1 / 16
一章・石崎恵子
1話・石崎恵子の時の館への入所
しおりを挟む
軽度の認知症と診断された母・石崎恵子は、グループホームへ入所した。そのグループホームは時の館と言い、15人程の男女の老人が暮らしているグループホームだった。
時の館に入る時の荷物として不要なアイロンやら扇風機も持参しての入所であり、それを行う息子の俺は引っ越しのバイトのような労力を感じながら時の館への入所作業を終えた。疲れた顔を隠す事も出来ずに職員に作業を終えた事を伝え、母のいる部屋へ向かう。その時、一階の自室で座っていた母は時の館の庭の景色を見ながら悠々とタバコを吸っていた。
「……康介見てみな。いい景色だよ。庭に花は咲いているし、小さな池に鯉もいる。ここはタバコを美味く吸えそうだね。あーっ……たまらない」
「景色は見学の時に見たから知ってる。それより、タバコはダメだ。時の館に入る時に約束しただろ? 火事の原因にもなるし、ガンの原因にもなる。だからタバコは終わりだ」
「そうだったね! いやいや、コンビニの店員がタバコを勧めて来たから貰ったんだよ。最近のコンビニは優しいねぇ。また行きたいわ」
「そうだな。行ける時があればな。とりあえずタバコは預かるから、職員に引っ越し終わりと挨拶して来な。じゃないと怒られるぞ」
「そうだね! 急がなきゃ!」
そうして、母は吸っていたタバコを庭の池に投げ捨てて、コンビニで買ったタバコを俺に預けて職員の方へ小走りで向かう。
「タバコを池に捨てんなよ……それにライターは渡さなかったな。面倒だがライターも見つけないとな。職員を脅しに使えるのは助かる。これで、俺の苦労も無くなるかな」
どうやら、俺が車から荷物を運んでいた時に、母はコンビニでタバコとおにぎりを購入していたようだ。グループホームなんて行きたくないと言っていたのに、この行動力には驚かされる。
プライドの高い母は職員という立場の人間には表面的には従っている。だから、今の段階では「職員に怒られる」というキーワードが効果的なんだ。
「大好きーーーっ!」
と母は職員に挨拶しながらも、無駄に抱きついたりしていて盛り上がっていた。ジジイやババアと見学後に呼んでいた入居者達にも抱きついている。
「またいつもの演技が始まったか。本当に仲良くなればいいけど……どうだろうな? デイサービスに通っていた時のように面倒な恋愛騒ぎにならないといいが」
こうして、母である石崎恵子のグループホーム・時の館での生活が始まった。
それは、恋愛体質でもある母の新しい恋物語でもあった。
時の館に入る時の荷物として不要なアイロンやら扇風機も持参しての入所であり、それを行う息子の俺は引っ越しのバイトのような労力を感じながら時の館への入所作業を終えた。疲れた顔を隠す事も出来ずに職員に作業を終えた事を伝え、母のいる部屋へ向かう。その時、一階の自室で座っていた母は時の館の庭の景色を見ながら悠々とタバコを吸っていた。
「……康介見てみな。いい景色だよ。庭に花は咲いているし、小さな池に鯉もいる。ここはタバコを美味く吸えそうだね。あーっ……たまらない」
「景色は見学の時に見たから知ってる。それより、タバコはダメだ。時の館に入る時に約束しただろ? 火事の原因にもなるし、ガンの原因にもなる。だからタバコは終わりだ」
「そうだったね! いやいや、コンビニの店員がタバコを勧めて来たから貰ったんだよ。最近のコンビニは優しいねぇ。また行きたいわ」
「そうだな。行ける時があればな。とりあえずタバコは預かるから、職員に引っ越し終わりと挨拶して来な。じゃないと怒られるぞ」
「そうだね! 急がなきゃ!」
そうして、母は吸っていたタバコを庭の池に投げ捨てて、コンビニで買ったタバコを俺に預けて職員の方へ小走りで向かう。
「タバコを池に捨てんなよ……それにライターは渡さなかったな。面倒だがライターも見つけないとな。職員を脅しに使えるのは助かる。これで、俺の苦労も無くなるかな」
どうやら、俺が車から荷物を運んでいた時に、母はコンビニでタバコとおにぎりを購入していたようだ。グループホームなんて行きたくないと言っていたのに、この行動力には驚かされる。
プライドの高い母は職員という立場の人間には表面的には従っている。だから、今の段階では「職員に怒られる」というキーワードが効果的なんだ。
「大好きーーーっ!」
と母は職員に挨拶しながらも、無駄に抱きついたりしていて盛り上がっていた。ジジイやババアと見学後に呼んでいた入居者達にも抱きついている。
「またいつもの演技が始まったか。本当に仲良くなればいいけど……どうだろうな? デイサービスに通っていた時のように面倒な恋愛騒ぎにならないといいが」
こうして、母である石崎恵子のグループホーム・時の館での生活が始まった。
それは、恋愛体質でもある母の新しい恋物語でもあった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
演じる家族
ことは
ライト文芸
永野未来(ながのみらい)、14歳。
大好きだったおばあちゃんが突然、いや、徐々に消えていった。
だが、彼女は甦った。
未来の双子の姉、春子として。
未来には、おばあちゃんがいない。
それが永野家の、ルールだ。
【表紙イラスト】ノーコピーライトガール様からお借りしました。
https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる