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戦争は終わった。
なんてことはない。連邦軍本部から戦え、という命令が来なくなり、軍隊は戦争をしなくなったのだ。
誰も戦争を望んでいなかったのだ。命令されたから従った。それがやるべきことだと思ったからやった。それで何かが変わると上の者が考えたなら、従ってもいいと思っていたのだ。
「これからどうなるんだろうな」
「分からん」
ダリルとルイーサは地球にいた。
ダリルは長いこと顔を出していなかった実家に戻っていたのだ。
「政府も軍もバラバラ。何も残っちゃいない。バックアップも俺たちが壊しちまったからな」
ヘルムートは連合政府と軍を吹き飛ばしたが、AIゼウスにその代替を務めさせ、世界は何事もなかったかのように回っていたのだ。だが、今は代わるものがない。
「問題なかろう。世界連合ができる前に戻るだけだ。それぞれが好きなように国を作るさ」
「そうだな。今度は好きなもの同士が集まって国を作ればいい。やりたい奴がやりゃあ、つまんないことで揉めないで済む」
ダリルは拾った石ころをぽいっと投げる。
「ダリルは面白いことを言うな」
「そうか? 世界を全部一つにするとか、一つだけしか残さないとか、無理があったんだよ。宇宙は広いが、人はもっと多いんだ」
「ふふ、そうだな」
ルイーサは草原に寝そべるダリルの頭を優しくなでた。
「あれ」
「ん?」
ダリルは空の一点を指さす。
「エンデュリングだ」
「よく見えるな」
「一年乗ってたからな」
「恋しいか?」
「まあな」
「ふふ、今度遊びにいくか」
「やめとく」
ダリルは空を見るのをやめ、目を閉じる。
「意地を張るな」
ルイーサはダリルの唇にキスをした。
エンデュリングは多くの戦死者を出した。生きて戻ったのは50人もいなかったと言われている。
船体も原形が分からないほどに傷ついていたが、終戦後、大規模修復が行われた。
恒久な平和の象徴として、元の美しい姿に戻したいと多く市民が望んだからである。
大破した主砲1基は撤去され、航空甲板が設置された。これにより、エンデュリングはエピメテウスの離発着が可能になった。
バトルユニットは修復が難しく、除隊処分となり廃棄された。復元しようという声も上がったが、戦後復興に回すべきと判断が下り、新造プランはお蔵入りになった。
終戦から1年が経ったが、エンデュリングの役目は変わらなかった。世界各地を周り、航空ショーをする。それが真に求められる平和の象徴としての活動だった。
活動再開に際して、方針が変更された。前の艦長はおじさんだったので、今回は気分を一新し、若い少女を艦長にしようという意見が上がる。満場一致で、その案が採用されることになる。
「艦長、そろそろヒューストンにつきますよ」
「もうそんな時間……?」
艦長席に座る少女は大きなあくびをする。
「ふわぁ。最近、忙しくって寝る時間もないよ」
「だからって仕事中に寝ないでください」
「はーい。ジェシカは真面目だよね」
「艦長が不真面目になっただけです」
ネリーは眠い目をこすって、艦長帽をかぶる。
「まあ、そのために私がいるのだ。飛行中くらい、艦長には寝かせてやりなさい」
「甘やかしてはなりません。シュテーグマン司令といえど、軍規の乱れる発言はよしてください」
「はい……」
50歳近い老練の軍人シュテーグマンはしゅんとしてしまう。
「おじーちゃん、またいじめられてるー」
「アイギス、司令におじーちゃんは失礼っていつも言ってるでしょう」
ケラウノスはいつものようにアイギスをたしなめた。
「だって、命の恩人に厳しすぎると思わない?」
前の戦争で、セイレーン隊は全滅した。屈することをよしとせず、大艦隊を相手に戦い続けたのだ。
シュテーグマンは、セイレーン隊の生存者をなんとしても探すよう指示し、ジェシカを救出した。
「構わんよ。私はただのじじい。仕事があるだけマシなのだよ」
「おじーちゃん、この仕事好きなの?」
「ああ。戦争よりずっといい」
「ふーん」
「じゃあ、エピメテウス見てくるね」
アイギスとシュテーグマンのやりとりをよそに、ネリーはそう言って席を立つ。
「今日のフライトは追加スラスターなしですからね」
「はーい」
ネリーはブリッジを飛び出し、新品の格納庫へと向かった。
「ネリー、明るくなったね」
「ええ。強くなられたのでしょうね。今では艦長兼パイロット。ダリル艦長の後を継ぐと頑張っていましたから」
「夢が叶ったのかー。うんうん、自分のやりたいことをやれるのはいいことだ」
「あれ? アイギスはバカスカ、弾を撃ちまくりたいんじゃないんですか?」
ケラウノスが意地悪に言う。
「それは昔の話。今は違うから。今はこうして空から地球を見るのが好き」
人が宇宙で暮らすようになって200年以上が経過し、地球の環境はだいぶ改善された。昔は青い地球と言われていたが、最近ではまた青く見えるようになってきたという。
「武器なんていらない。それよか、ピエロでけっこう!」
青い空を白い翼が飛んでいく。
