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一章

冒険者の街

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「はぁ……はぁ…………やっと…………やっと外だぁ!!」
「お疲れ様ぁぁ……」

 大都市グランディール――

 冒険者が一度は絶対に訪れるとされるこの街には、フェイが潜り続けていた巨大ダンジョンに、冒険者御用達のギルド、酒場に武器屋に道具屋、極めつけはこの世界に一つだけあるとされる冒険者学校がある――

「なんか……久しぶりに空気が美味しい!」
「そりゃあ2日もダンジョンに居ればそうなるよねぇ……」

 両手を広げながら深く深呼吸をしたフェイは、汗でベトベトになったカーネーション色の髪の毛を揺らしながら、早くキールの家に行かないと! と疲れているのにも関わらず全速力で坂を下る。
 ちなみに都市の西側に配置されているこのダンジョンは、少し急な上り坂の先にあり、入口は結界で守られている。一応門番がいて、二重の結界もあるのだが、入口付近にはそうそうモンスターが現れることは無い為、安心安全設計だ。

「ちょ、私……もう……つか……れ……た……」
「サリーさん!?」

 巨大バックパックに押し潰されるように倒れたサリーは、私体力無いのぉ! とヘトヘト顔を見せる。
 
「私、ギルドで待ってるから……先行っていいよ……」

 喉乾いたぁとゆっくり立ち上がったサリーは、急ぎたがっているフェイを気遣い、そんな提案を持ちかける。
 しかしフェイは少し微笑んだ後、それは出来ませんと首を横に振り、サリーの持っている巨大バックパックを背負う。

「じゃあサリーさんをギルドに連れてってから行きますね」
「それじゃあ遅れちゃうよ? 私はいいから先に行っていいよ」

 それでも、いいえ、心配なのでギルドに着いてから行きます。と笑ったフェイは、着いた後もっと早く走れば大丈夫です! と意気込みながらサリーの肩を支える。
 正直疲労レベルはフェイの方が何倍も上回っているが、目の前で困っている人がいたら放っては置けない。それがフェイ・ユリウスだ。

「……ありがとう。じゃあ全て片付いたらご飯一緒に食べようね、私が奢るから」

 そう言って苦し紛れに笑ったサリーは、内心、久しぶりに味わう『優しさ』に喜びを感じていた。
 道中モンスターを退けるために酷使したスキルのせいで、スタミナを消費したサリーが一人で歩くのもままならない中、フェイは、はいっ! と力強く返事をした後、まずはギルドに急ぎましょう! と弱っていた両足に力を入れ、一歩ずつ前進した――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ククッ、キールの野郎ヘマしやがったなぁ、これは罰を与えねぇと行けねぇ、ククッ……」

 それは遠くからダンジョンに繋がる坂を見ていた一人の狼族ヴァラヴォルフの男。
 奇妙な紫色の槍先は太陽に反射して輝き、不気味さを増させている。

「ったく、これだから駆け出しの冒険者は使えねぇんだよ……」

 そう言ってその場を後にした男は、不気味な笑みを浮かべたあと、姿を消した・・・――



 

 
 
 
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