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8章 失踪
35話
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二人は椎木宅にお邪魔することになった。
電車で30分のところにある住宅地で、駅からは10分ほど。十分、学校に通える距離にあった。
椎木がそこから学校に通ってないというのはやはり異常だった。
たどり着いたのはごく一般的な分譲マンション。夫婦二人しか住めないという広さではない。
インターホンを押すと、男の声で返事があった。椎木の父のようだ。
しばらくするとドアが開く。
「こんにちは、志田リヒトです」
「鮎沢真理子と申します」
「どうも、椎木大輔です。どうぞ上がって」
出てきたのは何の変哲もない中年男性。
椎木を家から追い出すような人だから、とんでもないヤンキーで暴君なんだろうと思ってたので拍子抜け。
引っ越してきたばかりのようで、部屋にはそんなに物は多くなく、きれいに整頓されていた。
リビングに案内されると、そこには若い女性が座っていた。おそらく志田の母。
30才ぐらいに見えるけど、それは童顔で小柄なせいのようだった。
「キャー! リヒトちゃん、久しぶりー! 元気してたー!?」
志田を見るなり、元気よく飛びついてくる。
ハグされた志田は困り顔であきれ顔。
子供か、ってツッコみたくなる。
「お茶でいいですか?」
「あ、はい。お構いなく」
一方、大輔のほうはとても落ち着いていて、物腰も柔らか。
志田に夢中な母に代わって、みんなにお茶を入れてくれる。
「来た理由はわかってますよね?」
「アイラのことですね」
志田が問うと大輔が答えた。
「娘がご迷惑をおかけしてすみません。学校から連絡がありましたが、行方不明だそうで」
久しぶりにしっかりした応対ができる人にあった気がする。
「どこに行ったか、ご存じありませんか?」
「はあ、娘のことはよく知らないもので」
やっぱり全然しっかりしてなかった。
「失礼ですが、アイラさんを探されていますか?」
「いえ、あの……。志田さんのところにいるのかと思って、特に気にしていませんでした」
「いないからこうして問題になってるんです!」と叫びたくなって真理子は我慢する。
「俺のうちに戻っていません。ここにもいないとなると、どこにいるんでしょうか」
「さあ? 昔から友達の多い子ですから、泊まらせてもらってるんだと思いますが」
「でも、学校を休んでるんですよ。異常事態だとは思わないんですか?」
「誰だって学校を休むことはあるのでしょう。それに無理して学校いくべきだとは考えていません。アイラが行きたくないと思うならそれを尊重します」
このしゃべり方にイライラしてくる。娘を信用しているふうに見せかけてるけど、子供に興味がないだけだ。そうやって自分を正当化している。そういう話じゃないと叫んでやりたい。
真理子の父も、子供に関して無関心だったけど、大輔は子供を大切にしてるように見せかけている分だけタチが悪かった。
志田も言い返すのを我慢しているようで、歯を食いしばっている。
「私たちも困っているんですよ。自由にさせてあげているのに、こんなに迷惑をかけて」
今度は被害者づら。ホント話にならない。
「それは、母さんも同じ意見?」
志田は自分の母に問う。
「私?」
きょとんとしてる。志田の母はどうして自分に投げてきたのか、本当にわからないようだった。
「別に私の子じゃないし。彼女が好きにしたいようにすればいいのでは?」
これは志田も私も、口をあんぐり。
まさに開いた口がふさがらない。
「母さんがアイラを追い出したんじゃないの?」
「追い出しなんて人聞きの悪い。別に一緒に住まなくてもいいって言っただけよ。彼女だってもう高校生なんだし、選ぶ権利はあるでしょ? 私だったら親の再婚相手と一緒に暮らしたくないわ」
何を言っているんだろう、この人は。
一見正しいようにも聞こえるから怖い。
直接的に出て行け、と言ってないようだけど、積極的に受け入れはしなかった模様。おそらく、大輔も自分の意見を持たず、それに同調したのだろう。
「ホント、自分勝手なところは変わらないんだね……」
「人間なんてみんな自分勝手でしょ? 聞いたわよ。リヒトちゃんも女の子と一緒に暮らしているんだって? この子?」
志田の母が真理子を見る。
それは吟味するような目でも、歓迎する目でもなかった。たいした興味はなく、ただ見ているだけ。
「それはリヒトちゃんも一人前の人間になったってことでしょ。いいことじゃない。自分の思うことに責任もって行動する。それが自分勝手というものよ」
志田は反論できない。自分も高校生にはあまりふさわしくない判断をして行動をしてしまっているから。
父から自由を許されているのをいいことに、志田は真理子を家に住まわせた。それは結果的にいいことであるし、本人たちも納得している。でも、一歩間違えれば大事件になる。そうなったら、周りに「なんて自分勝手な高校生なんだ」と言われてしまう。
人を巻き込むというのは、人として大きな行動であり、それだけ責任も重いことだと思い知らされる。
「私は大輔さんと一緒にいたくて結婚したのよ。それで他人に配慮する必要がある? むしろアイラちゃんには選ぶ権利を与えたんだからいい母親じゃない? ここに住むのもいいし、好きな人と一緒になるのもいい。それも嫌なら、リヒトちゃんを頼るのもいいと私は思ったの」
独自の論理が展開され、飲まれそうになってしまう。
