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15話
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「どうぞー。熱いので少し冷ましてからお飲みください」
「ありがとうございます」
「ど、どういたしまして……」
ビクビクした様子で、ガーネットは一対のティーカップを持ってきた。トレイの上に載せて運ばれてきたそれらからは、ほんのりと湯気が出ている。間違いなく、この紅茶は淹れたてなのだろう。
「では早速、頂きますね」
受け取って早速、マリナはティーカップに口をつける。そしてその直後、彼女は頬を緩めた。
「……美味しい。凄く丁寧に淹れられてますね」
「あ、ありがとうございます!」
「こちらを本業にしても良さそうなくらいですよ、これは」
べた褒めである。そんなに美味しいのか、ガーネットが淹れた紅茶。そんな疑問を私は抱いた。
「シエラさんも、一口飲んでみてはどうです? この紅茶はとても美味しいですよ」
「うーん……紅茶が美味しい、ねえ。私、紅茶自体好きじゃないからなあ」
実のところ、私は紅茶があまり好きではない。香りは悪くないと思うのだが、味が好きではないのだ。紅茶なんて私からすれば、ちょっと良い香りがするお湯なのである。
「本当に美味しいんですよ、騙されたと思って一口だけ飲んでみてください!」
「そう言われて飲食したので、本当に美味しかったこと皆無なんだけど……」
飲みたいとはあまり思わなかったが、マリナの強い押しを私は断り切れなかった。それに、態々淹れてもらったのに一口も飲まないのもどうなんだろうか。そう思った私は、一口だけ紅茶を飲むことにした。
「どうですか?」
「……お湯の味がする」
紅茶なんて二度と飲まない。そう心に誓った私であった。
休憩を済ませた私たちは、再びガーネットと話していた。
「本題に戻ろうか。ガーネットさん、私たちと組まない?」
「Aランク冒険者のお二人と組めるというの魅力的な話ですが……組んで何をするんですか?」
訝しげにそう問い掛けるガーネット。その言葉を待っていた私は、間髪入れずに答えた。
「私たちがガーネットさんの代わりに、事件現場に取材に行くんだよ」
「……ほう」
空気がそれまでと一変する。マリナに怯えて媚びへつらっていた少女の姿はもはや何処にもなく、そこに居たのは一人前の新聞記者だった。
「一応聞くけど、まだ現地取材はしてないでしょ?」
「ええ。手練れの冒険者も行方不明になってるんです。Dランクの私じゃ現地取材なんて死にに行くようなものですよ」
想像通り、ガーネットは現地取材をしていなかった。まあ当たり前だ。記事を書くにあたって情報集めをしているだろうガーネットが、今回の件の危険性に気づかない訳がない。Cランクの四人組ですら全員行方不明になっているのだ。Dランク程度の実力では……いや、私もDランク程度の実力だったわ。
「私たちなら君の代わりに現地取材に行けるよ。何たって、私たちのパーティにはAランク冒険者のマリナが居るんだからね」
「そうです、私こそがAランク冒険者の剣士マリナです。えっへん」
私がそう言うと、マリナはドヤ顔でえっへん、と胸を張った。かわいいなこいつ。
ハイテンションな私たちに対して、ガーネットは冷静に突っ込んでくる。
「シエラさんもAランク冒険者では?」
「えっ、ああ、うん。私はつい最近Aランクになったばかりだから……」
「なるほど?」
私も実力はDランク程度なんだよね、とバラせたら楽だったのだが。よりによって新聞記者相手にそんなこと言える訳が無い。言ったら最後、私の実力の低さが記事にされ、街中に広まってしまうことだろう。
「ともかく、そういうことだから虚偽報道なんて辞めなよ。そんなことしなくても私たちがネタを提供出来るからさ」
「……分かりました。では、お二人に現地取材を依頼しますね。報酬は取材日翌日の売上三割分、ということでどうですか?」
「全然良いけど……そうだ、マリナはどう?」
勝手に話を進めてしまったが、マリナは大丈夫だろうか。
「構いませんよ。しばらくは高ランクの良い依頼が無さそうですし、行方不明事件を起こした魔物とも戦ってみたいですから」
「まだ魔物と決まった訳じゃないから……まあ、ほぼ間違いなく魔物ではあるだろうけど」
大丈夫どころか、かなりワクワクしていた。相変わらずの戦闘狂っぷりだが、今はそれが頼もしい。
「ともかく、私たちはそれでオッケーだよ。ガーネットさんはどう?」
「こちらとしても願ったり叶ったりですよ。では、明日から取材をお願いしますね。報酬は毎日ここで手渡しします」
「明日から? ……ああ、もう夕方か」
気づけば、窓の外から夕日が射していた。今すぐ現地取材を始めても良いくらいの気持ちだったのだが、それは無理そうだ。
「シエラさん、話も済みましたしそろそろ帰りませんか?」
「うーん、そうしようか」
太陽の位置からいって、もう少ししたら夜だ。流石に真っ暗な中での帰宅は避けたい。ここら辺で帰ったほうが良さそうだ。
「それじゃあガーネットさん。また明日――」
「あ、ちょっと待ってください!」
そうやって帰ろうとしたところで、ガーネットに呼び止められた。
「明日の記事がまだ書けてなくて……良ければ、お二人に取材して良いですか?」
「えっ?」
私たちに、取材?
