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31話
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大量に発生したスライムと、その変異種討伐のために街から殆どの戦える人が居なくなった中。今、ギルドには私とマリナ、あと受付さんしか居ない。そんなタイミングで、冒険者志望の人が来たらしい。
「すいません、冒険者登録しに来たんですけどー」
……すっごいびちょ濡れだな。その人を見て最初に出てきたのは、そんな感想だった。
短く切りそろえられた黒髪、そしてちょっとボロい服装。身長も低く、少し声が高い男性。格好から言って、スラムか何かの少年だろうか。食うに困って冒険者になりに来たか。
「えっ? 普通、このタイミングで来る?」
想定外すぎる訪問者に、受付さんも完全に素が出てしまっている。まあ気持ちは分かる。
今回の討伐作戦は、唐突に今日行うことに決まった。そのためギルド職員が総出で街中を駆けずり回って冒険者を招集したらしく、あっという間に人々の知るところとなったわけである。
というか、騎士団やら冒険者やら、果てにはギルドの職員までほぼ総動員したこの作戦は規模が大きい。当然ながら誰もが知っているだろうし、そんな中でほぼ誰も居ないであろうギルドに来る奴なんて普通は居ないのである。
「へへっすいません、来ちゃいました」
「来ちゃいましたじゃねえよ」
もはや素を隠す気すらない受付さんはさて置いて、私は普通ではない少年に話しかけた。
「よりによってこのタイミングで来るなんて……今ギルドは職員がほぼ居ないのを知らなかったの?」
「いや、それは知ってましたよ。というか、ここの扉に貼り紙で、『只今全作業を無期限休止中』って書いてありましたし」
じゃあなんで来ちゃったんだよ。こいつ、おかしいんじゃないだろうか。そんな目線を向けていると、少年は弁明するように言葉を続ける。
「いや、実はお金が全然無くて……スリとかするのもあれだし、今すぐ稼がないと今日は飯抜きになっちゃうんですよね」
「昨日とかに来て依頼を受ければ良かったじゃないですか」
「そう言われても、昨日の時点では今日だって空いてるだろうと思ったら、今日いきなりギルド空いてないって言われちゃったもんで。へへへ……」
成程。確かに今日ギルドが閉まるなんて、昨日まででは思いもしなかっただろう。金がないけど明日ギルドに行けば良いや、とでも考えてたのだろう。まあ、だとしても余裕を持って行動しろとしか言いようがないけれど。
「へへへ、じゃありませんよ。貼り紙にあったとおり、今日はここ休止中なんです」
「もうほぼ一文無しなんですよ、そこをなんとか……」
「なんとかなりませんよ!」
私が少年に呆れていると、少年と受付さんが押し問答を始めた。受付さんは帰れの一点張りだが、もう金が無い少年も態度こそ低姿勢だが一歩も引く気が無さそうだ。なんだかあれは一向に終わらなそうな感じがする。
こちらとしてはそこで騒がれると嫌なので、帰らせるでも依頼を受けさせるでも良いからとっとと解決して欲しいのだが。
「なんか始まっちゃったね」
「始まっちゃいましたね」
マリナと顔を見合わせる。そして、二人して。
「「はぁ……」」
早く終わってくれ、という思いのこもった溜息が出た。
「だーかーらー! とっとと帰ってくださいって!」
「帰らないっす! 帰らないっすよ!」
「どうしてそこまで意固地になるんですか!? お金がないんだったら今日の宿代くらいは貸してあげますから! とっとと帰ってください!」
「嫌です、冒険者登録と依頼を受けれるまで帰りません!」
それから数分後。二人の言い争いを背景に、私とマリナは駄弁り続けていた。
「なんであんなに依頼を受けるのに拘るんだろうね? お金貸してくれるって言ってるのに」
「お金を得る以外の目的があるんじゃないですか? なんというか彼、ここに残るために話を延ばし続けている気がします」
なんじゃそりゃ。全く意味が分からない。少年がギルドに残りたいんだとして、その目的は何なんだ?
