おれのツガイ

青空ばらみ

文字の大きさ
上 下
14 / 23

14. パールの秘密

しおりを挟む
 んっ? 風…… だれか、影がついていったか……

「マヌカ、いま影がついていったのか?」
「はい、ガントリーの本気の走りを学ばすため、若手を三名つけました。意気込みすぎて影だということを忘れていますね…… あとで、鍛えなおします」
「ふふっ 本気のガントリーの走りだけでも、良い勉強になるでしょう」

 ソードが、笑って告げている。
 ガントは竜人の血が入っている、桁はずれに速い。

 今日エントの一族は、八十メートル以上あるトワランの木に巣を作っているオオミツバチのハチミツをとるため、朝から皆で向かっていたそうだ。

 この木は樹皮がツルツルしていて、動物たちでも登りにくい背の高い木。
 貴重なハチミツだが危険なため、一族の男は全員参加になる。

「今日はこっちに来たがっていたから、注意が散漫になっていたのか……」

 マヌカが心配そうにつぶやく。

 生きてさえいれば、上級ポーションで命は大丈夫だろう……
 まあ、待つしかない。

 そのあいだにピアンタの国境沿いの報告を聞いておく。

 時間は有限だ……


 陽が沈む頃、ガントが帰ってきた。

 おどろいたのはエントの妹コウジュとパールが仲良くなっていて、エントの家までパールが来ていたこと。

 そこに兄の話が舞い込み、二人でエントのもとに駆けつけ意識が戻らず諦めていた一族の中、パールが持っていた上級ポーションでエントを治したとガントが報告する……
 それだけじゃない。
 エントの父親もケガをしていたようで、それもパールによって治ったそうだ。

 ここでパールがでてくるとは……

 んっ どうした? 

 ガントの顔がさえない。
 
「ガントどうしたんだ? 顔が暗いぞ……」
「ライ…… おまえしばらくパールに、ラメールの王太子だと名乗らないほうがいいぞ」
「どういうことだ?」


 あきらめたように、ため息をひとつ吐くと。

「いい機会だ、影。おれとパールの話しを聞いていたか?」

 一人、若手が現れる。

「あとの二人は、どうした……」

 マヌカが少しいら立ち気味に聞いている。

「いまっ! ここにっ! ハァ、ハァ……」

 もうひとりは、いま着いたようだな。
 ガントリー相手だ、これぐらいの差ならまあ良いだろう。
 
「もうひとりは、エントの様子をしばらく見るために置いてきました。明日まで、あちらで待機です」
「良い判断ですね」

 ソードが若手をほめてやる。
 少し顔の緊張がとれたか……

「ガントリー様とパール様の会話ですが……行きは速すぎて追いつけず、お二人の帰り道でやっと追いついたのですが風の流れが強く、ところどころしか聞こえませんでした。聞き取れたのは……王族にバレたら囲われてしまうと、ガントっておしゃべりなのかとパール様がおっしゃっていた二言です」

 悔しそうに一番目にきた若手の影が話すと、二番目が続きを話しだした。

「わたしはガントリー様がつらい、おれ無理かもっとおっしゃって、最後に違うとこたえていた二言です」

 なんだ、それは……
 まあ、影が付いてきていたのはガントもわかっていたんだ、最後の会話に風の魔法で少し細工して三人を試したのだろう。

 まだまだ、だな……
 マヌカの顔も、そう告げている。

「まずは、影を向こうで休ませてやれ」
「はい、ライアン様。ありがとうございます。二人は下がりなさい」

 頭を下げて、出ていった。

「ガントリーありがとう。あいつらには良い勉強になったよ」
「ああ、有望なやつらだ。必死におれにくらいついていたぞ。行きは遠慮なく走ったから、まあ最後はしょうがないがな。あとは体力か、帰りはだいぶばてていた……」

 思い出したのか、ニヤッと笑って話している。

「では、ガント。話を戻しますがパールと話していた内容の一つ、王族に囲われてしまうはわかります。パールがわたしたちにも言ってましたからね。しかし、おしゃべりなのかとは?」

