7 / 37
7話
しおりを挟む
「成程ねえ。ゴブリンの巣の奥に魔法しか効かねえ意味分からん化けもんがいて、そいつに襲われた、と……」
「信じてくれるんですか? こんな荒唐無稽な話を」
「信じるさ。てめえみたいな強者が傷を負うなんて、化けもんにしか出来ねえだろ」
「真面目に聞いていませんね? 話した内容は全て事実ですよ」
強面の人を殺しそうな顔をしたギルマスと、人を殺せる眼光をしているマリナ。どっちも怖すぎて、会話に入れない……そんなことを考えていると、唐突にギルマスに質問されてしまった。
「なあ嬢ちゃん、こいつの話は本当なのか?」
「う、うん。本当だよ」
少し怖かったけど、嘘をついている訳じゃないのだから怯える必要は無い筈だ。自信を持ってそう答えると、ギルマスは少し考え込んだ後で、
「話は分かった。もう下がっていいぞ」
そう言ったきり、また考えこんでしまった。
「じゃあ、帰りましょうか」
「う、うん。それじゃあギルマス、またね」
「ああ、ガキは早く寝るんだぞ」
そのまま帰ることにした私たちは、部屋を出る時にギルマスとそんな会話をした。その時のギルマスはなんだか、心ここにあらずという感じだったような気がする。
ギルドから出ると、マリナが話し始めた。
「今日はもう遅いですし、一旦解散にしましょう」
「そうだね。マリナ、また明日」
「……はいっ!」
ああ、今日は疲れた。早く帰って寝よーっと。
「ふぁーあ、なんだかまだ眠いや」
翌日、マリナに会うためにギルドへ歩く道のりで。眠気と戦いながらも、私は色々考えていた。あーだこーだ考えた末に、私が出した結論は……
「やっぱり、昨日は私がやらかしてたよね」
何だかんだ、マリナは悪い子じゃなかった。多少言動に問題はあった。でも、いざという時には私に逃げるように言ってくれたし、本質的には良い子なのかもしれない。実力も流石Aランク、という強さだった。もしこの先パーティを組めるのなら、組みたい。
組みたいのだけど、問題は私なのだ。昨日を振り返ると、私が足を引っ張っていたのがよく分かる。押し切られる形で依頼を受けるのを止めれなかったし、戦闘中に目を瞑るなんて論外だ。最後は協力してあの化け物を倒せたけど、もし私でない高ランクの魔法使いがマリナと組んでいたら、もっと素早く強力な魔法が撃てたはずだ。そうすればマリナが怪我を負うことも無かったし、もっと安全に戦えただろう。
「パーティ、解消するべきなんだろうなあ」
私の勘違いじゃなければ、私とマリナは結構仲良くなれた。少なくとも、私はマリナを嫌いじゃない。マリナだって私に呼び捨てを求めたり、Bランク呼ばわりをやめたりと、私をパーティメンバーとして認めてくれたように感じる。
……だから何だと言うんだ。それが、私がマリナの足を引っ張って良い理由にはならないだろう。
「でも、またお別れはしたくないよ……」
私の中で、理性が「マリナの足を引っ張るな、お互いのためにパーティを解消するべきだろう」と声高に叫べば、感情は「折角仲良くなれたのに、解消なんてすべきじゃないわ」と言い返す。
でも、本当は私だって分かっているのだ。パーティを解散するべきなのか、その答えが。
冒険者は、危険な職業だ。ほかの仕事とは訳が違う。私が足を引っ張って、マリナに迷惑をかけるだけならまだ良い。今回のように、私が弱いせいでマリナまで危険に晒される……それは、駄目なのだ。
「よし。パーティ解散を、しよう」
揺らぎながらも、何とか決意をする。そして私は、ギルドの中に入っていった。
「シエラさん、おはようございます」
「マリナ、おはよう」
ギルドに入ると、即座にマリナが近づいてきた。この速さは多分、私が来るのを今か今かと待っていたのだろう。
「シエラさんは、朝食はもう摂りました?」
「うん? そういえば、まだだけど……」
「じゃあ、私と一緒に摂りませんか? ギルド併設の酒場、朝昼はレストランになってるんです」
「そうなの?」
それは初めて知った。まあ、私は普段は酒場に行かないから、全然知らないのは当然だが。
「ええ、特に朝限定のメニューの目玉焼きトーストは美味しくて……」
