シチューにカツいれるほう?

とき

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6章 二人暮らし 

27話

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「友達と誕生日祝ったりしないの?」

 ケーキを食べながら真理子は聞いてみる。

「ないな。男はたぶんそういうのしない」
「そうなんだ。女子はよくやるけどね」

 家では形式的に誕生日を祝ってくれる。おめでとうとは言われないけれど、ケーキは出てくる。それが本当に「祝う」というものなのか謎だけど。
 なので、それとは別に友達と一緒にわいわいケーキを食べることにしていた。

「志田くん、よく一人でいるよね」

 ここまで仲良くなったのだから、このぐらいは踏み込んでも大丈夫。聞いてみたかったことを聞いてみた。

「ああ。あんまり友達いないからな」
「声かければみんな乗ってくると思うんだけど」
「そうか? 話が合わないと思うぞ」

 自ら孤立を推進させているかのような発言。
 これでも普通の高校生なんだし、そんなわけないはず。

「別に下に見てるわけじゃないんだが……。『毎日何して過ごしてるか』から『何をして生きるか』ぐらいまで、普段考えてることや悩むところが、普通の奴と違うんだよ」
「そ、そうなの……?」
「全部一人でやらないといけなくなって、大人みたいな考えになったせいだろうな。冷静に考えると周りが子供に見える」

 実際子供なのだけど。

「なんか価値観違うなって思うと、話すのも面倒になって。そんな考えよくないのはわかってるが、気づくと一人でいるようになった。話すのなんて事情知ってる川上ぐらいだ」
「川上くんはしっかりしてるよね」

 変わり者の志田によくついてきてくれている。ホント人格者だ。
 そのとき、家の電話が鳴った。
 志田はいつもスマホで電話しているので、家の固定電話が鳴るのははじめてだった。

「志田くん、電話」
「ああ」

 志田はめんどくさそうにして電話に出る。
 勧誘の電話を嫌って、普段は出ないのかもしれない。

「はい。……え? はい、そうですが」

 志田は急に神妙な顔つきになる。
 真理子の顔をちらっと見てから、会話が聞こえないように受話器を手で覆った。
 これは間違いなく、真理子に関わる電話だった。
 でも真理子にできるのは志田がうまく立ち回ってくれることを祈るのみ。

「はい、よろしくお願いします。それでは」

 特に声を荒げることなく淡々としたやりとりが数分続いたあと、志田は電話を切った。

「誰だったの……?」

 たぶん母ではない。母だったらこんなやりとりでは済まない。

「アイザワの父親」
「え? お父さん……?」

 意外な人物だった。
 父は家のことに無関心で、真理子が母にどんな仕打ちを受けていようと黙殺していた。今回、最大級のトラブルとなっているのに、そこで父が関わろうとするのがよくわからなかった。

「なに言ってたの?」
「お前のことよろしくってさ」
「は?」

 思わず低い声が出た。
 急に何を言い出すのか。これまで何もしなかったあげく、さらに明確な責任放棄?

「かいつまんで言うと、アイザワに悪いことしてたって思ってたみたいだ」
「はあ……」

 そう思ってたならなんで助けてくれなかったんだろう。結局、面倒事に首をつっこむ勇気はなくて、別に自分のことなんてどうでもよかったんだ。
 怒ってもいいところだけど、どうでもよすぎて呆れることしかできなかった。

「『何もできないけど、困ったことがあったら言ってくれ。お金なら出す』って。ふざけたこと言うよな」

 淡々と父の言うことを伝えていた志田だが、ここに来て毒が混じる。

「そういう人なんだよ」

 何もしてくれない父。自分に被害が回ってくることを嫌っている。
 でも、こうして電話をしてきたのは驚いた。いつもならそのまま静観しているはずなのに。
 電話番号は学校に連絡して、無理に聞き出したようだった。どういう心境の変化があったんだろう。
 ようやく父らしくて父らしくないことをされた感じがした。
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