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第一章・不吉なペンネーム
肆
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「リンは音読みだ。訓読みは『さむ(い)』。
したがって凛の意味は、寒い・厳しい・激しい。心身が引き締まる」
とん、と。
文字屋が右人差し指を半紙に打ちつける。
冷え冷えとした冷気が、千代の体を包みこんだ。
「寒っ! 寒っ! 寒いんですけど! ほんとうに力が半減してるの⁈」
「三分の一もだしていないぞ。それにまだ一文字しか書いていない」
両腕で自分の体を抱き、千代はヒッと声をだす。
文字屋が半紙の向きを戻し、文鎮を乗せる。
凛の真下に、凛を一文字書き足す。
「【凛凛】」
ヒュォォォオと、寒風吹き荒ぶ音が鳴り響く。
「凛凛は複数の意味を持つが。お前の場合は凛冽と同意のこれだ」
千代は寒さでガチガチと奥歯を鳴らしつつ、文字屋の右手が掴んでいる、透明な球体を見る。
痛いくらいに吹きつける風が、球体の中で暴れまわっていた。
「自由民権運動家であり、新聞記者であった宮崎夢柳。フランス革命を題材とする翻案小説、『自由の凱歌』を発表した。その中に『凛凛たる九冬風雪の寒さに』とある。
風雪は、厳しい苦難や試練。凛凛とあわせると、『冬の厳しい寒さが、苦難や試練のように身に染み入る』だ。
千代。お前、困窮した生活を送っているだろう。漫画家を本業と言い張るなら、仮名を考え直すんだな。俺からすれば、お前の本業は別にあると思うが」
文字屋が、全てを見透かした口調で言い切る。
したがって凛の意味は、寒い・厳しい・激しい。心身が引き締まる」
とん、と。
文字屋が右人差し指を半紙に打ちつける。
冷え冷えとした冷気が、千代の体を包みこんだ。
「寒っ! 寒っ! 寒いんですけど! ほんとうに力が半減してるの⁈」
「三分の一もだしていないぞ。それにまだ一文字しか書いていない」
両腕で自分の体を抱き、千代はヒッと声をだす。
文字屋が半紙の向きを戻し、文鎮を乗せる。
凛の真下に、凛を一文字書き足す。
「【凛凛】」
ヒュォォォオと、寒風吹き荒ぶ音が鳴り響く。
「凛凛は複数の意味を持つが。お前の場合は凛冽と同意のこれだ」
千代は寒さでガチガチと奥歯を鳴らしつつ、文字屋の右手が掴んでいる、透明な球体を見る。
痛いくらいに吹きつける風が、球体の中で暴れまわっていた。
「自由民権運動家であり、新聞記者であった宮崎夢柳。フランス革命を題材とする翻案小説、『自由の凱歌』を発表した。その中に『凛凛たる九冬風雪の寒さに』とある。
風雪は、厳しい苦難や試練。凛凛とあわせると、『冬の厳しい寒さが、苦難や試練のように身に染み入る』だ。
千代。お前、困窮した生活を送っているだろう。漫画家を本業と言い張るなら、仮名を考え直すんだな。俺からすれば、お前の本業は別にあると思うが」
文字屋が、全てを見透かした口調で言い切る。
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