シチューにカツいれるほう?

とき

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8章 失踪

34話

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 朝起きると、志田が朝ご飯とお弁当を作っていた。
 けれどリビングのソファーには椎木の姿はなかった。

「おはよう。椎木さんは?」
「起きたときにはいなかった。出かけたのかな? 弁当どうしたもんか」
「学校いった? それとも、泊まってた人のところに教科書取りに行ったとか?」
「そうかもな。しゃあない、弁当は一応持っていってやるか」

 しかし、椎木は学校にもいなかった。
 お昼休みにC組を訪ねてみるが、「今日は休み」と言われてしまう。

「椎木さんって学校よく休むの?」
「ううん。今日がはじめて」

 クラスの女の子が答える。

「ああ見えてけっこう真面目なんだよね」
「何かあったか聞いてない?」
「さあ? 男のところじゃない?」

 椎木の周りの評価はそういうものらしい。
 椎木がどこに行ったのかはわからなかったけど、椎木の連絡先は入手できた。
 すぐに電話をかけてみるけれど、反応なし。
 気づいたら連絡ちょうだいと、ラインやらショートメールを送っておく。
 授業が終わりすぐに帰宅するけれど、やはり椎木の姿はなく、返信もなかった。

「どこ行っちゃんだろ……。私、まずいこと言っちゃったのかな……」

 椎木が家にいづらくなることを言ってしまったのか、不安でしょうがなかった。
 いつもケラケラとしているから、そういうのがあっても絶対に気づかない自信がある。

「大丈夫だって。どっか行くところがあったから行っただけだ」
「だといいんだけど……」

 昨晩のやりとりで少しはわかりあえた気になっていた。
 「この家にいてもいいんだよ」とまで声をかけていればよかったと後悔してしまう。
 ホント後悔先に立たず。後になればなんとでも言えてしまう。

「私、嫌な子になってる……。椎木さんがいなければいいと思ってたのに、今ではこんなに心配してる……」
「そんなことないだろ。アイザワがやさしいだけだ。自分の気持ちをないがしろにしてまで、アイラを優先しようとしている。普通できることじゃない」

 そう言って志田は真理子の肩を抱く。
 あたたかくてやさしい。
 物理的に支えられていることが頼もしくて、心も支えられている感じがした。

「ありがと。そう言ってくれるのも志田くんだけだよ」

 真理子がそう言うと、志田は照れくさそうに笑い、真理子の髪をやさしく撫でた。
 つらいときに支え合える。やさしい言葉、やさしい行動をした分だけ返って来る。
 それが家族なのかもしれない。




 それから数日、椎木が戻ってくることはなく、連絡もなかった。
 学校もずっと休んでいるようで、学校でも話題になっていたが、どこにいるのか、どうして休んでいるのかは不明だった。

「やっぱりトラブルに巻き込まれたんだよ。探しに行こうよ!」
「その気持ちはわかるが、どこを探すんだ?」
「うっ……」

 椎木のことはほとんど知らない。実家がどこにあるか、普段どこで遊んでいるか、誰が友達なのか。

「学校休んでるのは親に連絡いってるんでしょ? 何か知らないのかな」
「親、か……」

 椎木の現在の母は、志田の母。
 連絡を取ろうと思えば取れたけれど、志田は母と何かあるようで、これまで連絡していなかった。

「ぐだぐだ言ってる場合じゃないな。母さんに連絡してみる」
「大丈夫なの……?」
「アイラのことを聞くだけだ、たいしたことない」

 そう言いつつも志田の顔には緊張が見えた。
 いつもクールなところしか見せないので、心配になってしまう。

「アイザワも親と向き合ったんだ。俺もやらないとカッコつかないだろ」

 志田は笑って余裕の表情を見せてくれる。

「うん、応援してる!」

 生きる上で、苦手だから嫌だからと逃げていられないことがある。そういう時は誰かが応援してあげないといけない。
 解決できるのは志田本人だけ。自分は応援しかできないけれど、それが何より心強いことを真理子は知っている。
 志田は覚悟を決めて、自分の母についに電話をする。

「もしもし、母さん? ……うん、久しぶり。あ、そうじゃなくて……。あの、今日は聞きたいことがあって……」

 たどたどしい言葉でしゃべる志田ははじめて見た。常に緊張して自信がない。

「椎木のことなんだけどさ。……知ってる、再婚したんだろ。いや、その話は今はよくて……。アイラはそっちにいるのか? ちょっと、そうじゃないんだって。ああ……。もういい。そっち行くから住所送って」

 電話の相手が何を言っているのかわからなかったけど、志田がものすごい振り回されている。
 椎木の所在さえわかればいいのに、それすら聞き出せていないようだった。
 電話を切ると志田は大きいため息を吐いた。

「ちょっと出かけてくる」
「ホント会話できない相手なんだね……」
「自分のことしか興味ないんだよ……」

 志田に焦りといらだちが見える。

「私も行くよ」
「ああ、助かる」

 志田がすんなり自分を頼ってくれてうれしい。
 志田はすぐバイトをキャンセルする電話を入れた。
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