1 / 10
一章
謝罪冒険者の平常運転
しおりを挟む「どうして……どうしてこんな事になった……?」
――ダンジョン一階層
冒険者歴一ヶ月の少年フェイ・ユリウスは、ダンジョンのトラップである【樹の監獄】に見事に引っかかっていた。
地面から生え渡る太い木の根が、フェイの頭上で絡まり合い、言葉通りの監獄を作り上げている。
「キール達ここに宝箱あるって言ってたのに……。僕地図の見方間違えたかな……」
特に目立った防具すら付けていないフェイは、手に持っている地図に目を落とす。
ちなみにこの地図は、ダンジョンの入口で同級生であるキールに貰ったものなのだが……。
「どうしよう……宝箱どころか、ここは…………」
『グァァ――』
『ギギギ……』
『ゴァァ――』
怪物の出産部屋――
モンスターが生まれ落ちるこの場所は、冒険者が近づいては行けない危険地帯……。
そんな事も知らないフェイは鼻歌交じりに足を踏み入れ、まんまとトラップに引っかかったという訳だ。
「まぁでも、キール達が来てたら大変な目に合ってたって事だよね……それを阻止出来たってことでいっか!」
フェイは馬鹿である――
騙されたことにも気づかないで、人の心配を優先する大馬鹿者である――
謎に笑顔を見せた後、地図を小さなバックパックにしまったフェイは、何ですかそれと言われそうなおもちゃナイフを右手に持ち、へっぴり腰でそれを構える。
ここのトラップの目的は冒険者の足止め。冒険者が涙を飲んでいる間にモンスターを集めさせ、それから一気に解放させる――言わば迷宮の餌やりだ。
「やばばばば、流石にこれ……死んじゃうよ!」
いつトラップが解除されるか分からない恐怖を味わいながら、フェイは震えながらモンスターを涙目で見る。
「怖い……もうモンスター6体いるじゃん!!」
餌まだですかと眼をギラ付かせるモンスター。そんな殺眼と目を合わせる度に、ひぃぃ! と声を零すフェイは、誰か助けてくださいぃぃ!! と大声で助けを求め続ける。
その僅か数秒後だった。
「そこに……そこに誰かいるの?」
それはフェイが先程来た方向から聞こえる足音。
ザッザッという音と共に鎧が擦れる金属音がダンジョンに響き渡る。
男の人かな? とじっと見つめるフェイの瞳に映ったのは、見慣れた赤髪の冒険者……、
「……キール?」
それはダンジョンに入る前に会ったばかりの同級生の姿。
大剣を担ぎ、ピカピカと輝く鎧を身にまとった、クラスで一番強い冒険者。
そんな頼りになる同級生は、フェイを見るなりバレないようにニヤリと口を歪め、
「よぉフェイー! 宝箱は見つかったか? まさかもうこんな所まで来てたとはなー、さすがフェイだな!」
「~~~~~~~ッ!」
嬉しかった――
助かったとフェイは心から安堵した。
ゆっくり近づいてくるキールの姿が英雄にまで思えた。
流石主席だよぉぉ! とペタリと座り込んだフェイはナイフを鞘にしまい、ありがとうと笑顔を見せる。
「フェイはそんなところで何してるんだー?」
トラップにかかったフェイの姿を不思議そうに見るキールは、笑い混じりにそんな言葉を投げ掛ける。
その言葉にはっとしたフェイは、モンスターが周りにいることを思い出し、咄嗟に声をあげる。
「そうだキール! ここ宝箱があるんじゃなくて、モンスターガーデンがあったんだ! いっぱいモンスターいるから気をつけて!」
そんなワタワタするフェイの言葉と同時に、その場にいる約半分のモンスターの眼光がキールに向けられる。
しかしキールは何処か余裕な笑みを浮かべたあと、大根役者モードで言葉を返した。
「まじかぁ! それは大変だ! じゃあ、俺一人じゃ厳しいなぁ! よしっ! 助け呼んでくるわ! そこで待ってろよフェイ!」
「分かったぁ! 気をつけてね!!」
何故か身を心配する立場に変わったフェイは、高速で帰っていくキールを見て、あんなに心配してくれてるよぉ! と嬉しさで胸を溢れかえらせた。
「やっぱり持つべきものは友達なんだよ~!」
しかしそれから二日間、誰も助けに来なかった――
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ねぇ……ダンジョンさん。もしかしてさ…………僕の事、冒険者だと思ってないでしょ」
強ければ強いほど冒険者は餌として価値がある。
自動的に選別を行うダンジョンは、フェイを冒険者として判断しなかったのか、トラップはいつまで経っても解除されなかった。
これが運がいいのか悪いのかは分からない。
ただ一つそんな中でフェイが気にしていたことは……。
「キール大丈夫かな……僕を助けようとして無理とかしてないかな…………」
裏切り者の安否だった――
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる