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26話
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金熊の森と銀狼の平原、どちらからも近い位置にある丘。どちらで問題が起きてもすぐ対応できる上に、見晴らしが良く状況を把握しやすいこの場所は、本陣を置くのにうってつけだ。
そんな絶好の地にギルドマスターである俺、フォエルテ・ストロングスは陣を構えていた。
「ギルドマスター、金熊の森方面は順調に事が進んでいるそうです」
「第六騎士団より定期連絡です。今のところ制圧は予定通りだ、とのこと!」
「……そうか。だが、気は抜くなよ」
シトリス、ルヴィアを中心とした冒険者たちが担当する金熊の森。団長オネストを筆頭とする第六騎士団が担当する銀狼の平原。部下からの報告では、そのどちらの制圧も順調に進んでいるらしい。
それ自体は喜ばしい話のはずなのだが……俺は全く喜べなかった。
「これだけ大きく動けば、あっちも気づく筈だ。にも関わらず、なんにも動きを見せてこねえ。不気味だな」
「案外、大した魔物では無いんじゃないですか? 被害の殆どがCランク以下の冒険者ですし、実はBランクに毛が生えた程度の強さなのかも」
そんな馬鹿なことが有り得るか。
そもそも、今回の事件の元凶をスライムの変異種と想定してこちらは動いている。被害地域でのスライムの異常な増加や、嬢ちゃんやマリナが戦った魔物の調査結果から考えても、その可能性が極めて高いと言って良い。だが、確定しているわけではない。それは何故か。
誰も、今回の事件の元凶の目撃者が居ないからだ。
「誰も居ない、なんて異常すぎるんだよ」
通常の場合、冒険者の脅威になる魔物が出れば、すぐその正体は分かる。その魔物からなんとか逃げてきたり、魔物に気づかれず遠目で目撃した冒険者が証言をするからだ。
だが、今回の事件は事件の元凶の目撃者が居ない。言い換えれば、目撃者は全員死んだということだ。
Cランク冒険者ですら、逃げることすら出来ない程に強力な魔物だった。とすれば、やはり最低でもAランクは……
「ギルドマスター! 騎士団より緊急連絡です、銀狼の平原で行方不明者の少女を保護しました!」
「何だとっ!?」
そりゃ、朗報だ。生きていた、というのも勿論だが、何よりも貴重な目撃者になる。その少女から、今回の事件元凶について情報を得れるのだ。ほぼ間違いないとはいえ、これで事件の元凶がスライムの変異種なのか、それとも他の何かなのかがハッキリと分かる。
「手当てが済み次第、今すぐそいつをこっちに連れてこい! 貴重な情報源だぞ!」
……俺がビビりすぎてただけで、本当に大したことないのかもしれねえな。
―――――
「あー、さっきからずっとスライムばっかり……何なのよこの多さは!」
「シエラさんたちが調査した時は、そんなに多くなかったらしいけど……そうなると、ここ数日でとんでもないペースで増えたことになるね」
「ごちゃごちゃうっさい! 分かりやすく言いなさいよ!」
「あはは、ごめんごめん」
自分でも言うのもなんだけど、あたしは今、結構イラついている。何せ最近は悪いことばっかり起きる。
昔からずっと使ってた剣は壊れるし、スライム変異種とか訳分かんない魔物は出てくるし、最近は晴ればっかで暑すぎるし、組む相手はシトリスになるし。ああ、最悪。
……コイツは信用出来ない。それがあたしのシトリスヘの感想だ。常に笑顔で一見いいやつっぽい振る舞いをしているけれど、目の奥は笑ってない。絶対に何か隠しているし、そのうちやらかす。
「何でシエラはこんな奴気に入るのよ……」
「ん? ルヴィアさん、何か言ったかい?」
「何でもないわ!」
何よりも腹が立つのは、シエラのやつがマリナなんかとパーティを組んでいたこと。あれじゃあ、あたしがパーティから抜けた意味が皆無じゃん。
「最近ホントに全部上手くいかないわね……」
「まあまあ、何を悩んでるのかは知らないけど、そんなに落ち込んじゃ駄目だよ。大事なのは笑顔。ほら、にぱーって……」
「ああもう! あんたは黙ってなさい!」
あたしの悩みの一つがごちゃごちゃ言っているのを一括したところで、前方に何かを見つけた。あれは……キース?
