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第五章【蛇王討伐】
5-52.信じがたい幕切れ【R15】
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【警告】
R15回です。
瀕死状態を生々しく描写するシーンが出てきます。苦手な人はご注意下さい。見たくない場合は読み飛ばして頂いても構いません。その場合、次回冒頭に「前回のあらすじ」を挟みますので、そちらをお読み下さい。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー
『⸺ふむ、そろそろか』
不意に、蛇王が動きを止めた。突然のことに、咄嗟にレギーナも追撃できずに距離を取り、警戒を高めるしかない。
一瞬、そう一瞬だけ蛇王と勇者が睨み合う。そして次の瞬間。
背を伸ばして直立した蛇王が両掌を広げ、頭上高く掲げた。
瘴気の魔物たちが一瞬にして全て消え、蛇王の全身が瘴気の黒い炎に包まれた。
『ぬはははは!来た、来たぞ!』
「なっ⸺!?」
『さあ余興はここまでである!勇者よ、うぬも我が瘴気の足しにしてくれるわ!』
そう吼えた次の瞬間、蛇王はレギーナの目の前まで迫っていた。彼女の胴体よりも太いその脚が、躱す間もなく彼女の腹部に叩き込まれた。
「ぉご、あ……!」
無造作に蹴り飛ばされた勇者の身体が吹っ飛び、地に叩きつけられ、二度三度とバウンドし、無様に転がる。
「くぅ……っ!」
それでも即座に身を起こしたレギーナの顔面に、今度は巨岩のごとき拳が真正面から振り抜かれた。
「が……は……!」
蒼いポニーテールを振り乱し、放物線を描いて宙を高く舞った細身の身体が、受け身も取れずに大地に墜落する。
「姫ちゃん!」
「ひめ!」
「レギーナさん!」
ミカエラ、クレア、アルベルトが反応できたのはようやくその時点になってからである。それほどまでに一瞬の出来事であり、何が起こったのかレギーナを含めて誰ひとりはっきりと自覚できぬほど。
『ぬははは!漲るではないか!』
二度もまともに痛撃を浴びたレギーナが、それでもなおヨロヨロと立ち上がる。それをのんびり眺めながら待つほどの余裕を見せる蛇王には、ここまで彼女たちが必死に蓄積させたダメージなど欠片も見当たらない。
「なん……なんが起こっとうと……?」
蛇王のスピードもパワーも、それまでとは比較にならなかった。なお立ち込める浄散霧の影響すら、今は微塵も感じられない。
呆然と呟くミカエラは、立っているのがやっとのレギーナに駆け寄りその盾になることさえできなかった。勇者が一瞬にしてボロボロにされたあの拳を、自分が受けて防ぎきれるとは到底思えなかった。
「もう無理だ、撤退しよう!」
「けど!」
アルベルトに言われるまでもない。だがすでに立っているのがやっとのレギーナが、まだ無傷の自分たちが、彼女の“開放”状態をも明らかに上回る蛇王のあのスピードから逃れられるとは思えない。
とはいえ、このままレギーナがなぶり殺しにされてしまえば、どのみち待つのは全滅の運命のみである。何か手を考えなければならないが⸺
だが、蛇王はそこまで悠長に待ってなどくれなかった。
「ま……まだ……」
『もう終わりだ、勇者よ!』
ボロボロになりながらも、それでもなおドゥリンダナを構えようとするレギーナに向かって、獰猛な嗤みを浮かべた蛇王が猛然と襲いかかった。
『死ねい!』
蛇王が突き出した左腕、貫手ではなく指を開いた左拳の、その五本の指の先端それぞれが黒く光ったのが見えた。
そうして放たれた黒い光線が、ほとんど棒立ちのレギーナの左肩、右胸、右上腕、右腰、左腿にそれぞれ突き刺さり貫いた。
張り直していたはずの[魔術防御]は、またしてもあっさりと砕けた。
「っぎゃあああああ!!」
