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第二章・お鶴さんの恋愛事情
弐
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「運が良かったね。文字屋の旦那が面倒を見てくれるなら安心さ。この町で人間に優しいのは、文字屋の旦那ぐらいだからねぇ」
「ホッホー! お鶴さん! 自分も優しいのです! ホッホー!」
「新聞屋の旦那の場合、下心みえみえですからねぇ。あわよくば取材したいっていう」
「ホー? そんな事はないのですよ? ホー?」
「あっはっは。今更そんな顔をしても遅い遅い」
体を揺らし、お鶴が豪快に笑い飛ばす。
新聞屋が「おかしいですね。ホー?」と首を傾げ、千代もつられて笑う。
(人間を知らない住民にとって、わたしが怖い存在なのは当たり前。わたしだって、知らないものはこわいし。
でも、文字屋くん、新聞屋さん、お鶴さんみたいに。自分の言葉で話ができたら。他の住民とも、仲良くなれるかもしれない)
「あんた。名前はなんていうんだい」
「秋野千代です。秋の野原、千の苗代です」
「ちよ、ちよ、ちよ。よし、覚えた。
ちよ、これもなにかの縁さ。あんたが探している文字、あたしも探してあげるよ」
「本当ですか⁉︎ わー! すっごく助かります!」
勿怪の幸い、棚からぼたもち。
お鶴に後光が差して見え、千代はお鶴の右羽を握る。
……ビシャッ。ボタボタッ。
握った手の間から濁った泥水が応接テーブルに落ち、千代の足元へ跳ねる。
「ホッホー! お鶴さん! 自分も優しいのです! ホッホー!」
「新聞屋の旦那の場合、下心みえみえですからねぇ。あわよくば取材したいっていう」
「ホー? そんな事はないのですよ? ホー?」
「あっはっは。今更そんな顔をしても遅い遅い」
体を揺らし、お鶴が豪快に笑い飛ばす。
新聞屋が「おかしいですね。ホー?」と首を傾げ、千代もつられて笑う。
(人間を知らない住民にとって、わたしが怖い存在なのは当たり前。わたしだって、知らないものはこわいし。
でも、文字屋くん、新聞屋さん、お鶴さんみたいに。自分の言葉で話ができたら。他の住民とも、仲良くなれるかもしれない)
「あんた。名前はなんていうんだい」
「秋野千代です。秋の野原、千の苗代です」
「ちよ、ちよ、ちよ。よし、覚えた。
ちよ、これもなにかの縁さ。あんたが探している文字、あたしも探してあげるよ」
「本当ですか⁉︎ わー! すっごく助かります!」
勿怪の幸い、棚からぼたもち。
お鶴に後光が差して見え、千代はお鶴の右羽を握る。
……ビシャッ。ボタボタッ。
握った手の間から濁った泥水が応接テーブルに落ち、千代の足元へ跳ねる。
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