なんてことはない。連邦軍本部から戦え、という命令が来なくなり、軍隊は戦争をしなくなったのだ。
誰も戦争を望んでいなかったのだ。命令されたから従った。それがやるべきことだと思ったからやった。それで何かが変わると上の者が考えたなら、従ってもいいと思っていたのだ。
「これからどうなるんだろうな」
「分からん」
ダリルとルイーサは地球にいた。
ダリルは長いこと顔を出していなかった実家に戻っていたのだ。
「政府も軍もバラバラ。何も残っちゃいない。バックアップも俺たちが壊しちまったからな」
ヘルムートは連合政府と軍を吹き飛ばしたが、AIゼウスにその代替を務めさせ、世界は何事もなかったかのように回っていたのだ。だが、今は代わるものがない。
「問題なかろう。世界連合ができる前に戻るだけだ。それぞれが好きなように国を作るさ」
「そうだな。今度は好きなもの同士が集まって国を作ればいい。やりたい奴がやりゃあ、つまんないことで揉めないで済む」
ダリルは拾った石ころをぽいっと投げる。
「ダリルは面白いことを言うな」
「そうか? 世界を全部一つにするとか、一つだけしか残さないとか、無理があったんだよ。宇宙は広いが、人はもっと多いんだ」
「ふふ、そうだな」
ルイーサは草原に寝そべるダリルの頭を優しくなでた。
「あれ」
「ん?」
ダリルは空の一点を指さす。
「エンデュリングだ」
「よく見えるな」
「一年乗ってたからな」
「恋しいか?」
「まあな」
「ふふ、今度遊びにいくか」
「やめとく」
ダリルは空を見るのをやめ、目を閉じる。
「意地を張るな」
ルイーサはダリルの唇にキスをした。
エンデュリングは多くの戦死者を出した。生きて戻ったのは50人もいなかったと言われている。
船体も原形が分からないほどに傷ついていたが、終戦後、大規模修復が行われた。
恒久な平和の象徴として、元の美しい姿に戻したいと多く市民が望んだからである。
大破した主砲1基は撤去され、航空甲板が設置された。これにより、エンデュリングはエピメテウスの離発着が可能になった。
バトルユニットは修復が難しく、除隊処分となり廃棄された。復元しようという声も上がったが、戦後復興に回すべきと判断が下り、新造プランはお蔵入りになった。
終戦から1年が経ったが、エンデュリングの役目は変わらなかった。世界各地を周り、航空ショーをする。それが真に求められる平和の象徴としての活動だった。
活動再開に際して、方針が変更された。前の艦長はおじさんだったので、今回は気分を一新し、若い少女を艦長にしようという意見が上がる。満場一致で、その案が採用されることになる。
「艦長、そろそろヒューストンにつきますよ」
「もうそんな時間……?」
艦長席に座る少女は大きなあくびをする。
「ふわぁ。最近、忙しくって寝る時間もないよ」
「だからって仕事中に寝ないでください」
「はーい。ジェシカは真面目だよね」
「艦長が不真面目になっただけです」
ネリーは眠い目をこすって、艦長帽をかぶる。
「まあ、そのために私がいるのだ。飛行中くらい、艦長には寝かせてやりなさい」
「甘やかしてはなりません。シュテーグマン司令といえど、軍規の乱れる発言はよしてください」
「はい……」
50歳近い老練の軍人シュテーグマンはしゅんとしてしまう。
「おじーちゃん、またいじめられてるー」
「アイギス、司令におじーちゃんは失礼っていつも言ってるでしょう」
ケラウノスはいつものようにアイギスをたしなめた。
「だって、命の恩人に厳しすぎると思わない?」
前の戦争で、セイレーン隊は全滅した。屈することをよしとせず、大艦隊を相手に戦い続けたのだ。
シュテーグマンは、セイレーン隊の生存者をなんとしても探すよう指示し、ジェシカを救出した。
「構わんよ。私はただのじじい。仕事があるだけマシなのだよ」
「おじーちゃん、この仕事好きなの?」
「ああ。戦争よりずっといい」
「ふーん」
「じゃあ、エピメテウス見てくるね」
アイギスとシュテーグマンのやりとりをよそに、ネリーはそう言って席を立つ。
「今日のフライトは追加スラスターなしですからね」
「はーい」
ネリーはブリッジを飛び出し、新品の格納庫へと向かった。
「ネリー、明るくなったね」
「ええ。強くなられたのでしょうね。今では艦長兼パイロット。ダリル艦長の後を継ぐと頑張っていましたから」
「夢が叶ったのかー。うんうん、自分のやりたいことをやれるのはいいことだ」
「あれ? アイギスはバカスカ、弾を撃ちまくりたいんじゃないんですか?」
ケラウノスが意地悪に言う。
「それは昔の話。今は違うから。今はこうして空から地球を見るのが好き」
人が宇宙で暮らすようになって200年以上が経過し、地球の環境はだいぶ改善された。昔は青い地球と言われていたが、最近ではまた青く見えるようになってきたという。
「武器なんていらない。それよか、ピエロでけっこう!」
青い空を白い翼が飛んでいく。
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