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第二章・お鶴さんの恋愛事情
弐
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「いいんですかい? 畳までびしょ濡れになっちまいますよ?」
「かまわない」
端的に言う文字屋に胡散臭い視線を向け、お鶴が両羽で湯呑みを包む。
息を凝らすように見つめる文字屋に倣い、千代も息を詰める。
ビチャビチャと滴る水が、ちゃぶ台の上で跳ねる。
お鶴の両羽が近づくにつれ、濁った泥色となり、水たまりへ変わる。
──直後。
ちゃぶ台に湯呑みを残し。
お鶴の両羽だけが、水たまりの中にどぷんと沈んだ。
「え⁈ お鶴さんの羽が消えた⁈」
「な、な、なんですかい、これは⁈」
「……ふむ。湯呑みは沈まない。水たまりの水は溢れない」
慌てふためく千代とお鶴をよそに、立ち上がった文字屋がなんの躊躇いもなく、水たまりに左拳を突っ込む。
コツン。
すぐさま、拳がちゃぶ台に当たった音がした。
「文字屋くん、大丈夫なの……?」
「ああ。水たまりは見えているが、水の感触はない。お鶴にだけ作用するみたいだな。
お鶴、今よりも深く入れてみろ。底に手は届くか?」
「ええええ! もっと入れろって言うんですかい⁉︎」
「早く」
文字屋が左拳を引き抜く。
しばらくお鶴は渋っていたが、口をへの字に曲げた文字屋を見て、羽を奥に入れ始めた。
「……どんどん入りますけど……底があるようには思えませんねぇ……」
「何かに引っ張られるか?」
「かまわない」
端的に言う文字屋に胡散臭い視線を向け、お鶴が両羽で湯呑みを包む。
息を凝らすように見つめる文字屋に倣い、千代も息を詰める。
ビチャビチャと滴る水が、ちゃぶ台の上で跳ねる。
お鶴の両羽が近づくにつれ、濁った泥色となり、水たまりへ変わる。
──直後。
ちゃぶ台に湯呑みを残し。
お鶴の両羽だけが、水たまりの中にどぷんと沈んだ。
「え⁈ お鶴さんの羽が消えた⁈」
「な、な、なんですかい、これは⁈」
「……ふむ。湯呑みは沈まない。水たまりの水は溢れない」
慌てふためく千代とお鶴をよそに、立ち上がった文字屋がなんの躊躇いもなく、水たまりに左拳を突っ込む。
コツン。
すぐさま、拳がちゃぶ台に当たった音がした。
「文字屋くん、大丈夫なの……?」
「ああ。水たまりは見えているが、水の感触はない。お鶴にだけ作用するみたいだな。
お鶴、今よりも深く入れてみろ。底に手は届くか?」
「ええええ! もっと入れろって言うんですかい⁉︎」
「早く」
文字屋が左拳を引き抜く。
しばらくお鶴は渋っていたが、口をへの字に曲げた文字屋を見て、羽を奥に入れ始めた。
「……どんどん入りますけど……底があるようには思えませんねぇ……」
「何かに引っ張られるか?」
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