宵闇町・文字屋奇譚

桜衣いちか

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第二章・お鶴さんの恋愛事情

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 熱々あつあつの焼き石を前に置かれた、丸い肉の塊。
 なまの赤い肉を食べやすい大きさに切り分け、焼き石に乗せる。
 ジュウジュウ、ジュワジュワ。
 肉が焼けるかぐわしい匂いと湯気ゆげが立ちのぼる。

 今か今かと待ちがれる口を、アーンと開け。
 肉汁にくじゅうまであますところなく味わう、至福しふくのひとときは。
 夜のとばりが下りるように視界一面が真っ暗になったことで、終わりを告げた。

「お肉ぅぅううう‼︎」

 天井に伸ばした手を、寝ぼけまなこが見る。
 千代は寝癖ねぐせだらけの髪のまま、体を起こす。
 布団ぶとんの上で丸まっている、白いにぎめし
 むんずと掴み、千代はかぶりついた。

『ギニャアアア‼︎』


       ◇◆◇◆◇◆


「イズナちゃん、ごめんなさい! だってだってだって! 美味おいしそうだったんだもの!」

わし胡白こはく様に仕える管狐くだぎつねである! だんじて! 食べ物ではない!』

 顔を真っ赤にして怒るイズナが、かり障子しょうじを開け、色ガラスの窓を開ける。
 手摺てすりから身を乗りだした千代の耳に、文字屋もじやの声が届いた。

やかましい。仕事の邪魔だ」

 店先に立つ文字屋が、半月はんげつの浮かぶ空へ、半紙ごと右手を突き上げる。

「【蒼穹そうきゅう】」

 弾け飛んだ光が青空を形作る。

「千代」

「なーにー?」

 さわやかな空気に乗せ、文字屋がすげなく言い放った。

はたらけ」
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