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06.話が違う
しおりを挟むソティンが渋々ながらアパートに戻ると、買い物に出ていた女魔術師フェイル、フェイルレムンクファレルが帰ってきていた。エルフの彼女はこのフリウルでも長いキャリアを誇る優秀な魔術師で、ソティンが長い時間をかけて口説き落としてパーティに加入してもらった経緯がある。ただエルフ特有のやたらと長い名前は、頭の音節だけに短縮させてもらっている。
「ちょっとソティン、この女は誰なの?」
帰るなり猜疑の目を向けてくるフェイル。彼女が指差す先にはリビングのソファを占拠しているイオスがいて、彼女は爪研ぎを片手に爪の手入れに余念がなさそうだ。
「あっ、お帰りなさ~いリーダー」
「この女、自分を“雷竜の咆哮”の探索者だと言い張ってるわよ」
「で、どうでしたぁ?あの人捕まえられましたぁ?」
「うちの探索者と言えばレイクでしょう?彼はどこにいるのかしら?」
エルフらしい大人びた怜悧な美貌のフェイルと、あどけなく庇護欲をそそる可愛らしいイオス。タイプの違うふたりの美女に迫られて、女好きのソティンにはこれはこれで堪らないシチュエーションだが、今はさすがにそれどころではない。
「あ……ああ。レイクのやつはクビにしたんだ」
「そうなの?まあ彼は役立たずだと、貴男が常日頃から悪しざまに言っていたものね」
フェイルはエルフであるだけに、人間の個々の人物の良し悪しなどがよく解っていない。だから彼女はソティンが日頃から言っているレイクへの評価を特に疑問にも思わずに鵜呑みにしていたし、そのため今回の追放も、特に何も思わずに素直に受け入れたようだ。
「えー?結局カレのこと捕まえられなかったんですかぁ?」
「それで?この子が新しい探索者ってわけ?」
「そっ、そうなんだよ!イオスはこう見えても優秀な探索者でね!」
立ち上がってソティンのそばまでやってきたイオスの肩を、ソティンは親しげに抱き寄せる。
(リーダー、話違ぁう。私仕事しなくていいんじゃなかったのぉ?)
(しっ仕方ねえだろ!ギルドから『復帰は認めない』って言われちまったんだからよ!)
「ふたりしてずいぶん仲が良さそうだけれど、何をコソコソ話し合っているのかしら?」
(……ふうん。ギルドがレイクの復帰を認めなかったってことは、彼の肩を持ってソティンの瑕疵を重く見たって事よね?そうなると……これは私欲や冤罪での不当な追放と判断された、ってところかしらね?)
ふたりの様子を訝しそうな目で見ているフェイルは、実は[強化]の魔術で聴力を上げていて彼らの小声もバッチリ聞こえている。だがそんな事はソティンもイオスも気付かないし、フェイルもわざわざ教えてやるつもりもない。
「なっ、何でもねえよこっちの話だ!」
「そうですよぉ、エルフさんには関係ない話ですぅ」
「…………まあいいけれど。その子がちゃんと仕事が出来るなら、私はそれで文句はないわ」
彼女にしてみれば、探索者などきちんと仕事さえやってくれれば誰でもいいので、それがレイクでもイオスでも満足のいく仕事さえしてくれればそれでいいのだ。
逆に言えば、イオスがレイクのやっていたのと同レベルで仕事ができないようならフェイルは不満に感じるわけだが、この時ソティンもイオスもまだそんな事まで気が回っていなかった。
「そっそうだ!セーナのやつはまだ戻らねえのか?」
「あの子なら神殿の既定のお勤めがあるんだから、帰ってるはずないでしょう?」
ソティンたち“雷竜の咆哮”が日中からクエストも受けずにブラブラしているのは、パーティの法術師であるセーナが彼女の所属するイェルゲイル神教の年に一度のお勤めで、パーティを一時的に離れているからだ。セーナは回復役でもあったから彼女抜きでクエストに出るのは危険が伴うし、彼女はなぜかレイクを評価しているようだったから、彼女がおらずクエストもないこのタイミングを狙ってソティンはレイクの追放に踏み切ったのだ。
「セーナのいない隙に彼を追放したなんて知られたら、あの子怒るでしょうねえ」
「い、イオスは魔術も扱えるし、戦闘時のサポートだって得意だ!だからセーナにだって文句は言わせねえよ!」
「えへ☆歌って踊れてサポートもバッチリ、美少女探索者イオスちゃんでぇっす♪よろしくねエルフのお姉さん♡」
「…………ホントにこの子、ちゃんと仕事できるのかしらね?」
「ねぇねぇお姉さん、ちょっと」
自分に疑いの目を向けてくるエルフの女魔術師の腕を取り、イオスは彼女をソティンから引き離した。
「な、なによ?」
(お姉さん、リーダーとどこまで進んでるんですかぁ?)
(私が?ソティンと?有り得ないわタイプじゃないもの)
(えっそうなんですかぁ?)
(そうよ。というか私がパートナーとして選ぶのは同じエルフの男だけよ)
実を言うとソティンはこれまで何度もフェイルに口説き文句を囁いたり、ふたりきりになろうとしたりと色々画策してはいた。彼が何を考えているかはさすがにフェイルも分かっていたが、自分で言ったとおり彼女は同族以外に興味などないので全部無視していた。
まあさすがにふたりきりになることだけは巧みに避けてはいたが。腕力で人間の男性に敵うはずもなかったし、魔道具などで一時的に魔術を封じられでもすれば抵抗力を失うのは明白だったから。
たださすがにソティンも、そんな決定的なやらかしをしてフェイルという優秀な魔術師を失うのが怖かったのか、これまではそんな強引な手段には出ていなかった。なので、フェイルとソティンの関係はあくまでも「パーティの仲間」以上のものではなかった。
(あー、確かにエルフさんからしてみれば人間の男なんて雑魚ですよねえ。⸺じゃあ、法術師の人はどうなんですかぁ?)
(セーナ?あの子はレイクと同じで仕事上の人間関係に恋愛を持ち込まないタイプだから、あの子もソティンとそういう仲ではないはずよ)
(……あっれぇ?このパーティってリーダーのハーレムパーティだって聞いてきたんですけどぉ?)
(…………へぇ?ソティンがそう言ったのかしら?)
(俺以外は全員女だから、全員俺の女だ!って言ってましたねぇ)
フェイルの美しい顔にピキピキと青筋が浮かぶ。どうやらハーレムパーティを達成したと思っていたのはソティンの身勝手な思い込みだったようだ。
(じゃ、アタシがカレ独占しちゃっていいって事ですよね?)
(好きにして頂戴。私には無関係だわ)
そうして彼女たちの密約は成立した。
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