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18話・唯との強制デート

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 文化祭前の最終登校日。
 つまり、金曜日の夜――俺は唯とのデートに付き合わされていた。

 その場所は夜の誠駅から徒歩でも行けるマコトミライ地区。ビジネス街と観光地であるこの地区は、夜は夜景が綺麗でデートスポットでもある。そこに連れ出された理由は、唯が知るはずの無い風祭とデートをしていたのがバレたからだ。
 どこでそれを知ったのか? を知る為にここまで付き合っていた。少し前にイラついていた唯の理由もようやくわかった。

「ようやく謎が解けたわよ。総司、自白してもらうわよ」

「何をだよ」

「あの強風の日の土曜日よ。あの日の夕方にあの男女をセリザワスーパーで見かけたのよ。そしたら、あの男女スカートなんて履いてるじゃない。明らかにおかしいよね?」

「スカートなんて学校でも履いてるだろ? そんな事はどうでもいいだろう」

「よくないの。化粧もしてたし、どう考えてもデートの格好だよ。あの男女の相手なんて、一人しかいない。ねぇ、総司。風祭朱音とデートした?」

「デートと言えばデートになるが、ただ会っただけだ。修学旅行の時の話をちゃんとしたいと思って誘った。俺は風祭の事をちゃんと知る必要があったからな」

「あの男女が昔の総司を知ってたのは意外だったわね。今までずっと黙って高校から変わった総司を監視して生活してるなんて、本当にクソ女だわ。風祭朱音は」

 ライトアップされる夜道を歩く唯は風祭という女を認めてはいるようだ。けど、プライドも高い唯は仲良くは出来ない。風祭が真剣に俺を思っているのが、許せない面もある感じがする。

「一つ聞くが、セリザワスーパーで会った時に声をかけたのは唯の方か?」

「そうよ。セリザワスーパーで会った時……軽くそれを聞いたら鼻で笑われたわよ。男女のクセに色気付きやがって」

「そもそも唯だって人の事を鼻で笑うよな? 自分がそれをやってるなら、やられて当然だろ。風祭を敵対視してるなら尚更だ」

 流石の唯も反論せず、小石を蹴って八つ当たりしていた。やはり風祭の事は危険な敵と認めているようだ。

(でも、なんで風祭はそれを言わなかったんだ? 風祭の奴……少し唯の悪い所が伝染してるんじゃないか?)

 あの男女と言われる風祭の女臭い所を感じた。唯を特にライバル視してるから、唯のようにならないかが心配だ……。

(たまに風祭にも注意するのは必要かもな。このまま唯化したらマズイ……唯のストーカーバージョンなんていたら、俺は死ぬ。愛されて殺される)

 歩きながら話すのも疲れて来たから、美術館などが並ぶエリアのベンチに腰を下ろす。そもそも、行く場所なんて決まっていない。

「もうわかっただろ唯? 風祭とのデートはそもそも話し合いだ。俺達は話し合いをしただけで付き合ってはいないんだ。これで終わり。今日は解散」

「でも付き合う事も考えてたんでしょ?」

「……」

「修学旅行でキスしてたし」

「……」

「キスしてたよね? 夜に二人きりの時に。言われないから大丈夫だと思った? 私がそんな事をいつまでも問い詰めないわけ無いじゃない」

「……」

 突き刺さるような唯の言葉に答えられない。西から吹く夜風が俺の冷たい身体を更に冷たくする。氷柱のような鋭さの唯の言葉は続く。

「そもそもグレイの総司だから風祭を選ぼうとしたんでしょ? レッドの総司なら風祭を選んで無いわよ。それだけは断言できるわ」

 ここで、勇に言われた言葉がフラッシュバックする。

 ――感情に流されて、風祭さんを傷付けるのは良くないよ総司。

(唯も勇も同じ事を言いやがる……こんな時、あの女の青眼なら俺をどう見るのか……)