ぎゅるる。そんな可愛らしいお腹の音が響いた。
「す、すいません。私、ちょっとお腹が空いているんです」
「あれ、そうなの? なら先に食べてれば良かったのに」
「いえ、シエラさんを待っていたので……」
「え? あ、ごめん。私のことは気にしないで良いからさ」
ひょっとして、私を気遣って待っていたのだろうか。そうだとしたら、何だか申し訳ない気持ちになってくる。
「違うんです、その……」
そう言うと、マリナは少し恥ずかしそうに口籠る。
「言えない事情があるなら、別に言わなくても良いよ」
「そうじゃなくて! ただ、シエラさんと一緒に食べたいなって思って……」
「えっ」
想定外の答えが帰ってきて、まじまじとマリナの顔を見つめる。彼女は顔を紅く染めると、ぷいっと向こうを向いて
「ともかく朝食を摂りましょう! 私が奢りますから!」
「わわっ! ふ、服が伸びるからやめてよ!」
誤魔化すように、私をレストランへ強引に引っ張っていくのだった。
「信じてくれるんですか? こんな荒唐無稽な話を」
「信じるさ。てめえみたいな強者が傷を負うなんて、化けもんにしか出来ねえだろ」
「真面目に聞いていませんね? 話した内容は全て事実ですよ」
強面の人を殺しそうな顔をしたギルマスと、人を殺せる眼光をしているマリナ。どっちも怖すぎて、会話に入れない……そんなことを考えていると、唐突にギルマスに質問されてしまった。
「なあ嬢ちゃん、こいつの話は本当なのか?」
「う、うん。本当だよ」
少し怖かったけど、嘘をついている訳じゃないのだから怯える必要は無い筈だ。自信を持ってそう答えると、ギルマスは少し考え込んだ後で、
「話は分かった。もう下がっていいぞ」
そう言ったきり、また考えこんでしまった。
「じゃあ、帰りましょうか」
「う、うん。それじゃあギルマス、またね」
「ああ、ガキは早く寝るんだぞ」
そのまま帰ることにした私たちは、部屋を出る時にギルマスとそんな会話をした。その時のギルマスはなんだか、心ここにあらずという感じだったような気がする。
ギルドから出ると、マリナが話し始めた。
「今日はもう遅いですし、一旦解散にしましょう」
「そうだね。マリナ、また明日」
「……はいっ!」
ああ、今日は疲れた。早く帰って寝よーっと。
「ふぁーあ、なんだかまだ眠いや」
翌日、マリナに会うためにギルドへ歩く道のりで。眠気と戦いながらも、私は色々考えていた。あーだこーだ考えた末に、私が出した結論は……
「やっぱり、昨日は私がやらかしてたよね」
何だかんだ、マリナは悪い子じゃなかった。多少言動に問題はあった。でも、いざという時には私に逃げるように言ってくれたし、本質的には良い子なのかもしれない。実力も流石Aランク、という強さだった。もしこの先パーティを組めるのなら、組みたい。
組みたいのだけど、問題は私なのだ。昨日を振り返ると、私が足を引っ張っていたのがよく分かる。押し切られる形で依頼を受けるのを止めれなかったし、戦闘中に目を瞑るなんて論外だ。最後は協力してあの化け物を倒せたけど、もし私でない高ランクの魔法使いがマリナと組んでいたら、もっと素早く強力な魔法が撃てたはずだ。そうすればマリナが怪我を負うことも無かったし、もっと安全に戦えただろう。
「パーティ、解消するべきなんだろうなあ」
私の勘違いじゃなければ、私とマリナは結構仲良くなれた。少なくとも、私はマリナを嫌いじゃない。マリナだって私に呼び捨てを求めたり、Bランク呼ばわりをやめたりと、私をパーティメンバーとして認めてくれたように感じる。
……だから何だと言うんだ。それが、私がマリナの足を引っ張って良い理由にはならないだろう。
「でも、またお別れはしたくないよ……」
私の中で、理性が「マリナの足を引っ張るな、お互いのためにパーティを解消するべきだろう」と声高に叫べば、感情は「折角仲良くなれたのに、解消なんてすべきじゃないわ」と言い返す。
でも、本当は私だって分かっているのだ。パーティを解散するべきなのか、その答えが。