勇者にあるまじき悲鳴を上げて、レギーナが壁際まで弾け飛ぶ。彼女の全身が壁面に激突し、その衝撃で壁面には蜘蛛の巣状に亀裂が走り、そして轟音と衝撃とともにレギーナもろとも崩落した。
「⸺ひっ」
息を呑むしかないミカエラの目の前で、崩落して砂煙を巻き上げる瓦礫に一瞬で到達した蛇王が、残虐な嗤みを浮かべながら巨岩のような拳を瓦礫に振り下ろした。
『ぬははははははは!!』
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
二度三度、ではない。文字通りの滅多打ち。一抱えも二抱えもある巨大な瓦礫の山が、蛇王の猛烈な連撃によってあっという間に粉々に砕かれてゆく。その下に巻き込まれた勇者もろとも。
「うそ……うそやん……」
あまりに急転直下の事態に、誰も動くことができなかった。そして今さらどう動こうとも、もはや勇者の生存は絶望的としか思えない。
蛇王がようやく、拳を打ち下ろすのをやめた。そして粉々に砕けた瓦礫の中に、無造作に手を突っ込んだ。
そうして掴み出されたのは、見るも無残に変わり果てた勇者の身体。
白銀に輝いていた真銀の鎧はボロボロに砕け、もはや原形を留めていなかった。[身体強化]や[物理障壁]を始めとして様々な魔術の術式を付与されていた特注品の鎧だったが、どう見ても完全に機能停止している。
彼女の全身はすでにどす黒い血にまみれ、ピクリとも動かない。その左腕などは打ち下ろされる拳から必死に頭部を庇ったのかすでに腕の形をしておらず、愛用の騎士服も革ズボンもズタズタで、その下の肌が見えるはずの部分にはおぞましく泡立つ赤黒い血しか見えなかった。
そんなレギーナの変わり果てた姿を、まだ比較的損傷の少ないその頭部を左拳で無造作に掴んで高く持ち上げ、ミカエラたちに敢えて見せつけた上で、勝ち誇ったように蛇王は残忍な嗤みを浮かべた。
『終わってみれば、なんとも呆気なかったのう』
勇者の無残な敗北。
その信じがたい、だが覆しようのない現実をまざまざと見せつけられて呆然と立ちすくんだまま、その場の誰ひとり、うめき声すら上げられなかった。
R15回です。
瀕死状態を生々しく描写するシーンが出てきます。苦手な人はご注意下さい。見たくない場合は読み飛ばして頂いても構いません。その場合、次回冒頭に「前回のあらすじ」を挟みますので、そちらをお読み下さい。
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『⸺ふむ、そろそろか』
不意に、蛇王が動きを止めた。突然のことに、咄嗟にレギーナも追撃できずに距離を取り、警戒を高めるしかない。
一瞬、そう一瞬だけ蛇王と勇者が睨み合う。そして次の瞬間。
背を伸ばして直立した蛇王が両掌を広げ、頭上高く掲げた。
瘴気の魔物たちが一瞬にして全て消え、蛇王の全身が瘴気の黒い炎に包まれた。
『ぬはははは!来た、来たぞ!』
「なっ⸺!?」
『さあ余興はここまでである!勇者よ、うぬも我が瘴気の足しにしてくれるわ!』
そう吼えた次の瞬間、蛇王はレギーナの目の前まで迫っていた。彼女の胴体よりも太いその脚が、躱す間もなく彼女の腹部に叩き込まれた。
「ぉご、あ……!」
無造作に蹴り飛ばされた勇者の身体が吹っ飛び、地に叩きつけられ、二度三度とバウンドし、無様に転がる。
「くぅ……っ!」
それでも即座に身を起こしたレギーナの顔面に、今度は巨岩のごとき拳が真正面から振り抜かれた。
「が……は……!」
蒼いポニーテールを振り乱し、放物線を描いて宙を高く舞った細身の身体が、受け身も取れずに大地に墜落する。
「姫ちゃん!」
「ひめ!」
「レギーナさん!」
ミカエラ、クレア、アルベルトが反応できたのはようやくその時点になってからである。それほどまでに一瞬の出来事であり、何が起こったのかレギーナを含めて誰ひとりはっきりと自覚できぬほど。
『ぬははは!漲るではないか!』
