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第一章・不吉なペンネーム
参
しおりを挟む「うるさい。読書の邪魔だ。閉店時間に押しかけてくるな」
ショーウインドウ上の扉を細く開け、文字屋がにべもなく言いきる。
(稲荷神社はココであってるはずなのに! なんで!? どうして?! このお店が建ってるの!?)
騒いでも、理由は分からない。
石を投げても、現実は変わらない。
それならば。
千代は握り拳大の石を投げ捨て、声を張り上げた。
「ごめんなさい!」
文字屋が一瞥をくれ、ページをめくる手を止める。
「わたし、あだ名は愛称の意味だけだと思っていたの。でも、仇の文字を使う仇名は、根拠のない悪い噂の意味になるんだね。
だから、文字屋くんが怒るのは当然だと思う。ごめんなさい」
「……」
「凛凛はね、仮の名前。
わたしの本名は秋野千代です。秋の野原。千の苗代。
新聞屋さんのお店には、文字がごっそり消えている本しかなくて。凛はなかったの。
文字屋くん。仮の名前ではあるけれども。凛凛が不吉な理由を教えてください。それから、わたしを元の世界に戻してください!」
千代は右手を左手で覆い、腰から頭まで一直線になるよう背筋を伸ばし、上体を倒す。
ゆっくり、上体を起こし始めた時。
千代の頭上で、扉を開く音が聞こえた。
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