冒険者は、危険な職業だ。ほかの仕事とは訳が違う。私が足を引っ張って、マリナに迷惑をかけるだけならまだ良い。今回のように、私が弱いせいでマリナまで危険に晒される……それは、駄目なのだ。
「よし。パーティ解散を、しよう」
揺らぎながらも、何とか決意をする。そして私は、ギルドの中に入っていった。
「シエラさん、おはようございます」
「マリナ、おはよう」
ギルドに入ると、即座にマリナが近づいてきた。この速さは多分、私が来るのを今か今かと待っていたのだろう。
「シエラさんは、朝食はもう摂りました?」
「うん? そういえば、まだだけど……」
「じゃあ、私と一緒に摂りませんか? ギルド併設の酒場、朝昼はレストランになってるんです」
「そうなの?」
それは初めて知った。まあ、私は普段は酒場に行かないから、全然知らないのは当然だが。
「ええ、特に朝限定のメニューの目玉焼きトーストは美味しくて……」
ぎゅるる。そんな可愛らしいお腹の音が響いた。
「す、すいません。私、ちょっとお腹が空いているんです」
「あれ、そうなの? なら先に食べてれば良かったのに」
「いえ、シエラさんを待っていたので……」
「え? あ、ごめん。私のことは気にしないで良いからさ」
ひょっとして、私を気遣って待っていたのだろうか。そうだとしたら、何だか申し訳ない気持ちになってくる。
「違うんです、その……」
そう言うと、マリナは少し恥ずかしそうに口籠る。
「言えない事情があるなら、別に言わなくても良いよ」
「そうじゃなくて! ただ、シエラさんと一緒に食べたいなって思って……」
「えっ」
想定外の答えが帰ってきて、まじまじとマリナの顔を見つめる。彼女は顔を紅く染めると、ぷいっと向こうを向いて
「ともかく朝食を摂りましょう! 私が奢りますから!」
「わわっ! ふ、服が伸びるからやめてよ!」
誤魔化すように、私をレストランへ強引に引っ張っていくのだった。
11
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~
takahiro
キャラ文芸
『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。
しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。
登場する艦艇はなんと57隻!(2024/12/18時点)(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。
――――――――――
●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。
●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。かなりGLなので、もちろんがっつり性描写はないですが、苦手な方はダメかもしれません。
●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。
●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。またお気に入りや感想などよろしくお願いします。
毎日一話投稿します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
モヒート・モスキート・モヒート
片喰 一歌
恋愛
「今度はどんな男の子供なんですか?」
「……どこにでもいる、冴えない男?」
(※本編より抜粋)
主人公・翠には気になるヒトがいた。行きつけのバーでたまに見かけるふくよかで妖艶な美女だ。
毎回別の男性と同伴している彼女だったが、その日はなぜか女性である翠に話しかけてきて……。
紅と名乗った彼女と親しくなり始めた頃、翠は『マダム・ルージュ』なる人物の噂を耳にする。
名前だけでなく、他にも共通点のある二人の関連とは?
途中まで恋と同時に謎が展開しますが、メインはあくまで恋愛です。
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる