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第三章【イリュリア事変】

3-28.事の顛末(1)

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 翌日、昼食のあと、サロンのように使われている談話室に主だった関係者が集められ、それ以外の人払いをされた上で、王の口から顛末の全てが語られた。


 全ては第三王子ティグランを担ごうと形成されつつあった“第三王子派”の画策したことであったという。それも動いたのは大別して三派あるのだそうだ。
 まず最初に動いたのは王太子の一派だ。これは厳密には第三王子派ではないものの、第三王子を自派に取り込もうとして行動を起こした。あの夜、王太子はティグランと内密に話し合おうと配下の白騎士たちを派遣し、ティグランはそれに応じて自分の護衛の白騎士たちと、自分の住まいである南宮から王太子の住まう東宮に移動を開始した。
 そこへ襲撃をかけたのが第三王子を利用しようとする一派。これは王子たちの思惑など無視して自分たちの利権を得るためだけに暗躍していた者たちで、あの夜にティグランを追ってアルベルトに撒かれた雇われ者たちはこの一派に雇われた冒険者たちだった。それも地元のではなく流れの者たちを使っていて、足が付かないように巧妙に仕組まれていた。
 だが彼らは、王太子と第三王子の護衛の白騎士たちを数の力で退けたものの、肝心の第三王子に逃げられ蒼薔薇騎士団に押さえられてしまう。そこにチャンスとばかり出てきたのが最後の一派だ。これは盗賊シーフギルドが中心になった地下組織の集団で、自分たちの将来の栄華のために第三王子を傀儡にしようと目論んでいたらしい。今のうちに第三王子と繋がりを得て、王子が次期国王になれれば自分たちも利権にあずかれると、そう目論んだわけだ。

 だがそこへ絡んだのが貴族たちである。急進派の筆頭が宰相アルツール・アドイアンで、彼は表向きは王太子派だったが王太子のやり方を手緩いと感じていて、積極的に第三王子を“排除”する機会を伺っていたのだ。
 王太子が動いたタイミングに急進派が合わせたのは、そのタイミングでなら王太子がのだと誤解させることができるからだ。そうなれば王太子も、自らの関与を疑われることを避けるために口を噤むしかなくなる。そうして王太子に秘密を共有させ、ゆくゆくはそれを脅しのネタに傀儡にする目算もあったらしい。

 そしてもうひとつ、軍務大臣エフゲニー・カスパロフの革命派である。彼らはもともと盗賊ギルドと癒着していて、自分たちの保身と利権確保のため第三王子を傀儡に仕立てて国を乗っ取ろうと画策していたのだという。彼らはまず騎士団長アルティン・エルバサンを抱き込み機を伺っていたが、混乱に乗じて盗賊ギルドの手練たちを動かし、封魔の鈴鐘までも起動することで蒼薔薇騎士団さえも一度は出し抜くことに成功する。
 だがここで致命的なミス、すなわち第三王子ティグランとクレアの取り違えが発生する。しかし実行犯のリーダーを務めた騎士団長の独断で、盗賊ギルドの一員であるエンヴィルが提案した催眠暗示をクレアに施したのだ。
 結果、霊力が涸渇した状態のクレアはあっさりと術に落ち、それ以降エンヴィルを“おとうさん”だと思い込んでその指示に従うようになる。そして“おとうさん”を守るため、拠点を襲撃してきた“敵”であるレギーナたちと戦うことになってしまったわけだ。


 なお騎士団長は騎士団内で急進派に連なる副団長の一派に押されていて、その地位が危うくなりつつあったらしい。軍務大臣の誘いに乗ったのは、その自分の地位を確固たるものにしたいという思惑もあってのことだったようだ。
 ちなみに彼は霊力が2しかなく、それで襲撃グループを自ら率いても実害はさほど受けなかったし、あの時ひとりだけ生き残ったのも唯一[魔術防御バリア]を展開できたからである。ただ霊力の少なさが立場の弱さに直結していたことも事実で、結局のところ、運命に振り回されたひとりではあるのだろう。まあだからといって、それで彼の罪と責任が消えてなくなるわけではないが。

「すでに宰相、軍務大臣、騎士団長の3名は捕らえてある。これからさらに背後関係を精査し、他国の干渉がないかなど詳しく調べることになるじゃろう」

 苦渋に満ちた表情で、ジェルジュ王はレギーナたちにそう告げた。今回の騒動はイリシャ国内でも厳しく追及されるはずで、おそらく王は譲位させられることになるだろう。

 まあもっとも、騎士団長は自分の独断がまさか蒼薔薇騎士団のメンバー同士の殺し合いにまで発展してしまうことになるとは思っていなかったようだ。勇者パーティの魔術師と法術師が争い、しかも片方が殺されてしまった(ように見えた)のだから、事はイリュリア国内の問題のみならず世界の平和を揺るがす重大事だ。結果、そこまでの事態に陥ってしまったことで彼は心身の平衡を崩してしまった。
 王室親衛隊が下水通路の奥のアジトに突入してきた時にはもう彼は廃人のようになってしまっていて、以後の取り調べもろくにできない状態なのだという。


 ちなみに、あの時クレアが放った[業炎]に灼かれた盗賊ギルドの面々は、エンヴィルをはじめ全員が死亡した。もともとが封魔の鈴鐘を襲撃するに当たって選抜された霊力なしのメンバーで、クレアの魔術を防ぐ手段など誰も持っていなかったのだ。それでもあの場でミカエラが[治癒]を施していれば何人かは救えたかも知れないが、暗示をかけて味方にしたはずのクレアがそれを阻止したのだから、ある意味で自業自得であった。
 そういう意味では、ミカエラがあれほど執心した『クレアに人を殺させない』は残念ながら叶わなかったことになるのだが、ミカエラが目指したのはクレアにそれを自覚させないことだったので、まあグレーゾーンだろうか。





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