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一章 異世界での希望

新たな二人の一歩

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 飛散した後――

 私はいそいそと飛んで行ってしまったスライムの破片の回収をし、飛散する前の大きさにほとんど戻ることが出来ていた。

(よし、傷の所にはこれを貼って……)

 元の大きさに戻ったのと同時に、すぐさま意識を失った彼を裏路地まで運び傷の手当てを開始する。
 と言っても、大した事は出来ないのだが、気休め程度に飛散したスライムの一部を彼の膝や肘にペタリとくっつけ、ふぅと息を吐く。
 スライムの破片自体水の塊と言っても過言ではないが、スライムとなると水をコーティングする膜ができるため、吸着率や保護としてはとても優れている。

(後は雨を凌げるように……)

 今も大量に降る雨を見ながら私は体の形を変え、彼を体の上に乗せる。

(沈んでも溺れない程度に薄くしてっと……)

 そのまま吸収され溺れてしまわないように厚さを調節し、上からザーっと降る雨を凌ぐように体で傘を作る。

(これまさか、ずっと排出してないと……永遠に大きくなっちゃうんじゃ……)

 今も雨を食らう私の体は少しづつ大きくなっていた。
 その度にプシュゥゥ! と口から水を出すが、雨が止むまでと考えたら途方もない……。

(いいや、ゆーくんをこんなにしてしまったのは私のせいだから……頑張らないと)

 こうしてスライムの私と人間の彼は、暗闇の中、長い長い夜を共に過ごした――

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 翌日――

 私と彼の、日の登りきらない朝が始まった……。

「やっぱりお前が智夏を食べたんじゃなくて、お前が……智夏なのか?」
「ブヨ! ブヨブヨブヨっ!!!」
(そうだよ! 私が智夏!)

 雨が止んでから完全に寝入ってしまっていた私は、先に起きていた彼の言葉に歓喜した。
 やった、これで私は満足に死ねる――
 そう思った。
 

「ちょっとこれから数問問題出すから合ってたら1回跳ねてくれ、間違えてたらなんもしなくていいから――」


 彼を信用を勝ち取るためにいくつかの質問にも答えた。どれも簡単、私自身が経験した過去だから――



 ここまではよかった――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「そっか、智夏はスライムになっちゃったんだな……」
「ブヨ……」
(うん……)

 そう、私はスライムになった。もう人間の姿に戻れないかもしれない。いつ死ぬのか、この世界でも住めるのかも分からない。

 だから私は身を引きたい。

「そりゃもちろん悲しいさ、だっていつものように抱きしめたり手を繋いだり出来ないし」
「ブヨ…………」
(ごめんね……)

 うん。分かってる。だからもうあなたには関わらない。そう私は伝えるように後ずさる。
 もう次触れたら執着してしまう気がした、今しかない、今この瞬間に別れよう。もう彼の中に私はいてくれる、大丈夫。
 
「他の人間は智夏を敵だと判断するかもしれないし、俺が智夏といたら俺も何されるか分からない」
「ブヨ、ブヨ!」
(やめて、やめて!)

 知ってるよ。だから、だから私はあなたの前から消える。そう伝えているつもりだった。
 それなのに彼は私と合わせて追い詰めてくる。
 逃げなきゃ、もう聞きたくない。

「俺は……」

 私は無我夢中で後ずさり、いよいよ後がなくなった。
 もう飛散して逃げよう。今の私なら逃げられる。この後私がいなくなって死んでもメディアが彼に伝えてくれる。


 さようなら、そして、


 ありがとう。
 

 私はもう彼に迷惑をかける訳には行かない。最後の私のわがままもこうして聞いてくれた、感謝しかない。
 

 そうして、私は無心で体に力を入れ――


「……智夏、俺はお前が大好きだ。もちろん人間の智夏も好きだけど、俺は智夏が好きなんだ……。だから、智夏の悩みも俺の悩みだし、最後まで付き合う。大丈夫。2人なら何とかなる、俺はお前を幸せにするまでは死なない、絶対にな!」
「…………!」

 そんな決意と愛に満ち溢れた彼の声に私の心は溶けてゆく――

 あぁ、私の彼氏は世界一かっこいい。

 そんなこと知っていたのに、別れたいっていうこと自体が迷惑……なの?
 どんなに考えてもそれは誰かの考えで誰かの勝手、あやふやで気持ちと行動と考えがバラバラになる。

 それが恋なのかもしれない……。

 だからこそ私も彼と共に歩く権利があるのかもしれない。
 だったら私は、全力で受け止めよう。
 もう後ろは振り向かない、前を向いて彼と歩む。
 もう、絶対に離れない。
 
 自然と流れる涙に私の弱音も乗せる。

 ありがとう……、ありがとうゆーくん!

 本音なんて最初から決まってる。綺麗事、好き故に別れたかった……、


 でも私は、



 この世で一番ゆーくんが大好きなんだ!

 


 
 こうして、一匹のスライムと一人の人間は、愛の果てを探す冒険譚を作り上げてゆくのだ――
 
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