「ありがとうございます」
「ど、どういたしまして……」
ビクビクした様子で、ガーネットは一対のティーカップを持ってきた。トレイの上に載せて運ばれてきたそれらからは、ほんのりと湯気が出ている。間違いなく、この紅茶は淹れたてなのだろう。
「では早速、頂きますね」
受け取って早速、マリナはティーカップに口をつける。そしてその直後、彼女は頬を緩めた。
「……美味しい。凄く丁寧に淹れられてますね」
「あ、ありがとうございます!」
「こちらを本業にしても良さそうなくらいですよ、これは」
べた褒めである。そんなに美味しいのか、ガーネットが淹れた紅茶。そんな疑問を私は抱いた。
「シエラさんも、一口飲んでみてはどうです? この紅茶はとても美味しいですよ」
「うーん……紅茶が美味しい、ねえ。私、紅茶自体好きじゃないからなあ」
実のところ、私は紅茶があまり好きではない。香りは悪くないと思うのだが、味が好きではないのだ。紅茶なんて私からすれば、ちょっと良い香りがするお湯なのである。
「本当に美味しいんですよ、騙されたと思って一口だけ飲んでみてください!」
「そう言われて飲食したので、本当に美味しかったこと皆無なんだけど……」
飲みたいとはあまり思わなかったが、マリナの強い押しを私は断り切れなかった。それに、態々淹れてもらったのに一口も飲まないのもどうなんだろうか。そう思った私は、一口だけ紅茶を飲むことにした。
「どうですか?」
「……お湯の味がする」
紅茶なんて二度と飲まない。そう心に誓った私であった。
休憩を済ませた私たちは、再びガーネットと話していた。
「本題に戻ろうか。ガーネットさん、私たちと組まない?」
「Aランク冒険者のお二人と組めるというの魅力的な話ですが……組んで何をするんですか?」
訝しげにそう問い掛けるガーネット。その言葉を待っていた私は、間髪入れずに答えた。
「私たちがガーネットさんの代わりに、事件現場に取材に行くんだよ」
「……ほう」
空気がそれまでと一変する。マリナに怯えて媚びへつらっていた少女の姿はもはや何処にもなく、そこに居たのは一人前の新聞記者だった。
「一応聞くけど、まだ現地取材はしてないでしょ?」
「ええ。手練れの冒険者も行方不明になってるんです。Dランクの私じゃ現地取材なんて死にに行くようなものですよ」
想像通り、ガーネットは現地取材をしていなかった。まあ当たり前だ。記事を書くにあたって情報集めをしているだろうガーネットが、今回の件の危険性に気づかない訳がない。Cランクの四人組ですら全員行方不明になっているのだ。Dランク程度の実力では……いや、私もDランク程度の実力だったわ。
「私たちなら君の代わりに現地取材に行けるよ。何たって、私たちのパーティにはAランク冒険者のマリナが居るんだからね」
「そうです、私こそがAランク冒険者の剣士マリナです。えっへん」
私がそう言うと、マリナはドヤ顔でえっへん、と胸を張った。かわいいなこいつ。
ハイテンションな私たちに対して、ガーネットは冷静に突っ込んでくる。
「シエラさんもAランク冒険者では?」
「えっ、ああ、うん。私はつい最近Aランクになったばかりだから……」
「なるほど?」
私も実力はDランク程度なんだよね、とバラせたら楽だったのだが。よりによって新聞記者相手にそんなこと言える訳が無い。言ったら最後、私の実力の低さが記事にされ、街中に広まってしまうことだろう。
「ともかく、そういうことだから虚偽報道なんて辞めなよ。そんなことしなくても私たちがネタを提供出来るからさ」
「……分かりました。では、お二人に現地取材を依頼しますね。報酬は取材日翌日の売上三割分、ということでどうですか?」
「全然良いけど……そうだ、マリナはどう?」
勝手に話を進めてしまったが、マリナは大丈夫だろうか。
「構いませんよ。しばらくは高ランクの良い依頼が無さそうですし、行方不明事件を起こした魔物とも戦ってみたいですから」
「まだ魔物と決まった訳じゃないから……まあ、ほぼ間違いなく魔物ではあるだろうけど」
大丈夫どころか、かなりワクワクしていた。相変わらずの戦闘狂っぷりだが、今はそれが頼もしい。
「ともかく、私たちはそれでオッケーだよ。ガーネットさんはどう?」
「こちらとしても願ったり叶ったりですよ。では、明日から取材をお願いしますね。報酬は毎日ここで手渡しします」
「明日から? ……ああ、もう夕方か」
気づけば、窓の外から夕日が射していた。今すぐ現地取材を始めても良いくらいの気持ちだったのだが、それは無理そうだ。
「シエラさん、話も済みましたしそろそろ帰りませんか?」
「うーん、そうしようか」
太陽の位置からいって、もう少ししたら夜だ。流石に真っ暗な中での帰宅は避けたい。ここら辺で帰ったほうが良さそうだ。
「それじゃあガーネットさん。また明日――」
「あ、ちょっと待ってください!」
そうやって帰ろうとしたところで、ガーネットに呼び止められた。
「明日の記事がまだ書けてなくて……良ければ、お二人に取材して良いですか?」
「えっ?」
私たちに、取材?
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