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10 最終回
しおりを挟むこのあとすぐ駆けつけた大勢の警備兵によって、給仕係は連行されていく。
「給仕係さんとすれ違ったとき、ポケットに入れていたシャルム草の先端がヘニョヘニョってしおれちゃったので、特定するためにトレイに載せたの。大伯母様のところに行ったあと、待っていてと言った場所にいないし、見つけたと思ったら案の定シャルム草が変色してたから、カンサオキゾ系を扱う者だってすぐ分かったわ」
「カンサオキゾ系とは……」
公爵は尋ねた。
護衛騎士や残った警備兵、騒ぎを聞きつけて残っている騎士たちも聞き耳を立てているのが分かる。
予想はついているが、今ではただ者ではないと分かっているこの年若いご令嬢と、予想を一致させたいのである。
「毒よね。あれだけ指先が紫色になっているのは、日常的に毒を抽出している者に限られるし、となると、あの男は毒殺の請負人ってところかしら」
改めて言葉にされると、周囲は息を呑む。
「毒……」
度重なる公爵の暗殺未遂を知っている周囲は、何とはなしに公爵のほうを見つめた。
おそらく公爵のことを知らない令嬢は、周囲の視線が一斉に公爵に向かったので首を傾げる。どう推理したのか、分かりやすくジト目になった。
「あら……。もしかして貴方があの給仕係に命じた真犯人……?」
(ちがーーーう!)
毒といえば公爵。
そう思ってしまった周囲は、視線を勘違いされ気まずくなりながらも心の内で叫んだ。犯人扱いとは不敬すぎる。
「いや……どちらかというと盛ったほうではなく、盛られているほう……だろうか」
言いながら公爵がなぜかポッと顔を赤く染めている。
(首を傾げる様子がまるで小動物だ……ジト目も可愛らしすぎる!)
公爵はそう思って悶えているのだが、周囲からは毒を盛られていることを思い出して悶えているようにしか見えない。
見てはいけないものを見てしまったように、周囲は一斉に公爵から目を逸らした。
「ええっ……それじゃ被害者側ですの?そこまで毒が身近に?」
キョトンとしながら令嬢が問い掛けると、公爵は耳まで真っ赤になった。
この仕草はアレだ。くるみを持って悩んでいるリス……いや、ダメだ。そういうことは今は考えるな。
度重なる暗殺未遂のせいで、毒に耐性を持たざるを得なかった過去を思い返す。
「……そうだな。神経毒はすぐに分かるようになった。舌がピリッとするし……」
令嬢が感心したようにポンっと手を叩く。
「神経毒は銀食器にも反応しないことが多いですから、すぐに分かるだなんて素晴らしいですわ!」
ぜひとも毒を与えて経過を観察したいものですわ、という令嬢の言葉を周囲は聞かなかったことにする。
一方公爵はといえば……周囲の者たちとは全く違う場所にいた。しいていえば脳内お花畑の世界である。
……褒められたのだろうか……素晴らしいですわ!と言われた……
公爵の動悸がますます激しくなっており、今や苦しさを覚えるくらいだった。心臓がキュンキュンバクバクする音が大きく周りにも聞こえてしまいそうで、まっすぐ立っているのがどうにも辛い。何かの病気に蝕まれてしまったのだろうか……
だが、二人だけの会話をやめるという選択肢はない。
苦しいと同時に、もはやフワフワしているのが心地よくすら感じる。
「身体に慣らすため、服毒することは日常だったからな」
「……まぁ。身体に慣らす……毒を……」
うらやましい。
さすがに口には出さなかったが。明らかに目がキラキラしている令嬢の心の声が、皆には聞こえたような気がした。
「わたくし、薬草学を学んでおりますの。薬も毒も人が発見し改良したもの。あらゆる植物は子孫を残すために様々な効用を持つようになったのですわ」
「子孫を……残すため……」
「美味しくいただかれないために毒を持つようになったものもありますし、植物は自らでは動けないでしょう?ですからそういった効用を知らしめ、人に、動物に、自然現象に、自らを摘み取らせ、あるいは種を運ばせて繁殖するんですの!」
「種……繁殖……」
「そうですの!生き残っていくための知恵なのでしょうね」
最初は毒に恍惚としているのかと思っていた周囲も、どうやら公爵は何だか違うようだぞ、と思い始めた。単語を反芻しているだけになっていて、令嬢の言葉にいちいちクラクラしているように見える。令嬢と見つめ合っているが、顔を紅潮させていて、心なしか呼吸も荒く、いつものように姿勢正しく立っていられないようでフラフラしている。
公爵付きの護衛騎士や従者が、あっ、と思ったときにはすでに手遅れだった。
言動も挙動も防ぎようがなかった。
「どうだろう。私の奥方にならないか?毒がそこかしこにあるぞ?」
(ええっ!?傭兵を物で釣るみたいな求婚をっ!?そんな口説き文句で普通の女性がなびくはずが!!)
周囲の者たちはそう思ったのだが、言われた令嬢は普通ではなかった。
「なりますわ!」
即答され、公爵の興奮は頂点に達し、その場に昏倒した。
大の男がいきなりくずおれて、周囲は大混乱に陥った。
「ええっ!!いきなり気絶!?やだ、そういえばこの方のお名前を知らないわ?ああ、しっかりなさって!?」
これがのちに、様々な難事件を解決した、
『ファランドール公爵家の事件録』の(変人)公爵夫妻として、名をはせることになる二人の出会いである。
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ありがとうございました。
公爵閣下のポンコツへ至る過程がうまく伝わっていたら嬉しいです。
まだ未公開ですが……次作
『ファランドール公爵家の事件録』~公爵の最愛は彼の溺愛に気付かない~File01.学園の庭には死体が埋まっている
よろしくお願い致します。
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とても楽しく読ませていただきました、続編を楽しみにしておきます^_^もう一つの作品も良かったです♪
『楽しんでもらえるかなあ』とドキドキしながら書いているので、楽しかったと感想を頂けるのが何よりも励みになります。もう一つのほうの作品は邪道かなあ……と思いながら書いていたので嬉しいです。
次回作以降も楽しんで頂けるように頑張りますのでよろしくお願い致します✨
面白かったです〜❤️
続きが読んでみたい✨
と思いました😘
感想ありがとうございます!
楽しんで頂けたようでとても嬉しいです。
次回作から本格的に事件が起こりますので、読んで頂ければ幸いです。