「しょうがない……シエラさん、マリナさん、少し奥で話をしてきますね」
「そうっすねえ。こっちとしてはもう少し話す必要ありますし」
「あ、はーい。どうぞごゆっくりー」
「お好きにどうぞ」
遂に二人の言い争いは、場所を変えるという長期化間違いなしな事態に。成程、確かにマリナの言った通り、少年は話を延ばし続けているように感じる。
「だとしたら、どうしてギルドに残りたいんだろう?」
「……受付さんに惚れてしまったとか?」
「全然そんな風には見えなかったけどなぁ」
そこから話は全く進まなくなった。私もマリナも少年がそうしたがる理由なんて分からなかったし、正直分からなくてもどうでも良いのだ。
「そういえば、私たちの出番がある可能性ってどれくらいなんだろうね」
「出番……ああ、この街をあの魔物が襲う可能性ですか」
マリナは少し考えこんだ後。
「ほぼゼロでしょうね。そもそも、事件が起きた地域でスライムが急増していますけど、ここ近辺ではスライムどころか魔物なんて出ませんし」
「まあ、そうだよね。今回スライムが問題になってるけど、そのスライムをここら辺で見たことが……」
そこまで言って、私は気づいた。
「……あるじゃん」
最初にガーネットの家を訪ねた帰り。あの時、街の中にも関わらず、スライムに遭遇した。少し前の話だったが、今はどうなっているのか。
「そういえば、そうですね……」
「まさか、ね」
少年の妙にびちょびちょな格好。そして不自然な行動。嫌な予感がよぎったその時。
「ば、化け物っ!?」
聞き覚えのある悲鳴が、奥の方から響いた。
「今の声、受付さんのだよね?」
「……急ぎましょう!」
「すいません、冒険者登録しに来たんですけどー」
……すっごいびちょ濡れだな。その人を見て最初に出てきたのは、そんな感想だった。
短く切りそろえられた黒髪、そしてちょっとボロい服装。身長も低く、少し声が高い男性。格好から言って、スラムか何かの少年だろうか。食うに困って冒険者になりに来たか。
「えっ? 普通、このタイミングで来る?」
想定外すぎる訪問者に、受付さんも完全に素が出てしまっている。まあ気持ちは分かる。
今回の討伐作戦は、唐突に今日行うことに決まった。そのためギルド職員が総出で街中を駆けずり回って冒険者を招集したらしく、あっという間に人々の知るところとなったわけである。
というか、騎士団やら冒険者やら、果てにはギルドの職員までほぼ総動員したこの作戦は規模が大きい。当然ながら誰もが知っているだろうし、そんな中でほぼ誰も居ないであろうギルドに来る奴なんて普通は居ないのである。
「へへっすいません、来ちゃいました」
「来ちゃいましたじゃねえよ」
もはや素を隠す気すらない受付さんはさて置いて、私は普通ではない少年に話しかけた。
「よりによってこのタイミングで来るなんて……今ギルドは職員がほぼ居ないのを知らなかったの?」
「いや、それは知ってましたよ。というか、ここの扉に貼り紙で、『只今全作業を無期限休止中』って書いてありましたし」
じゃあなんで来ちゃったんだよ。こいつ、おかしいんじゃないだろうか。そんな目線を向けていると、少年は弁明するように言葉を続ける。
「いや、実はお金が全然無くて……スリとかするのもあれだし、今すぐ稼がないと今日は飯抜きになっちゃうんですよね」
「昨日とかに来て依頼を受ければ良かったじゃないですか」
「そう言われても、昨日の時点では今日だって空いてるだろうと思ったら、今日いきなりギルド空いてないって言われちゃったもんで。へへへ……」
成程。確かに今日ギルドが閉まるなんて、昨日まででは思いもしなかっただろう。金がないけど明日ギルドに行けば良いや、とでも考えてたのだろう。まあ、だとしても余裕を持って行動しろとしか言いようがないけれど。
「へへへ、じゃありませんよ。貼り紙にあったとおり、今日はここ休止中なんです」
「もうほぼ一文無しなんですよ、そこをなんとか……」
「なんとかなりませんよ!」
私が少年に呆れていると、少年と受付さんが押し問答を始めた。受付さんは帰れの一点張りだが、もう金が無い少年も態度こそ低姿勢だが一歩も引く気が無さそうだ。なんだかあれは一向に終わらなそうな感じがする。
こちらとしてはそこで騒がれると嫌なので、帰らせるでも依頼を受けさせるでも良いからとっとと解決して欲しいのだが。
「なんか始まっちゃったね」
「始まっちゃいましたね」
マリナと顔を見合わせる。そして、二人して。
「「はぁ……」」
早く終わってくれ、という思いのこもった溜息が出た。
「だーかーらー! とっとと帰ってくださいって!」
「帰らないっす! 帰らないっすよ!」
「どうしてそこまで意固地になるんですか!? お金がないんだったら今日の宿代くらいは貸してあげますから! とっとと帰ってください!」
「嫌です、冒険者登録と依頼を受けれるまで帰りません!」
それから数分後。二人の言い争いを背景に、私とマリナは駄弁り続けていた。
「なんであんなに依頼を受けるのに拘るんだろうね? お金貸してくれるって言ってるのに」
「お金を得る以外の目的があるんじゃないですか? なんというか彼、ここに残るために話を延ばし続けている気がします」
なんじゃそりゃ。全く意味が分からない。少年がギルドに残りたいんだとして、その目的は何なんだ?
「しょうがない……シエラさん、マリナさん、少し奥で話をしてきますね」
「そうっすねえ。こっちとしてはもう少し話す必要ありますし」
「あ、はーい。どうぞごゆっくりー」
「お好きにどうぞ」
遂に二人の言い争いは、場所を変えるという長期化間違いなしな事態に。成程、確かにマリナの言った通り、少年は話を延ばし続けているように感じる。
「だとしたら、どうしてギルドに残りたいんだろう?」
「……受付さんに惚れてしまったとか?」
「全然そんな風には見えなかったけどなぁ」
そこから話は全く進まなくなった。私もマリナも少年がそうしたがる理由なんて分からなかったし、正直分からなくてもどうでも良いのだ。
「そういえば、私たちの出番がある可能性ってどれくらいなんだろうね」
「出番……ああ、この街をあの魔物が襲う可能性ですか」
マリナは少し考えこんだ後。
「ほぼゼロでしょうね。そもそも、事件が起きた地域でスライムが急増していますけど、ここ近辺ではスライムどころか魔物なんて出ませんし」
「まあ、そうだよね。今回スライムが問題になってるけど、そのスライムをここら辺で見たことが……」
そこまで言って、私は気づいた。
「……あるじゃん」
最初にガーネットの家を訪ねた帰り。あの時、街の中にも関わらず、スライムに遭遇した。少し前の話だったが、今はどうなっているのか。
「そういえば、そうですね……」
「まさか、ね」
少年の妙にびちょびちょな格好。そして不自然な行動。嫌な予感がよぎったその時。
「ば、化け物っ!?」
聞き覚えのある悲鳴が、奥の方から響いた。
「今の声、受付さんのだよね?」
「……急ぎましょう!」
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