上 下
1 / 9
プロローグ

これが俺達の冒険譚

しおりを挟む

「んじゃ、優さんにはここで死んでもらおっかな」
「せいぜい囮役頑張れよ~」
「もう少し役立つ人だと思ったのになぁ、まさか弱い上に……こんなモノ連れてるなんてねぇ」


 ふざけるな――


 俺の中で何かが崩れる音がした。
 何度目かとなるこのダンジョン探索で、俺は仲間に騙された。
 いや最初からコイツらは俺を仲間だと思っていなかったのかも知れない。
 

「お前らは……お前らは何がしたい……」


 ボロボロになり、最初パーティを組んだ時に仲間――いや、敵が俺にくれた防具は全て剥がされ、抗った結果呆気なく折れた短剣も、今やガラクタへと成り下がっている。
 そんなモンスターの格好の餌となった俺を見下ろす三人の敵は、さっさとコイツ殺して帰ろうぜと、一人の女が手に持っている白いスライムを指さす。

 やめろ――

「まぁ殺した所でなんもないんだけどな、ひひひっ」

 目を閉じ、意識を失っている白いスライムを、ほーれほーれと、汚い手で触る男に、俺は憤怒で胸を一杯にさせ、涙を浮かべながら声を上げる。

「頼む! 俺を殺してもいい! その代わり、その代わり! 彼女だけは……智夏だけは――グハッ!!」
「黙れ。誰がお前の命なんか欲しいんだよ。いいか、1つだけ死ぬ前に教えてやる。俺達はなぁ!?」

 それまでずっと黙っていたこのパーティのリーダーである男は、俺の顎を自慢の剛腕で砕き割り、卑劣な目で言い放った。

「生き物を殺すのがだぁぁい好きなのさ!」

 と、

 あぁ、ダメだこの目は……。


 この目はもう、この世の物じゃない――


 人間の形をした化け物だ――

 畜生、畜生、畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生ッ!!

「それじゃ、さよーならッ!!!」
「――っ!」

 直後、声を発するよりも先に俺は華麗に吹き飛び、空中に浮遊した変な感覚と共に、白いスライム――智夏、俺の……俺の大事な彼女の身体の中心に、女の槍が突き刺さった――

「~~~~~~~~~~~~ッッッ!!!」

 声にならない怒りが込上げる中、俺は地面に叩き付けられる。

「うわ、汚ねぇ! 何この液~!」
「サリーお前汚ぇぞ、ふははは」

 そんな卑劣な声を上げるゴミを他所に、俺は目を閉じ意識を遠ざける。


 俺は………………。




 どうしようもないほど………………。




 弱い――

 

 ごめんな……智夏、俺、守れなかったわ――

 涙なのか血なのか分からない熱い液体が、頬を伝っているのが分かる。

 最後に……最後にもう一度だけ智夏の顔……見たかったな……。

 脳裏に満面の笑みを浮かべる智夏を思い浮かべ、優しい声が響く――



(ゆーくん、世界でいっちばーん大好き! これからもずっと一緒にいて下さい! あ、トイレは着いてきちゃダメだよ! それ以外ならずっと一緒ね! あぁ!! そう言えばこの間ハンバーグ作ってくれるって言ったのに作ってくれてない! 嘘つきだ! 泥棒だ!) 



 あ、そういや俺、ハンバーグ作り忘れてわ……。

 ぷりぷり怒る智夏を見て、俺は頬を緩める。

 だって、その後すぐスライムになっちゃうんだもん……。もっと早く作ればよかったな……。大丈夫。俺もすぐそっちに行くからな……。お前を一人になんか絶対にしない、そしたらハンバーグも作ってやるし、一緒に出来なかったこともっと一杯しような――




 こうして、俺達のちょっと変わった冒険譚は――



 ――スキル【スライムボディ】を一部使用しました――
 


「「終わらせない」」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...