 そうして、唯はしっかりと俺の目を見て言った。

「それで、総司は今の私をどう思う?」

 その問いに、俺は正直に答えた。

「……俺は唯とまた出会って変化しつつある。自分のベースを崩されて困る事は多いが、唯はいい女だとは思う。あの頃よりも好きかも知れない」

 そう、唯はハッキリ言えば苦手だ。どうしようもなく苦手。けど、この女は俺を変える力を持っている。結局、西村唯という女から逃げても逃げ切れない。なら、立ち向かって行く勇気が必要だと思った。
 グレイだろうが、レッドだろうが俺はこの女に影響される。けど、それは他にも――。

「でも……」

「でも、今は東堂と風祭も気になる……でしょ?」

「!? 何故そんな事がわかる?」

「何でもお見通しなのよ、総司の事は。だから私を抱けば今のグレイも色が着くわ」

「色が着く? 抱く? どういう事だ……」

 そして、唯は俺に密着しながら上目遣いで言う。この誘惑の感じは、中学時代より濃厚になっていて意識が揺らぐ。

「……ねぇ、ホテル行こうよ」

「はぁ?」

「男女より女の身体の方がいいわよ。それにあの男女の中で出したら、面倒な事になるわ。ああいう思い込みが強いタイプは面倒くさい。特にあの男女はね」

(面倒くさいのはお前もだ)

 と言ってみたいがやめておく。
 明日も誠高校で文化祭の劇のチェックを任されている。時間的にもう帰らないといけないし、俺は唯を抱く気は無い。付き合う事にでもならない限りは。

「俺はもう帰るぞ。俺と風祭は付き合っていない。そして、東堂に風祭。唯も気になっている中途半端なグレイだ。その俺にどの色が着くかはわからない」

 帰るぞ、と唯の腕を引いて立ち上がらせた。ライトアップされる美術館を通り過ぎて行く俺達は何故か手を繋いでいた。繋がないと唯が帰る気にならないだろうから、繋ぐのを許した。その唯は話す。

「男女デートしたのは許すけど、キスしたのは許せない。私は意外と嫉妬深いの」

「はぁ、そうですかい」

「気のない返事ね。私を抱いてスッキリしなさいよ」

「あまり大きな声で言うな。俺は今は誰も抱かないぞ。今はな」

「ふーん。本当にそうかな?」

 股間にタッチしようとしたから防いだ。

『……』

 互いの行動を読んでいた事に、俺達は笑った。
 その俺はふざけて襲いかかる唯から逃げようとし、唯は俺の腕に絡みついて来る。その押し問答をしていると、通り過ぎて行く群衆の中で一人のツインテールの少女が立ち止まっていた。誠高校の青いブレザーを着ていて、とても清楚な美少女だった。

「……あれは」

 全てを見透かすような青い瞳の女が俺を見ていた。それは東堂真白だった。東堂は小説のシーンに使う夜景を見に来ていたようだ。唯の悪ふざけも東堂が来て止まっている。何か微妙な空気が流れているので、俺は東堂に聞いた。

「東堂……どんなシーンを書こうとしてるんだ?」

 その青い瞳の美少女は手のひらに何かを握り潰すような仕草をして言った。

「人が死ぬシーンは、夜景が綺麗だと映えるでしょう?」

 美しい殺人鬼の東堂真白に見とれていた。いや、殺人鬼では無いが殺人鬼という言葉しか出なかった。それは唯も同じようだ。やはりこの女は独特の雰囲気がある。他人をおかしくする何かが――。

 そうして、東堂は去ろうとする。

「待ってよ。東堂さんも総司をネタにしたいなら、一緒にいた方がいいんじゃない?」

「いいの。私はただの散歩中だから。赤井君からの誘いなら、受けたけどね」

 偶然とは必然と言う言葉がある。今回の出来事はそんな言葉を信用してしまうような出来事だった。あまり接していなくても、東堂真白は容赦なく俺の中に入って来る。それは風祭や唯以上の荒れ狂う台風だった。

 そして、文化祭の二日前である土曜日――ある青髪の学ラン高校生が現れた。これも、偶然と必然だった。
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