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9話・レッドが再び目覚める日
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『……』
俺と東堂さんは水中で立ち尽くしている。それを少し先で見ている唯も唖然としていた。何故かこのナイトプールには風紀委員の風祭がいたんだ。しかも、巨乳でも無いはずの風祭は赤いパレオの付いた水着を着ていて完全に「女」になっていた。
いつも男言葉で、気合いを連呼するボーイッシュな風祭朱音が何故こんな姿に――?
と、俺達が思っていると、東堂さんは青い目を輝かせて微笑む。
「風祭さん……いいね。いつもボーイッシュなのに今日はザ女の子! だね。ギャップ萌えだよ。ギャップ萌え。新しい風祭さんを知れて、私はナイトプール来て良かったと思う!」
「そ、そうか……東堂さんがそう言うならそうなのかもな。私とて女だ。ここでは普通の女の子だからな」
東堂さんはやけに喜んでいて、風祭が上目遣いで俺を見た。唯の言う通り、男女のような感じであったからこのギャップはヤバい。目のやりどころに困りつつも……。
「中々いいと思うぜ……風祭が男嫌いを治す努力は認めるよ。お前は凄い」
「そうか……ありがとう赤井」
安堵したような顔を浮かべ、風祭は微笑んだ。俺も女として初めて風祭を意識したかも知れない。すると、金髪の少女が俺達の間に入って来た。
「ちょっと何やってんのよ総司に男女」
ようやく、呆気にとられていた唯も混ざって来る。明らかにイライラしている唯は風祭さんの身体を舐め回すように見つめて言った。
「まさか、何かで胸を潰して胸の大きさを隠してたとはね。じゃなきゃいきなり巨乳にならないし。わざわざナイトプールにまで現れるなんて、ストーカーかよ男女」
「私は風祭朱音だ。西村唯」
「あっそ」
勢い良くプールの水をかけた。
二人は軽く喧嘩のように水のかけあいになるが、東堂さんもそれに混じり出す。止めないのかよ! と思いつつも、何か東堂さんが混じった事で怒りが収まったのか、唯も風祭も楽しんでたから俺も混ざった。
少し疲れたのと、東堂さんが風祭も合流という流れに持ち込んだのでフードコートへ移動した。オレンジジュースを飲み物を飲みつつ、唯はまた風祭にちょっかいを出した。
「おい男女。ここじゃ、風紀はここでは無いわよ? そもそもアンタのだらしない胸の方が風紀違反じゃないの?」
「こっ、これは仕方の無いものだ。だからこうしてパーカーを着てる……」
「あっそ。アンタも私と似てるわね」
と、軽く呟いているが誰にも聴こえていなかった。俺の座るイスの足を蹴る唯をなだめていると、東堂さんが風祭に話していた。
「風祭さんは男嫌いを治しているという事は、好きな人がいるという事なの?」
「え……? それは……だな」
直球な質問だな東堂さん。流石は青眼の東堂真白。直球勝負だ。しかし、恥ずかしがりながらも風祭は答える。濡れた髪がやけに色っぽくて、その身体も相まって今の俺には毒だ。
「私は……私は女だ。好きな人とは心も身体も近くいたい。好きな人と繋がっていたいからこそ、私も強くなる。だから風紀委員会にも入った。私の好きな人は……本当は強い人がだからな」
そう話す風祭は本当に女だった。
その男が好きだからこそ、努力しているのだろう。律儀で、一途な奴だと感心というか尊敬すらする。好きな男の為にここまで変わるというのは、本当に愛しているからだろう。誠高校の誰かは知らないけどな。
風祭も女なんだなと今更ながらに感じた。
すると、少し身を風祭の方に寄せながら東堂さんは聞いている。
「本当は強い人? それって風祭さん。その人の過去を知っていて、今は違うからその人を変えようとしてるって事なの?」
「う! いや、変えようというか……変わって欲しいが本人の事情もあるから……うん……」
「気になるなぁ、風祭さんの好きな人。赤井君も西村さんも気になるよね? そんなに好きなら皆で応援しようよ! ね!?」
「そうだな。応援してるよ風祭」
「ありがとう……赤井」
俯いたまま、風祭は答えた。そして、さっきから黙っている唯に東堂さんは声をかける。