見た目は若々しいし、のほほんとしている感じはあるけれど、中身は「結婚という法律的な関係に縛られたくない」といって結婚しなかった人のそれだ。なんだかんだで頭がいい。
電車で30分のところにある住宅地で、駅からは10分ほど。十分、学校に通える距離にあった。
椎木がそこから学校に通ってないというのはやはり異常だった。
たどり着いたのはごく一般的な分譲マンション。夫婦二人しか住めないという広さではない。
インターホンを押すと、男の声で返事があった。椎木の父のようだ。
しばらくするとドアが開く。
「こんにちは、志田リヒトです」
「鮎沢真理子と申します」
「どうも、椎木大輔です。どうぞ上がって」
出てきたのは何の変哲もない中年男性。
椎木を家から追い出すような人だから、とんでもないヤンキーで暴君なんだろうと思ってたので拍子抜け。
引っ越してきたばかりのようで、部屋にはそんなに物は多くなく、きれいに整頓されていた。
リビングに案内されると、そこには若い女性が座っていた。おそらく志田の母。
30才ぐらいに見えるけど、それは童顔で小柄なせいのようだった。
「キャー! リヒトちゃん、久しぶりー! 元気してたー!?」
志田を見るなり、元気よく飛びついてくる。
ハグされた志田は困り顔であきれ顔。
子供か、ってツッコみたくなる。
「お茶でいいですか?」
「あ、はい。お構いなく」
一方、大輔のほうはとても落ち着いていて、物腰も柔らか。
志田に夢中な母に代わって、みんなにお茶を入れてくれる。
「来た理由はわかってますよね?」
「アイラのことですね」
志田が問うと大輔が答えた。
「娘がご迷惑をおかけしてすみません。学校から連絡がありましたが、行方不明だそうで」
久しぶりにしっかりした応対ができる人にあった気がする。
「どこに行ったか、ご存じありませんか?」
「はあ、娘のことはよく知らないもので」
やっぱり全然しっかりしてなかった。
「失礼ですが、アイラさんを探されていますか?」
「いえ、あの……。志田さんのところにいるのかと思って、特に気にしていませんでした」
「いないからこうして問題になってるんです!」と叫びたくなって真理子は我慢する。
「俺のうちに戻っていません。ここにもいないとなると、どこにいるんでしょうか」
「さあ? 昔から友達の多い子ですから、泊まらせてもらってるんだと思いますが」
「でも、学校を休んでるんですよ。異常事態だとは思わないんですか?」
「誰だって学校を休むことはあるのでしょう。それに無理して学校いくべきだとは考えていません。アイラが行きたくないと思うならそれを尊重します」
このしゃべり方にイライラしてくる。娘を信用しているふうに見せかけてるけど、子供に興味がないだけだ。そうやって自分を正当化している。そういう話じゃないと叫んでやりたい。
真理子の父も、子供に関して無関心だったけど、大輔は子供を大切にしてるように見せかけている分だけタチが悪かった。
志田も言い返すのを我慢しているようで、歯を食いしばっている。
「私たちも困っているんですよ。自由にさせてあげているのに、こんなに迷惑をかけて」
今度は被害者づら。ホント話にならない。
「それは、母さんも同じ意見?」
志田は自分の母に問う。
「私?」
きょとんとしてる。志田の母はどうして自分に投げてきたのか、本当にわからないようだった。
「別に私の子じゃないし。彼女が好きにしたいようにすればいいのでは?」
これは志田も私も、口をあんぐり。
まさに開いた口がふさがらない。
「母さんがアイラを追い出したんじゃないの?」
「追い出しなんて人聞きの悪い。別に一緒に住まなくてもいいって言っただけよ。彼女だってもう高校生なんだし、選ぶ権利はあるでしょ? 私だったら親の再婚相手と一緒に暮らしたくないわ」
何を言っているんだろう、この人は。
一見正しいようにも聞こえるから怖い。
直接的に出て行け、と言ってないようだけど、積極的に受け入れはしなかった模様。おそらく、大輔も自分の意見を持たず、それに同調したのだろう。
「ホント、自分勝手なところは変わらないんだね……」
「人間なんてみんな自分勝手でしょ? 聞いたわよ。リヒトちゃんも女の子と一緒に暮らしているんだって? この子?」
志田の母が真理子を見る。
それは吟味するような目でも、歓迎する目でもなかった。たいした興味はなく、ただ見ているだけ。
「それはリヒトちゃんも一人前の人間になったってことでしょ。いいことじゃない。自分の思うことに責任もって行動する。それが自分勝手というものよ」
志田は反論できない。自分も高校生にはあまりふさわしくない判断をして行動をしてしまっているから。
父から自由を許されているのをいいことに、志田は真理子を家に住まわせた。それは結果的にいいことであるし、本人たちも納得している。でも、一歩間違えれば大事件になる。そうなったら、周りに「なんて自分勝手な高校生なんだ」と言われてしまう。
人を巻き込むというのは、人として大きな行動であり、それだけ責任も重いことだと思い知らされる。
「私は大輔さんと一緒にいたくて結婚したのよ。それで他人に配慮する必要がある? むしろアイラちゃんには選ぶ権利を与えたんだからいい母親じゃない? ここに住むのもいいし、好きな人と一緒になるのもいい。それも嫌なら、リヒトちゃんを頼るのもいいと私は思ったの」
独自の論理が展開され、飲まれそうになってしまう。
見た目は若々しいし、のほほんとしている感じはあるけれど、中身は「結婚という法律的な関係に縛られたくない」といって結婚しなかった人のそれだ。なんだかんだで頭がいい。
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