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本編(序)
ありし日の記憶(続)
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翌日、夜。
俺は、昨日のやり取りを思い出していた。
「……ハンカチ、貸して。洗って、返すから」
「うん」
思い返せば、お互いに名乗っていない。当然家も知らない。
それでも不思議と、また会えるという確信があった。
夜中の十一時を回った頃、家を抜け出す。
「こんな時間に何処へ行く」
祖父だ。
昨日も同じ時間に家を出た。玄関に一番近い部屋に居た祖父にはバレていたのかもしれない。
「公園に行ってくる」
「ん」
行き先を告げると、祖父は踵を返した。どうやら引き留める気は無かったらしい。
相変わらず蒸し暑い外気を浴びつつ、歩く。
公園には、既に先客が居た。
「あっ」
昨日の女の子だった。
向こうも、こちらに気づいてやってくる。
「これ……昨日はありがと」
丁寧に畳まれたハンカチ。
「うん」
受け取ると、折り目をずらさないように、慎重にポケットに押し込み、ベンチに腰かけた。
彼女も、隣に座る。
空を見上げると、昨日よりも丸くなった月が、煩いくらいに自己主張していた。
何を話したらいいのか、迷っている俺に気づいてか、気づかないでか、彼女は自分のことについて語り始めた。
彼女の名前は、竜蔵寺 凛 ということ。
実は一つ上の学年であること。
彼女の家——この地域では有名な名家、竜蔵寺家のこと。
昨日出会ったのは、家の決まりが厳しく、反抗して家を出てきたからだったこと。
……他にも、たくさん。
話題が尽きるまで聞いて、今度は俺が話して。
くる日も、くる日も、俺たちは"密会"を続ける。
いつしか、それが日課になっていった。
当初、会話の主導権は俺が握っていたように思う。事実、出会いたての頃は俺ばかりが話しかけていた。
だが、いつの頃か立場は逆転し——俺は彼女を"凛さん"と呼ぶようになり、彼女は自分を"姉ちゃん"、俺を"陵くん"と呼ぶようになる。
友達のような、姉弟のような、そんな関係。だが、不思議と心地よかった。
そしてあの日——凛が"不思議な時計"を見つけてくる、その日が訪れる。
)続:『不思議な"時計"』
俺は、昨日のやり取りを思い出していた。
「……ハンカチ、貸して。洗って、返すから」
「うん」
思い返せば、お互いに名乗っていない。当然家も知らない。
それでも不思議と、また会えるという確信があった。
夜中の十一時を回った頃、家を抜け出す。
「こんな時間に何処へ行く」
祖父だ。
昨日も同じ時間に家を出た。玄関に一番近い部屋に居た祖父にはバレていたのかもしれない。
「公園に行ってくる」
「ん」
行き先を告げると、祖父は踵を返した。どうやら引き留める気は無かったらしい。
相変わらず蒸し暑い外気を浴びつつ、歩く。
公園には、既に先客が居た。
「あっ」
昨日の女の子だった。
向こうも、こちらに気づいてやってくる。
「これ……昨日はありがと」
丁寧に畳まれたハンカチ。
「うん」
受け取ると、折り目をずらさないように、慎重にポケットに押し込み、ベンチに腰かけた。
彼女も、隣に座る。
空を見上げると、昨日よりも丸くなった月が、煩いくらいに自己主張していた。
何を話したらいいのか、迷っている俺に気づいてか、気づかないでか、彼女は自分のことについて語り始めた。
彼女の名前は、竜蔵寺 凛 ということ。
実は一つ上の学年であること。
彼女の家——この地域では有名な名家、竜蔵寺家のこと。
昨日出会ったのは、家の決まりが厳しく、反抗して家を出てきたからだったこと。
……他にも、たくさん。
話題が尽きるまで聞いて、今度は俺が話して。
くる日も、くる日も、俺たちは"密会"を続ける。
いつしか、それが日課になっていった。
当初、会話の主導権は俺が握っていたように思う。事実、出会いたての頃は俺ばかりが話しかけていた。
だが、いつの頃か立場は逆転し——俺は彼女を"凛さん"と呼ぶようになり、彼女は自分を"姉ちゃん"、俺を"陵くん"と呼ぶようになる。
友達のような、姉弟のような、そんな関係。だが、不思議と心地よかった。
そしてあの日——凛が"不思議な時計"を見つけてくる、その日が訪れる。
)続:『不思議な"時計"』
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