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第一章・不吉なペンネーム
肆
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無地の半紙へ向かい、右手を下げた文字屋が一礼する。
音もなく現れた四匹の小狐がムシャムシャと球体を食べ尽くし、石像の中に吸いこまれる。
直後、千代の身体を包んでいた寒さが消えた。
何事もなかったかのように道具を片づける、文字屋とイズナ。
時間が止まっていたかのように「ホー? なにかあったのですか? ホー?」と口にする、新聞屋。
千代は大きく息を吐く。
(……天狐とか神通力とか。全然、想像できないけれども。すごいなぁ、ピタリって言い当てるんだもんなぁ……)
┄┄┄┄┄┄
共働きだった両親に代わり、ひとりっ子のわたしの面倒をみてくれた、おばあちゃん。
温かくて優しくて、いつも墨の良い匂いをさせていた、大好きなおばあちゃん。
漫画家になりたいって、なったよって。
わたしは結局、おばあちゃんに言えなかった。
せめてもの罪滅ぼしのつもりで、画材は筆を選んだけれど。
書道教室を継いだくせに、いつまでも本業を漫画家と言い張るのは。
四コマ一本しか掲載されなかったくせに、いつまでも漫画家と言い張るのは。
┄┄┄┄┄┄
「文字屋くんの言う通りだよ。わたし、夢ばっかり追いかけて。何度も何度も失敗してるのに、諦めなくて。一番近くにある現実を、ないがしろにしてばかりで。
文字屋くん、教えてくれてありがとう。ペンネームはダメダメ。わたし自身もダメダメ。ダメダメだぁ、わたし。元の世界に帰ったら、もう夢は」
「千代。本名は誰がつけた?」
音もなく現れた四匹の小狐がムシャムシャと球体を食べ尽くし、石像の中に吸いこまれる。
直後、千代の身体を包んでいた寒さが消えた。
何事もなかったかのように道具を片づける、文字屋とイズナ。
時間が止まっていたかのように「ホー? なにかあったのですか? ホー?」と口にする、新聞屋。
千代は大きく息を吐く。
(……天狐とか神通力とか。全然、想像できないけれども。すごいなぁ、ピタリって言い当てるんだもんなぁ……)
┄┄┄┄┄┄
共働きだった両親に代わり、ひとりっ子のわたしの面倒をみてくれた、おばあちゃん。
温かくて優しくて、いつも墨の良い匂いをさせていた、大好きなおばあちゃん。
漫画家になりたいって、なったよって。
わたしは結局、おばあちゃんに言えなかった。
せめてもの罪滅ぼしのつもりで、画材は筆を選んだけれど。
書道教室を継いだくせに、いつまでも本業を漫画家と言い張るのは。
四コマ一本しか掲載されなかったくせに、いつまでも漫画家と言い張るのは。
┄┄┄┄┄┄
「文字屋くんの言う通りだよ。わたし、夢ばっかり追いかけて。何度も何度も失敗してるのに、諦めなくて。一番近くにある現実を、ないがしろにしてばかりで。
文字屋くん、教えてくれてありがとう。ペンネームはダメダメ。わたし自身もダメダメ。ダメダメだぁ、わたし。元の世界に帰ったら、もう夢は」
「千代。本名は誰がつけた?」
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