「ねぇ、西村さんはどう?」
気だるそうな顔をして、ホットドッグを食べた唯はむしゃむしゃ口を動かしつつ、
「東堂さん、男女もしどろもどろだからその辺にしてあげな。これ以上尋問したらゲロ吐くわよこの女」
「誰が吐くか西村唯」
「いちいちフルネームで呼ぶな男女」
「ウルサイ西村唯」
『……!』
この二人は水と油だ。どうにも相性が悪い。ホットドッグを食べ終える唯は立ち上がり、それに応じるように風祭も立つ。マジかよ……と思いつつ、二人を止めようとすると聞き慣れた声がその場を止める。
「はい、お二人さんそこまでにしとこ。石田勇ただいま帰還です!」
敬礼ポーズと共に、他の場所で自分の客と遊んでいた勇が戻って来た。
そうして、勇も風祭の変化に驚いているなどのやり取りがあった。何か、昔から知っている五人組のような関係で俺は幸福感すら感じていた。
その勇が戻って来て、何故か勇の客達とビーチバレー大会に参加する事になった。その客達が出した景品も出ると聞き、俺達五人組はチームとしてその大会に挑んだんだ。
その休憩時間――。
携帯ゲーム機とか、ナイトプール無料券などをゲットした俺達は疲れたからフードコートで飲み物と軽食を買いに行っていた。水と油コンビの唯と風祭の活躍は互いに負けたくないから凄まじく、東堂さんは恐ろしく遅いサーブで敵を撹乱した。俺と勇はそれをフォローしつつ、試合をして疲れている。勇だけは試合の場所に残っていた。
「あれは勇の友達じゃないな?」
買い物を終えた俺は待ち合わせ場所に戻ると、女子三人が男達に絡まれていた。さっきのビーチバレー大会にはいなかった集団だ。こういう時に頼れる唯は、赤い顔をして目が虚ろだった。
(普通なら馴れ馴れしい奴にはキレる唯が大人しいな。まさか、酒を飲まされたのか? アイツは酒に弱いからな。風祭は肩を組まれて嫌がっている。何かを飲まされそうになっている東堂さんがヤバイ――)
そのまま俺は一気に駆けた。
同時に、飲み物と食べ物を男達にブチまけた!
『うわぁ!?』
「ごめんなさーい」
ジュースやケチャップまみれになる男達は、マジギレしつつ叫び出す。うるせーなぁという顔をしてそのナンパ野郎達に言った。
「汚れなんてプールに入れば落ちるし、そもそも女を落とせない奴等なら汚れも落ちないのかな? ハハッ! ごめんね」
「この野郎!」
殴りかかって来た男を意識する事も無く二人倒した。すぐに次の連中もかかって来るが、それも簡単に倒してしまう。周囲は騒然とし出し、唯も風祭も東堂さんも俺に見とれていた。
(……身体は動く。敵は強くない。だけど、ここで下手な強さを見せたら俺がグレイで無い事が疑われるかも……)
「何よそ見してんだ! 動いたらこの女達を殴るぜ!」
「……」
男達は三人を人質としていた。
そうして、目の前の茶髪の男が俺に向かって笑いながら歩いて来る。三人は抵抗してと叫んでいるが、ここは何も出来ない。
そう、俺が何もしなければいい。何もしなければ、何も怪しまれずにこの事件は終わる。もう、騒ぎになっているから人が来るだろう。数発殴られば、全てが終わる――。
「そうそう、動くなよ。うらぁ!」
そうして、俺は殴られた。
そうして、俺は灰色から赤い世界へ心が飛んだ。
そうして……俺は意識が赤に染まってしまう。
(……赤く染まる。全てが……昔のように赤く……レッドに……)
俺が殴られているのを観客達は悲鳴を上げて見ていたが、殴られるはずの俺はすでに攻撃を回避している。まるで、男の攻撃を全て読み切っているような俺に、三人の女も見とれていた。
そして、ビーチバレー大会から現場に駆けつけた勇も、変化しつつある俺を見ていたようだ。
「総司……まさか」
その焦った呟きと共に、人質となる唯がゴクリ……と唾を飲み込む。
意識が真っ赤に染まり、全てを壊す男が目覚めた。グレイの俺が否定した、過去の自分が堂々と顔を出してしまう。とうとう、中学時代の俺がまた目を覚ました。その真っ赤な殺意に周囲の人間も気付いていた。
「な、何だよ……お前、人質いるんだから避けるなよ? お前は……何なんだよ!」
焦る男は俺にビビり、俺が歩き出すと転んでしまう。そして、拳を手のひらにぶつけて言った。