 ソードが不思議そうに聞くと。

「ガントリーそれは、つらい無理かもっと、こたえていたことに繋がるのじゃないか? おしゃべりなのかの質問に対してのこたえで『違う』だろう?」

 マヌカが、答え合わせをしていた。

「マヌカ、その通りだ。パールの秘密を知ったが、内緒にしてくれといわれた。ライたちだけでもと伝えたが、秘密を知っている者が少ないほうが安心だと……ラメール王国の王族に知られて囲われることを恐れている」
「やはり、そうか……」

 ソードが少し考え、難しい顔をして話しだす。

「ライ、やはりしばらく王族だということは黙っていた方がいいですね」
「ああ、そうなるな」
「それなら、メルの町ではライアン様が王太子だということを話さないように伝達しましょうか?」
「マヌカ。メルの町だけでなくしばらくは基地の五ヶ所、すべてに伝達しておいたほうが無難なのでは?」
「ふむ……そうだな。ライアン様のツガイ様が他の国に行ってしまっては、大変なことになる。影すべての一族に伝達して、とくにメルの町では強化しておきましょう。それだけでパール様に話が伝わることが、だいぶ減るはずです」

 マヌカが顔を少し横に傾けると、また空気が少し揺れる。

 どこにいるのか、うまいもんだ。

「それでは、ガント。パールの秘密とは、なんですか?」
「ああ、ソード。パールは…… ヒールが使えるんだ」
「なんと、貴重な……」
「ガントそれは、どれくらいのヒールなのです?」
「詳しくはエントの家族しか見ていないんだが、エントの家族はおれが行ったときには聖女様と呼んでいた。パールはそれを嫌がって、迷い人で聖女ではないとあきらめて説明していたな」
「えっ? 上級ポーションで治ったのではないのですか?」
「詳しいことは分からんが、両方みたいだぞ。パールが言うには、もともとヒールが少し使えたそうだ。向こうにいって魔力がだいぶ増えたらしい」
「それは、すごいな……」
「それではエントの家族は、パールが当たり人でヒールが使えると知っているのですね」
「ああ。上級ポーションの代金はいらないから、ヒールが使えることをナイショにするようエントたちに言っていたな」
「わかりました。これは上層部のシークレットにしましょう。マヌカお願いしますよ」

 マヌカは軽くうなずいている。

 パールはおれのツガイでなくても、わが国にとって最重要人物になってきた。

 おれとの縁は、なにかしら あるようだ……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄し損ねてしまったので白い結婚を目指します

金峯蓮華
恋愛
5歳の時からの婚約者はひとりの女性の出現で変わってしまった。 その女性、ザラ嬢は学園中の男子生徒を虜にした。そして王太子、その側近も。 私の婚約者は王太子の側近。ザラに夢中だ。 卒園パーティーの時、王太子や側近は婚約者をザラを虐めた罪で断罪し婚約を破棄した。もちろん冤罪。 私はザラに階段から突き落とされ骨折してしまい卒園パーティーには出ていなかった。私だけ婚約破棄されなかった。  しがらみで仕方なく結婚するけど、白い結婚で時が来たら無効にし自由になるわ〜。その日が楽しみ……のはずだったのだけど。 作者独自の異世界のお話です。 緩い設定。ご都合主義です。

愛される王女の物語

ててて
恋愛
第2王女は生まれた時に母をなくし、荒れ果てた後宮で第1王女とその義母に虐められていた。 周りは彼女を助けない。国民はもちろん、国王や王子さえ… それは彼女の生存を知り得なかったから。 徹底的に義母が隠していたのだ。 国王たちは後宮に近づくこともしなかった。 いや、近づきたくなかった。 義母とその娘に会いたくなくて、出来るだけ関わらないようにしていた。 では、そんな中で育った誰も知らない第2王女を偶然に出会い見つけたら…? 第1章→家族愛 第2章→学園

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました! 小説家になろうにて先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n5925iz/ 残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。 だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。 そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。 実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく! ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう! 彼女はむしろ喜んだ。

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

異世界ネット通販物語

Nowel
ファンタジー
朝起きると森の中にいた金田大地。 最初はなにかのドッキリかと思ったが、ステータスオープンと呟くとステータス画面が現れた。 そしてギフトの欄にはとある巨大ネット通販の名前が。 ※話のストックが少ないため不定期更新です。

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番 すれ違いエンド ざまぁ ゆるゆる設定

処理中です...