「き、キースさん!? 生きてたんですか!」
「ああ、なんとかな。それにしても、お前らあれか、あの魔物を倒しに来たのか?」
びしょ濡れになっているこの男の名前はキース。確かコイツ、面倒見が良いとかで人望のあるDランク冒険者だったっけ。今回の行方不明事件の、初期の方の被害者だった筈だ。
「あんた、怪我はないの?」
「せいぜい軽傷程度さ。いやあ、お前らが来たなら助かったも同然だな!」
何でもなさそうに返すキース。随分とずぶ濡れではあるもののコイツの言う通り、確かに傷は殆ど無かった。足元を見ると、ここら一体全部びちゃびちゃだ。
「……ふーん」
「あんた、Aランク冒険者のルヴィアさんだっけ。助けてくれて、ありがとな」
笑顔でそう礼を言って、握手でもするのかこちらに手を伸ばしてきたキース。それにあたしは……
「死ね」
全力の一撃を叩き込んでやった。
そんな絶好の地にギルドマスターである俺、フォエルテ・ストロングスは陣を構えていた。
「ギルドマスター、金熊の森方面は順調に事が進んでいるそうです」
「第六騎士団より定期連絡です。今のところ制圧は予定通りだ、とのこと!」
「……そうか。だが、気は抜くなよ」
シトリス、ルヴィアを中心とした冒険者たちが担当する金熊の森。団長オネストを筆頭とする第六騎士団が担当する銀狼の平原。部下からの報告では、そのどちらの制圧も順調に進んでいるらしい。
それ自体は喜ばしい話のはずなのだが……俺は全く喜べなかった。
「これだけ大きく動けば、あっちも気づく筈だ。にも関わらず、なんにも動きを見せてこねえ。不気味だな」
「案外、大した魔物では無いんじゃないですか? 被害の殆どがCランク以下の冒険者ですし、実はBランクに毛が生えた程度の強さなのかも」
そんな馬鹿なことが有り得るか。
そもそも、今回の事件の元凶をスライムの変異種と想定してこちらは動いている。被害地域でのスライムの異常な増加や、嬢ちゃんやマリナが戦った魔物の調査結果から考えても、その可能性が極めて高いと言って良い。だが、確定しているわけではない。それは何故か。
誰も、今回の事件の元凶の目撃者が居ないからだ。
「誰も居ない、なんて異常すぎるんだよ」
通常の場合、冒険者の脅威になる魔物が出れば、すぐその正体は分かる。その魔物からなんとか逃げてきたり、魔物に気づかれず遠目で目撃した冒険者が証言をするからだ。
だが、今回の事件は事件の元凶の目撃者が居ない。言い換えれば、目撃者は全員死んだということだ。
Cランク冒険者ですら、逃げることすら出来ない程に強力な魔物だった。とすれば、やはり最低でもAランクは……
「ギルドマスター! 騎士団より緊急連絡です、銀狼の平原で行方不明者の少女を保護しました!」
「何だとっ!?」
そりゃ、朗報だ。生きていた、というのも勿論だが、何よりも貴重な目撃者になる。その少女から、今回の事件元凶について情報を得れるのだ。ほぼ間違いないとはいえ、これで事件の元凶がスライムの変異種なのか、それとも他の何かなのかがハッキリと分かる。
「手当てが済み次第、今すぐそいつをこっちに連れてこい! 貴重な情報源だぞ!」
……俺がビビりすぎてただけで、本当に大したことないのかもしれねえな。
―――――
「あー、さっきからずっとスライムばっかり……何なのよこの多さは!」
「シエラさんたちが調査した時は、そんなに多くなかったらしいけど……そうなると、ここ数日でとんでもないペースで増えたことになるね」
「ごちゃごちゃうっさい! 分かりやすく言いなさいよ!」
「あはは、ごめんごめん」
自分でも言うのもなんだけど、あたしは今、結構イラついている。何せ最近は悪いことばっかり起きる。
昔からずっと使ってた剣は壊れるし、スライム変異種とか訳分かんない魔物は出てくるし、最近は晴ればっかで暑すぎるし、組む相手はシトリスになるし。ああ、最悪。
……コイツは信用出来ない。それがあたしのシトリスヘの感想だ。常に笑顔で一見いいやつっぽい振る舞いをしているけれど、目の奥は笑ってない。絶対に何か隠しているし、そのうちやらかす。
「何でシエラはこんな奴気に入るのよ……」
「ん? ルヴィアさん、何か言ったかい?」
「何でもないわ!」
何よりも腹が立つのは、シエラのやつがマリナなんかとパーティを組んでいたこと。あれじゃあ、あたしがパーティから抜けた意味が皆無じゃん。
「最近ホントに全部上手くいかないわね……」
「まあまあ、何を悩んでるのかは知らないけど、そんなに落ち込んじゃ駄目だよ。大事なのは笑顔。ほら、にぱーって……」
「ああもう! あんたは黙ってなさい!」
あたしの悩みの一つがごちゃごちゃ言っているのを一括したところで、前方に何かを見つけた。あれは……キース?
「き、キースさん!? 生きてたんですか!」
「ああ、なんとかな。それにしても、お前らあれか、あの魔物を倒しに来たのか?」
びしょ濡れになっているこの男の名前はキース。確かコイツ、面倒見が良いとかで人望のあるDランク冒険者だったっけ。今回の行方不明事件の、初期の方の被害者だった筈だ。
「あんた、怪我はないの?」
「せいぜい軽傷程度さ。いやあ、お前らが来たなら助かったも同然だな!」
何でもなさそうに返すキース。随分とずぶ濡れではあるもののコイツの言う通り、確かに傷は殆ど無かった。足元を見ると、ここら一体全部びちゃびちゃだ。
「……ふーん」
「あんた、Aランク冒険者のルヴィアさんだっけ。助けてくれて、ありがとな」
笑顔でそう礼を言って、握手でもするのかこちらに手を伸ばしてきたキース。それにあたしは……
「死ね」
全力の一撃を叩き込んでやった。
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