「俺の女達に手を出すな」
そうして、あっという間に男達を倒して人質を助けた。まるで何かのパフォーマンスのようなレベルの事だったから、拍手さえ受けていた。
一部始終を見ていた勇は、友達として状況の説明とかをスタッフにしてくれていた。そんなこんなで、俺達はナイトプールから帰る事にしたんだ。
人質となった三人の女達も怪我も無くて無事だ。風祭も東堂さんは俺の強さを褒めてくれていた。まぁ、学校でグレイというキャラの俺が喧嘩が強かったら焦るのも当然だ。喧嘩番長というのなんか、想像出来ないからな。
(唯は……特に無いか)
帰り道でも昔の俺に戻った事に関して、唯は何も言わなかった。それどころか、酒を飲まされたのとナンパ野郎達を相手した私のミスと誤って来た。そうして、俺達は自宅に帰る為に駅前で別れた。
※
「ちょっと待ちなさいよ」
「唯……」
その背後には唯がいた。
周囲にはもう東堂さんも風祭もいないので、俺達は駅前から少し離れたカドで話す。人々が通り過ぎて行く中、さっきの姿は中学生以来なのかを聞いて来た。
「……そうだよ。俺は誠高校じゃ、女も男も好きなグレイ。あの喧嘩番長モードは誰も知らない。あの程度なら、問題無いだろ」
「そうかもね。完全開放されてたら、病院送りだろうし。総司……本当に変わったね。本当にグレイになってなくて良かったよ」
いい加減、この女にちゃんと答えてもらわないとならない事がある。
「唯。お前は一体、俺に何を求めてるんだ?」
「私が総司を求める理由は一つ。ある程度私の行動を理解して、忠告出来る人間だからだよ」
「……それが俺なのか? でも、お前は俺を拒否しただろ? 忠告なら他の人間にしてもらえ。俺とお前は終わったんだ。中学生時代に」
「ただのイエスマンはいらないの。私は、私の欲しいモノを手に入れるだけ」
そう言うと、鮮やかな金髪をひるがえして唯は去って行った。
(まぁ、いいか。唯の奴は俺の過去は話すつもりは無いようだし。それに、あの女が酒を飲まされたミスを俺に謝るとは思いもしなかった。変わったな……唯も)
問題はあったが、かなり楽しめたナイトプールになった。ナイトプールというイメージを悪く持っていた自分がアホだと思うレベルで楽しかった。
グレイから「レッド」に戻りそうになった事以外は――。
こうして、勇以外の人間とは距離を置いていた俺も東堂、西村、風祭という三人の女との交流が深まった。ここから、グレイとしての立ち回りが試される事になったんだ。
俺と東堂さんは水中で立ち尽くしている。それを少し先で見ている唯も唖然としていた。何故かこのナイトプールには風紀委員の風祭がいたんだ。しかも、巨乳でも無いはずの風祭は赤いパレオの付いた水着を着ていて完全に「女」になっていた。
いつも男言葉で、気合いを連呼するボーイッシュな風祭朱音が何故こんな姿に――?
と、俺達が思っていると、東堂さんは青い目を輝かせて微笑む。
「風祭さん……いいね。いつもボーイッシュなのに今日はザ女の子! だね。ギャップ萌えだよ。ギャップ萌え。新しい風祭さんを知れて、私はナイトプール来て良かったと思う!」
「そ、そうか……東堂さんがそう言うならそうなのかもな。私とて女だ。ここでは普通の女の子だからな」
東堂さんはやけに喜んでいて、風祭が上目遣いで俺を見た。唯の言う通り、男女のような感じであったからこのギャップはヤバい。目のやりどころに困りつつも……。
「中々いいと思うぜ……風祭が男嫌いを治す努力は認めるよ。お前は凄い」
「そうか……ありがとう赤井」
安堵したような顔を浮かべ、風祭は微笑んだ。俺も女として初めて風祭を意識したかも知れない。すると、金髪の少女が俺達の間に入って来た。
「ちょっと何やってんのよ総司に男女」
ようやく、呆気にとられていた唯も混ざって来る。明らかにイライラしている唯は風祭さんの身体を舐め回すように見つめて言った。
「まさか、何かで胸を潰して胸の大きさを隠してたとはね。じゃなきゃいきなり巨乳にならないし。わざわざナイトプールにまで現れるなんて、ストーカーかよ男女」
「私は風祭朱音だ。西村唯」
「あっそ」
勢い良くプールの水をかけた。
