32 / 102
第二章・お鶴さんの恋愛事情
弐
しおりを挟む
「ホッホー! その言い回しに立ち居振る舞いは、紙屋のお鶴さんですな! ホッホー!」
「かみや……。新聞屋さん、かみはどんな字を書くの?」
「新聞紙の紙です。ホッホー!」
「紙屋さんかぁ。文字を書いた紙もあるかしら……よいしょっと!」
暗室から運び出した古新聞を、千代は作業机に置く。
休刊日が存在しない宵闇町新聞は、五百年前から発刊されている。
一番古い新聞ですら、綺麗なまま残っていて良かったと思う反面。
「紙屋さんは製紙業です。売り物に文字が書いてあったら大問題なのです。ホッホー!」
「じゃあ、やっぱり……」
なんの手がかりもない今。
五百年分の新聞から【帰】を探すのか、と。
千代は溜息の一つもつきたくなる。
(行書体はまだ! まだ、なんとかなるけれど……。草書体はちんぷんかんぷん……。篆書と隷書は……中国の泰とか、どこそれレベルです!
しかも篆書は二つあって……大篆が籀書 で……小篆が……眠くなってきちゃった……文字屋くんの説明、歴史の授業みたいで……うふふ、お肉ぅ……)
千代が机に突っ伏しかけた直後。
カランカラン、カランカラン。
新聞店の扉のドアベルが鳴る。
「ホッホー! 噂をすればお鶴さんなのです! ホッホー!」
「あらいやだ、新聞屋の旦那。そんなに、あたしに会いたかったのかい?」
風呂敷包みを抱えた着物美人──お鶴が笑っていた。
「かみや……。新聞屋さん、かみはどんな字を書くの?」
「新聞紙の紙です。ホッホー!」
「紙屋さんかぁ。文字を書いた紙もあるかしら……よいしょっと!」
暗室から運び出した古新聞を、千代は作業机に置く。
休刊日が存在しない宵闇町新聞は、五百年前から発刊されている。
一番古い新聞ですら、綺麗なまま残っていて良かったと思う反面。
「紙屋さんは製紙業です。売り物に文字が書いてあったら大問題なのです。ホッホー!」
「じゃあ、やっぱり……」
なんの手がかりもない今。
五百年分の新聞から【帰】を探すのか、と。
千代は溜息の一つもつきたくなる。
(行書体はまだ! まだ、なんとかなるけれど……。草書体はちんぷんかんぷん……。篆書と隷書は……中国の泰とか、どこそれレベルです!
しかも篆書は二つあって……大篆が籀書 で……小篆が……眠くなってきちゃった……文字屋くんの説明、歴史の授業みたいで……うふふ、お肉ぅ……)
千代が机に突っ伏しかけた直後。
カランカラン、カランカラン。
新聞店の扉のドアベルが鳴る。
「ホッホー! 噂をすればお鶴さんなのです! ホッホー!」
「あらいやだ、新聞屋の旦那。そんなに、あたしに会いたかったのかい?」
風呂敷包みを抱えた着物美人──お鶴が笑っていた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
座敷童子が見える十四歳のわたしと二十七歳のナオカちゃん
なかじまあゆこ
キャラ文芸
座敷童子が見える十四歳の鞠(まり)と二十七歳のナオカちゃん。大人も子供も夢を持ち続けたい。
わたし座敷童子が見えるんだよ。それは嘘じゃない。本当に見えるのだ。
おばあちゃんの家に『開かずの間』と呼んでいる部屋がある
その部屋『開かずの間』の掃除をおばあちゃんに頼まれたあの日わたしは座敷童子と出会った。
座敷童子が見える十四歳の鞠(まり)と二十七歳のナオカちゃん二人の大人でも子供でも夢を持ち続けたい。
流行らない居酒屋の話
流水斎
キャラ文芸
シャッター商店街に居酒屋を構えた男が居る。
止せば良いのに『叔父さんの遺産を見に行く』だなんて、伝奇小説めいたセリフと共に郊外の店舗へ。
せっかくの機会だと独立したのは良いのだが、気がつけば、生憎と閑古鳥が鳴くことに成った。
これはそんな店主と、友人のコンサルが四苦八苦する話。
喰って、殴って、世界を平らげる!――世界を喰らうケンゴ・アラマキ――
消すラムネ
キャラ文芸
荒巻健吾は、ただ強いだけではなく、相手の特徴を逆手に取り、観客を笑わせながら戦う“異色の格闘家”。世界的な格闘界を舞台に、彼は奇抜な個性を持つ選手たちと対峙し、その度に圧倒的な強さと軽妙な一言で観客を熱狂させていく。
やがて、世界最大級の総合格闘大会を舞台に頭角を現した荒巻は、国内外から注目を浴び、メジャー団体の王者として名声を得る。だが、彼はそこで満足しない。多種多様な競技へ進出し、国際的なタイトルやオリンピックへの挑戦を見据え、新たな舞台へと足を踏み出してゆく。
笑いと強さを兼ね備えた“世界を喰らう”男が、強豪たちがひしめく世界でいかに戦い、その名を世界中に轟かせていくのか――その物語は、ひとつの舞台を越えて、さらに広がり続ける。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き
待鳥園子
恋愛
「では、言い出したお前が犠牲になれ」
「嫌ですぅ!」
惚れ薬の効果上書きで、女嫌いな騎士団長が一時的に好きになる対象になる事になったローラ。
薬の効果が切れるまで一ヶ月だし、すぐだろうと思っていたけれど、久しぶりに会ったルドルフ団長の様子がどうやらおかしいようで!?
※来栖もよりーぬ先生に「30ぐらいの女性苦手なヒーロー」と誕生日プレゼントリクエストされたので書きました。
皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する
真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にエントリー中です。
応援をよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる