上 下
35 / 221

35. ルートの しおり

しおりを挟む
 今日は朝から しおり作りだ!

 マークもこの、しおりプロジェクト? の 一員に 正式に決まった。
 実は、辺境伯様にこのしおりの話しが、昨日のうちに伝わった。
 カイルさん、仕事がはやいね。
 カイルさんとマークでわたしをフォローしながら、しおり作りを正式に進めるよう、二人に 通達があったみたいだ。
 特にマークは わたしにピッタリついて、フォローするように いわれたようだ。
 そのあいだの馬番の仕事は、最低限でいいそうだ。
 もちろん、これはルート様たちのプレゼントなので辺境伯様も二人には ナイショにしてくれる。
 

「やるか? 」

「うん、やってみる」

「よし。 じゃあ まずは、作業部屋で 下準備をするぞ」

 二人で作業部屋に入り、いろいろと準備する。
 マークは木を薄く切る。
 わたしは横で薄くなった木に ルートと墨で 名前を書いていく。
 途中 ルートに飽きて、名前を アースに かえて 三十枚は 作ったかな?

 でも、ほんとに 見ていたらわかる。
 マークの作業は 大変…… 
 …… ありがと、マーク。


 よし、名前も書けたし、もう一度 名前入れに挑戦だ!

 今回はちょっと もったいないけど、マークに頼んで紙を 用意してもらう。
 
 井戸の平らな石の横に、小さなテーブルと椅子を置いてもらい、そこで 一回ずつ メモをとりながら 作業する。
 火の温度に注意して、弱い火からイメージしてやってみた。

 ジリジリ…… ジリジリ……
 弱すぎた。
 木に穴が あかない……  次。

 今度は 中ぐらいの火を思い浮かべて、 えいっ!

 ジュッ、 チリチリチリ…………  バシャッ

 火はいい感じだと思うけど、そのあと木が燃え続けて 水をかけるまで消えない……  次。

 強い火は ダメだろう? 
 これ以上強かったら 木が燃えてなくなってしまう。
 いや、かえって 一瞬だから……  いけるのか? 
 火のイメージをかえてみる?  色?
 氷の魔法も使ってみる?
 ウーン……

 それからあと追加で 五十枚、マークに作ってもらった。
 なんとか四苦八苦しながらも、イメージ通り。
 薄い木に、名前に沿った穴があいた。
 穴の名前は ルート。

「できたか? 」

「なんとかね」

「はい、今日は ここまでだ。また腹の虫が催促するぞ」

「 …… わかった。  明日は貴重な木で 始めるね」

  ♢

 さっそく、朝から井戸の作業場でマークが用意してくれた 本番用の貴重な薄い木に、魔法で ルートと 名前を入れる。

 木が焼けると、また少し違った 良い香りがした。
 
 あれ? この香り 知ってる?

「香木? ばあちゃんが好きだった 香りかな? 」


「この 木の名前を 知っているのか!? 」

 突然カイルさんに声をかけられて、ギョッと する。
 
 手には紐がみえる。
 あー 、しおりの紐を 持ってきてくれたのか……
 仕事が 早いなぁ。
 んーー  どうしよう。
 カイルさんに、なんて いおうか……

「カイルさん、ちょっと こっちに きてくれるか」

 マークがカイルさんを 小屋の中に連れていく。
 わたしの『前世の記憶』について 話してくれるみたいだ。

 あれっ? カイルさん?

 なんだか思ってたより、すんなり受け入れてくれた。

 やっぱりあの倒れていたあとぐらいから、わたしが急に変わったようで、へんだと思っていたらしい。
 料理長トムさんのわたしに対する態度も ちょっと かわったし、その頃から 食事も美味しくなったと話してくれた。

 そのあとは、わたしの思い出した香木のことを 教えて欲しいという。
 違う木かもしれないけど、っと 前置きしてから 話す。

「あの木は コウボク。 よい かおりをもつ木 という意味の名で、別に正式な名前もあったと思うんだけど……  思いだせそうで、思いだせないのよね」

 カイルさんがいってたとおり、まわりの木の栄養を根っこから吸い上げて 生きていたこと。
 香りは木の真の部分が 一番強くて、上等な部分だったこと。
 確かオイルも採れるし、木の実も 食べれたと思うと伝える。

「これぐらいだよ、知っていることは……  あとなにか 知りたいことでもある? 」

「んー なぁ この香木、パールの前世? では、どんな扱いだったんだ? 」

「あー っ 、そうだね だいぶ高価で 貴重な木だったと思うよ」

 ばあちゃんがこの香木の香りが好きだけど、すごく高いと いっていたような……

 あれっ、また不思議な感じ……

『この香木はオイルも採れるし木の実は食べれる、 根っこまで良い香りがするんだよ。 燃やしてもいい香りだしねぇ。 この香りを楽しむまで育てようと思ったら、最低でも 十五年は 待たないといけない。 今、わたしが使っている香りは 八十年物で 最高さ! 』
 なんだ これ……
 
『時間も手間もかかる。 見つけたらみんなに、根っこまで抜かれて 乱獲されてしまうから 数が少なく貴重なのさ』
 って 聞いたことが あるような……
 また、思い出したんだ……


「そうか 貴重なのか! 」

「コウボク……  良い響きだ。 オレらは あの木とか、あれ とかしか 呼んでなかったからな」

「香木。香りをもつ木、香りを楽しむ木だな。 いいね……  」

「燃やしてもいいって ことは、捨てるところ無しだな」

「これ渡しとくな!  パールの秘密は 必ず守る。 大丈夫だ! またくる! 」

 紐を置いて、あっという間に 帰っていった。

 すごいな……  カイルさん。

 あっ そうだった、マークだ!
 成功した『ルートのしおり』をマークにきちんと見せて、まわりを磨かないと。

「マークこの、しおりの ルート。 文字はどう? 」

「あー 、うまくできてる。 あとは 磨きと 穴あけか?」

「うん、でも あともう少し 頑張ってみるよ。 これはまだ、試作品だしね」


 こうして、また 一人 。

『前世の記憶』のことを知っている、わたしの味方が増えたのだった……


 味方は 大切 だよね 。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

前世は大聖女でした。今世では普通の令嬢として泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!

月(ユエ)/久瀬まりか
ファンタジー
伯爵令嬢アイリス・ホールデンには前世の記憶があった。ロラン王国伝説の大聖女、アデリンだった記憶が。三歳の時にそれを思い出して以来、聖女のオーラを消して生きることに全力を注いでいた。だって、聖女だとバレたら恋も出来ない一生を再び送ることになるんだもの! 一目惚れしたエドガーと婚約を取り付け、あとは来年結婚式を挙げるだけ。そんな時、魔物討伐に出発するエドガーに加護を与えたことから聖女だということがバレてしまい、、、。 今度こそキスから先を知りたいアイリスの願いは叶うのだろうか? ※第14回ファンタジー大賞エントリー中。投票、よろしくお願いいたします!!

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

処理中です...