二人は軽く喧嘩のように水のかけあいになるが、東堂さんもそれに混じり出す。止めないのかよ! と思いつつも、何か東堂さんが混じった事で怒りが収まったのか、唯も風祭も楽しんでたから俺も混ざった。
少し疲れたのと、東堂さんが風祭も合流という流れに持ち込んだのでフードコートへ移動した。オレンジジュースを飲み物を飲みつつ、唯はまた風祭にちょっかいを出した。
「おい男女。ここじゃ、風紀はここでは無いわよ? そもそもアンタのだらしない胸の方が風紀違反じゃないの?」
「こっ、これは仕方の無いものだ。だからこうしてパーカーを着てる……」
「あっそ。アンタも私と似てるわね」
と、軽く呟いているが誰にも聴こえていなかった。俺の座るイスの足を蹴る唯をなだめていると、東堂さんが風祭に話していた。
「風祭さんは男嫌いを治しているという事は、好きな人がいるという事なの?」
「え……? それは……だな」
直球な質問だな東堂さん。流石は青眼の東堂真白。直球勝負だ。しかし、恥ずかしがりながらも風祭は答える。濡れた髪がやけに色っぽくて、その身体も相まって今の俺には毒だ。
「私は……私は女だ。好きな人とは心も身体も近くいたい。好きな人と繋がっていたいからこそ、私も強くなる。だから風紀委員会にも入った。私の好きな人は……本当は強い人がだからな」
そう話す風祭は本当に女だった。
その男が好きだからこそ、努力しているのだろう。律儀で、一途な奴だと感心というか尊敬すらする。好きな男の為にここまで変わるというのは、本当に愛しているからだろう。誠高校の誰かは知らないけどな。
風祭も女なんだなと今更ながらに感じた。
すると、少し身を風祭の方に寄せながら東堂さんは聞いている。
「本当は強い人? それって風祭さん。その人の過去を知っていて、今は違うからその人を変えようとしてるって事なの?」
「う! いや、変えようというか……変わって欲しいが本人の事情もあるから……うん……」
「気になるなぁ、風祭さんの好きな人。赤井君も西村さんも気になるよね? そんなに好きなら皆で応援しようよ! ね!?」
「そうだな。応援してるよ風祭」
「ありがとう……赤井」
俯いたまま、風祭は答えた。そして、さっきから黙っている唯に東堂さんは声をかける。
「ねぇ、西村さんはどう?」
気だるそうな顔をして、ホットドッグを食べた唯はむしゃむしゃ口を動かしつつ、
「東堂さん、男女もしどろもどろだからその辺にしてあげな。これ以上尋問したらゲロ吐くわよこの女」
「誰が吐くか西村唯」
「いちいちフルネームで呼ぶな男女」
「ウルサイ西村唯」
『……!』
この二人は水と油だ。どうにも相性が悪い。ホットドッグを食べ終える唯は立ち上がり、それに応じるように風祭も立つ。マジかよ……と思いつつ、二人を止めようとすると聞き慣れた声がその場を止める。
「はい、お二人さんそこまでにしとこ。石田勇ただいま帰還です!」
敬礼ポーズと共に、他の場所で自分の客と遊んでいた勇が戻って来た。
そうして、勇も風祭の変化に驚いているなどのやり取りがあった。何か、昔から知っている五人組のような関係で俺は幸福感すら感じていた。
その勇が戻って来て、何故か勇の客達とビーチバレー大会に参加する事になった。その客達が出した景品も出ると聞き、俺達五人組はチームとしてその大会に挑んだんだ。
その休憩時間――。
携帯ゲーム機とか、ナイトプール無料券などをゲットした俺達は疲れたからフードコートで飲み物と軽食を買いに行っていた。水と油コンビの唯と風祭の活躍は互いに負けたくないから凄まじく、東堂さんは恐ろしく遅いサーブで敵を撹乱した。俺と勇はそれをフォローしつつ、試合をして疲れている。勇だけは試合の場所に残っていた。
「あれは勇の友達じゃないな?」
買い物を終えた俺は待ち合わせ場所に戻ると、女子三人が男達に絡まれていた。さっきのビーチバレー大会にはいなかった集団だ。こういう時に頼れる唯は、赤い顔をして目が虚ろだった。
(普通なら馴れ馴れしい奴にはキレる唯が大人しいな。まさか、酒を飲まされたのか? アイツは酒に弱いからな。風祭は肩を組まれて嫌がっている。何かを飲まされそうになっている東堂さんがヤバイ――)
そのまま俺は一気に駆けた。
同時に、飲み物と食べ物を男達にブチまけた!
