宵闇町・文字屋奇譚

桜衣いちか

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第二章・お鶴さんの恋愛事情

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「ホッホー! その言い回しに立ち振る舞いは、紙屋かみやのおつるさんですな! ホッホー!」

「かみや……。新聞屋さん、かみはどんな字を書くの?」

「新聞紙の紙です。ホッホー!」

「紙屋さんかぁ。文字を書いた紙もあるかしら……よいしょっと!」

 暗室あんしつから運び出した古新聞ふるしんぶんを、千代は作業机さぎょうづくえに置く。
 休刊日きゅうかんびが存在しない宵闇町よいやみちょう新聞は、五百年前から発刊はっかんされている。
 一番古い新聞ですら、綺麗なまま残っていて良かったと思う反面はんめん

「紙屋さんは製紙業せいしぎょうです。売り物に文字が書いてあったら大問題なのです。ホッホー!」

「じゃあ、やっぱり……」

 なんの手がかりもない今。
 五百年分の新聞から【】を探すのか、と。
 千代は溜息の一つもつきたくなる。

行書体ぎょうしょたいはまだ! まだ、なんとかなるけれど……。草書体そうしょたいはちんぷんかんぷん……。篆書てんしょ隷書れいしょは……中国のたいとか、どこそれレベルです!
 しかも篆書てんしょは二つあって……大篆だいてん籀書 ちゅうしょで……小篆しょうてんが……眠くなってきちゃった……文字屋くんの説明、歴史の授業みたいで……うふふ、お肉ぅ……)

 千代が机にしかけた直後。
 カランカラン、カランカラン。
 新聞店の扉のドアベルが鳴る。

「ホッホー! うわさをすればお鶴さんなのです! ホッホー!」

「あらいやだ、新聞屋の旦那だんな。そんなに、あたしに会いたかったのかい?」

 風呂敷包みをかかえた着物美人──お鶴が笑っていた。
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