あの土地の何処かであの不気味な黒い髪の女が徘徊しているかと思うと言葉に言い表せないほどの恐怖が込み上げた。
それだけは絶対に嫌だ。
そこから俺は必死だった。
あの土地以外の高校を探しまくった。
まず考えたのは一人暮らしだった。寮付きの高校や下宿とか考えたけれど金銭的に難しくすぐに廃案になった。
何より両親が子供が一人で他所にいくことに好い顔をしないだろう。
それなら、あの土地の近隣の高校ならどうか。
父さんの通勤の都合もあるから隣りの市とか。
そこで隣りの市のそこそこ偏差値の高い公立の高校を見つけて、両親を説得した。
人と会話をしたくなくって勉強をしている振りを続けていた。視界に入った不快なものを気がつかなかった振りをしたくて教科書の問題を解いている振りを続けた。
そういう振りが、いつの間にか本当になっていた。
だから勉強はできるようになっていた。
「通うならこの高校が良いんだ」
そんな言葉から始めて適当にこの学校の売り文句を並べ立てると、これには両親もすぐに首を縦に振ってくれた。
そこで両親は隣りの市の、俺が選んだ高校からそう距離が離れていない範囲で新居を探し始めてくれた。
助かった。
俺は心底思った。
隣りの市ということで完全に安心はできないけれど、それでも俺は確かに浮かれていた。
新しい土地に、新しい学校に、新しい生活に。
『常人に見えないもの』を見てしまうけれど、それでもきっと良いことがある。
そう思っていたかったのだ。
その頃、元気になって一層騒がしくなる祐生に対して、俺は祐生の一件が後ろめたくて口数が徐々に減っていき両親から見ると大人しい子供になっていた。
引越し前の街では、公園を騒がした一件から「柵木さんところの秀生くんはちょっと変わってる」と噂されるようになっていたのを覚えていたし、その噂を聞いた両親は憤慨していたが俺は子供ながらその噂の正しさに胸が痛かった。
引越しが決まって内心嬉しかったし、新しい土地では上手くやろうと意気込んだ。
だけどそんな願いは上手くいかなかった。
どうしても視界に入ってしまうそれらを無視することは難しかった。
見えてしまったそれらに驚き、震え、逃げる。
十歳くらいまでそういった行動の連続で、学年でも一際浮いた存在だった。
虚言癖があり、周囲の視線を集めたいために騒ぎ立てる困った子供。
悲しいかな、それが俺の小学校時代の評価だった。
中学生になる頃には、それらの対応に徐々に慣れてきた。
徹底的に無視するのが良い。
小学校の俺を知っている人は、漸く落ち着きだしたが、相変わらず陰気な雰囲気があるのを感じて遠巻きにしていた。中学校から俺を知った連中も、それに倣い距離をとっていた。
余計なことを言わず見ずという環境を提供してくれているようで有難かった。
しかしたまにそういう空気を気にせずに話しかけてくるやつもいて、少し面倒だと思う中学時代だった。
しかしながら、また一つの転機が訪れた。
そろそろ高校受験が見えてきた頃、再び父さんの仕事の都合で引越しすることになった。それも俺が小学校に入るまで住んでいた土地へだ。
両親も祐生も「わあ、あっちの方へ帰るんだね」くらいのお花畑全開の様子だったが、俺は当然そうではなかった。
引越しと聞いた瞬間は、新しい土地でまた一からやり直せるような期待があった。
最近は見えていない振りも自然になってきたし、新天地でもう少しマシな自分になれるんじゃないかと思えたから。
早い話が『高校デビュー』だ。
それなのに、よりによってあの土地だなんて。
十年近く経った今でも夢にみることがあるトラウマを植え付けた場所。
それにもしかしたら、あの土地の何処かであの不気味な黒い髪の女が徘徊しているかと思うと言葉に言い表せないほどの恐怖が込み上げた。
それだけは絶対に嫌だ。
そこから俺は必死だった。
あの土地以外の高校を探しまくった。
まず考えたのは一人暮らしだった。寮付きの高校や下宿とか考えたけれど金銭的に難しくすぐに廃案になった。
何より両親が子供が一人で他所にいくことに好い顔をしないだろう。
それなら、あの土地の近隣の高校ならどうか。
父さんの通勤の都合もあるから隣りの市とか。
そこで隣りの市のそこそこ偏差値の高い公立の高校を見つけて、両親を説得した。
人と会話をしたくなくって勉強をしている振りを続けていた。視界に入った不快なものを気がつかなかった振りをしたくて教科書の問題を解いている振りを続けた。
そういう振りが、いつの間にか本当になっていた。
だから勉強はできるようになっていた。
「通うならこの高校が良いんだ」
そんな言葉から始めて適当にこの学校の売り文句を並べ立てると、これには両親もすぐに首を縦に振ってくれた。
そこで両親は隣りの市の、俺が選んだ高校からそう距離が離れていない範囲で新居を探し始めてくれた。
助かった。
俺は心底思った。
隣りの市ということで完全に安心はできないけれど、それでも俺は確かに浮かれていた。
新しい土地に、新しい学校に、新しい生活に。
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そう思っていたかったのだ。
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