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しおりを挟むさすがに王太子夫妻のところまでやって来る大胆な者はいないようで、それも防壁代わりという思惑通りだった。
あの令嬢は会場に戻ってくるらしいから、誰にも邪魔されずちゃんとした灯りの下で顔を見てみたいという欲望が抑えきれなかったし、どのような令嬢なのか知りたくもあった。
名は何と言うのだろう?
これ程までに他人に興味を持つのは初めてのことだった。
「国王陛下の具合はいかがですか?」
気になっていたことを異母兄に尋ねると、眉間に縦線が一本刻まれる。それだけで雄弁に物語っている。
原因不明の病で床に臥せってからそろそろ半年が経とうとしている。ここ最近の王室行事が全て王太子主催であることからも、病状は思わしくないのであろう。
臣籍降下したとはいえ、アレクサンドルにとって肉親であり実父なのである。役に立たない自分が不甲斐なかった。
相応しい場所と時期でもないように思い、話題を変えることにする。
「……そういえば、庭園の警備はどのようになっておりますか?」
異母兄が物憂げに目線をやると、後ろに控えていた護衛騎士の一人が頷いて一歩前に出る。忠実な王太子の懐刀である男である故に、日頃からそれほど主の異母弟に好意的ではなく今日も平常運転だが、公爵は気にも留めなかった。
「一刻刻みで第一・第二騎士団が交代で巡回しておりますが……何か異常でもございましたか、ファランドール公爵閣下」
巡回の間隔は一刻よりも半刻刻みのほうが良さそうではあるが、この場で護衛騎士に物申しても管轄違いだ。
女性の悲鳴に騎士が誰も駆けつけなかったことに、今現在囁かれている王族派と貴族派の対立を考え、様々な疑問が頭をよぎるが考えを飲み込んだ。
それにしても先程の令嬢はよく見つからなかったな、と小動物のような動きを思い出して公爵の口角がつい上がった。
それを見て護衛騎士はひゅっと息を呑み、王太子夫妻は目を見開く。
"氷の、と貴族からも軍内部からも揶揄られているファランドール公爵が笑っている、だと!?"
「いえ。バルコニーに出て気分転換をはかっていましたら小動物を見かけまして。動きもかなり俊敏なようでしたから……」
言いながら公爵の目は、今しがた中央扉から入って来た一人の令嬢に釘付けになっていた。
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