『うわぁ!?』
「ごめんなさーい」
ジュースやケチャップまみれになる男達は、マジギレしつつ叫び出す。うるせーなぁという顔をしてそのナンパ野郎達に言った。
「汚れなんてプールに入れば落ちるし、そもそも女を落とせない奴等なら汚れも落ちないのかな? ハハッ! ごめんね」
「この野郎!」
殴りかかって来た男を意識する事も無く二人倒した。すぐに次の連中もかかって来るが、それも簡単に倒してしまう。周囲は騒然とし出し、唯も風祭も東堂さんも俺に見とれていた。
(……身体は動く。敵は強くない。だけど、ここで下手な強さを見せたら俺がグレイで無い事が疑われるかも……)
「何よそ見してんだ! 動いたらこの女達を殴るぜ!」
「……」
男達は三人を人質としていた。
そうして、目の前の茶髪の男が俺に向かって笑いながら歩いて来る。三人は抵抗してと叫んでいるが、ここは何も出来ない。
そう、俺が何もしなければいい。何もしなければ、何も怪しまれずにこの事件は終わる。もう、騒ぎになっているから人が来るだろう。数発殴られば、全てが終わる――。
「そうそう、動くなよ。うらぁ!」
そうして、俺は殴られた。
そうして、俺は灰色から赤い世界へ心が飛んだ。
そうして……俺は意識が赤に染まってしまう。
(……赤く染まる。全てが……昔のように赤く……レッドに……)
俺が殴られているのを観客達は悲鳴を上げて見ていたが、殴られるはずの俺はすでに攻撃を回避している。まるで、男の攻撃を全て読み切っているような俺に、三人の女も見とれていた。
そして、ビーチバレー大会から現場に駆けつけた勇も、変化しつつある俺を見ていたようだ。
「総司……まさか」
その焦った呟きと共に、人質となる唯がゴクリ……と唾を飲み込む。
意識が真っ赤に染まり、全てを壊す男が目覚めた。グレイの俺が否定した、過去の自分が堂々と顔を出してしまう。とうとう、中学時代の俺がまた目を覚ました。その真っ赤な殺意に周囲の人間も気付いていた。
「な、何だよ……お前、人質いるんだから避けるなよ? お前は……何なんだよ!」
焦る男は俺にビビり、俺が歩き出すと転んでしまう。そして、拳を手のひらにぶつけて言った。
「俺の女達に手を出すな」
そうして、あっという間に男達を倒して人質を助けた。まるで何かのパフォーマンスのようなレベルの事だったから、拍手さえ受けていた。
一部始終を見ていた勇は、友達として状況の説明とかをスタッフにしてくれていた。そんなこんなで、俺達はナイトプールから帰る事にしたんだ。
人質となった三人の女達も怪我も無くて無事だ。風祭も東堂さんは俺の強さを褒めてくれていた。まぁ、学校でグレイというキャラの俺が喧嘩が強かったら焦るのも当然だ。喧嘩番長というのなんか、想像出来ないからな。
(唯は……特に無いか)
帰り道でも昔の俺に戻った事に関して、唯は何も言わなかった。それどころか、酒を飲まされたのとナンパ野郎達を相手した私のミスと誤って来た。そうして、俺達は自宅に帰る為に駅前で別れた。
※
「ちょっと待ちなさいよ」
「唯……」
その背後には唯がいた。
周囲にはもう東堂さんも風祭もいないので、俺達は駅前から少し離れたカドで話す。人々が通り過ぎて行く中、さっきの姿は中学生以来なのかを聞いて来た。
「……そうだよ。俺は誠高校じゃ、女も男も好きなグレイ。あの喧嘩番長モードは誰も知らない。あの程度なら、問題無いだろ」
「そうかもね。完全開放されてたら、病院送りだろうし。総司……本当に変わったね。本当にグレイになってなくて良かったよ」
いい加減、この女にちゃんと答えてもらわないとならない事がある。
「唯。お前は一体、俺に何を求めてるんだ?」
「私が総司を求める理由は一つ。ある程度私の行動を理解して、忠告出来る人間だからだよ」
「……それが俺なのか? でも、お前は俺を拒否しただろ? 忠告なら他の人間にしてもらえ。俺とお前は終わったんだ。中学生時代に」
「ただのイエスマンはいらないの。私は、私の欲しいモノを手に入れるだけ」
そう言うと、鮮やかな金髪をひるがえして唯は去って行った。
(まぁ、いいか。唯の奴は俺の過去は話すつもりは無いようだし。それに、あの女が酒を飲まされたミスを俺に謝るとは思いもしなかった。変わったな……唯も)
問題はあったが、かなり楽しめたナイトプールになった。ナイトプールというイメージを悪く持っていた自分がアホだと思うレベルで楽しかった。
グレイから「レッド」に戻りそうになった事以外は――。
こうして、勇以外の人間とは距離を置いていた俺も東堂、西村、風祭という三人の女との交流が深まった。ここから、グレイとしての立ち回りが試される事になったんだ。
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