二度もまともに痛撃を浴びたレギーナが、それでもなおヨロヨロと立ち上がる。それをのんびり眺めながら待つほどの余裕を見せる蛇王には、ここまで彼女たちが必死に蓄積させたダメージなど欠片も見当たらない。
「なん……なんが起こっとうと……?」
蛇王のスピードもパワーも、それまでとは比較にならなかった。なお立ち込める浄散霧の影響すら、今は微塵も感じられない。
呆然と呟くミカエラは、立っているのがやっとのレギーナに駆け寄りその盾になることさえできなかった。勇者が一瞬にしてボロボロにされたあの拳を、自分が受けて防ぎきれるとは到底思えなかった。
「もう無理だ、撤退しよう!」
「けど!」
アルベルトに言われるまでもない。だがすでに立っているのがやっとのレギーナが、まだ無傷の自分たちが、彼女の“開放”状態をも明らかに上回る蛇王のあのスピードから逃れられるとは思えない。
とはいえ、このままレギーナがなぶり殺しにされてしまえば、どのみち待つのは全滅の運命のみである。何か手を考えなければならないが⸺
だが、蛇王はそこまで悠長に待ってなどくれなかった。
「ま……まだ……」
『もう終わりだ、勇者よ!』
ボロボロになりながらも、それでもなおドゥリンダナを構えようとするレギーナに向かって、獰猛な嗤みを浮かべた蛇王が猛然と襲いかかった。
『死ねい!』
蛇王が突き出した左腕、貫手ではなく指を開いた左拳の、その五本の指の先端それぞれが黒く光ったのが見えた。
そうして放たれた黒い光線が、ほとんど棒立ちのレギーナの左肩、右胸、右上腕、右腰、左腿にそれぞれ突き刺さり貫いた。
張り直していたはずの[魔術防御]は、またしてもあっさりと砕けた。
「っぎゃあああああ!!」
勇者にあるまじき悲鳴を上げて、レギーナが壁際まで弾け飛ぶ。彼女の全身が壁面に激突し、その衝撃で壁面には蜘蛛の巣状に亀裂が走り、そして轟音と衝撃とともにレギーナもろとも崩落した。
「⸺ひっ」
息を呑むしかないミカエラの目の前で、崩落して砂煙を巻き上げる瓦礫に一瞬で到達した蛇王が、残虐な嗤みを浮かべながら巨岩のような拳を瓦礫に振り下ろした。
『ぬははははははは!!』
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
二度三度、ではない。文字通りの滅多打ち。一抱えも二抱えもある巨大な瓦礫の山が、蛇王の猛烈な連撃によってあっという間に粉々に砕かれてゆく。その下に巻き込まれた勇者もろとも。
「うそ……うそやん……」
あまりに急転直下の事態に、誰も動くことができなかった。そして今さらどう動こうとも、もはや勇者の生存は絶望的としか思えない。
蛇王がようやく、拳を打ち下ろすのをやめた。そして粉々に砕けた瓦礫の中に、無造作に手を突っ込んだ。
そうして掴み出されたのは、見るも無残に変わり果てた勇者の身体。
白銀に輝いていた真銀の鎧はボロボロに砕け、もはや原形を留めていなかった。[身体強化]や[物理障壁]を始めとして様々な魔術の術式を付与されていた特注品の鎧だったが、どう見ても完全に機能停止している。
彼女の全身はすでにどす黒い血にまみれ、ピクリとも動かない。その左腕などは打ち下ろされる拳から必死に頭部を庇ったのかすでに腕の形をしておらず、愛用の騎士服も革ズボンもズタズタで、その下の肌が見えるはずの部分にはおぞましく泡立つ赤黒い血しか見えなかった。
そんなレギーナの変わり果てた姿を、まだ比較的損傷の少ないその頭部を左拳で無造作に掴んで高く持ち上げ、ミカエラたちに敢えて見せつけた上で、勝ち誇ったように蛇王は残忍な嗤みを浮かべた。
『終わってみれば、なんとも呆気なかったのう』
勇者の無残な敗北。
その信じがたい、だが覆しようのない現実をまざまざと見せつけられて呆然と立ちすくんだまま、その場の誰ひとり、うめき声すら上げられなかった。
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