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第二章後半【いざ東方へ】
2-29.海と波と真珠と勇者(2)
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アルベルトとクレアが甲板に上がってきた時にはもうレギーナも甲板に戻って来ていて、母親と思しき女性が男の子をキツく抱き締めていた。
「ありがとうございます、ありがとうございます!本当に何と御礼を申し上げてよいやら…」
涙声で母親がレギーナとミカエラに礼を言う。だがそれに対して冷淡にもレギーナは言い放ったのだ。
「最初に言うのは御礼じゃないでしょ」
「…えっ?」
「最初に言わなきゃいけないのは『ごめんなさい』でしょ、その子に!」
ポカンとする母親にレギーナはさらに畳み掛ける。
「だいたい、そんな小さな子がなんで海に落ちるのよ!?こんなに高い柵があるのに、船が揺れたわけでもないのに、どうして落ちたの!?」
確かに言われてみればその通りである。窓の空いている上層も壁のない甲板も、成人女性として平均的な身長のレギーナの肩口まである高い転落防止柵が立っている。それも隙間から子供が落ちたりすることのないよう、その柵は支柱の間隔をびっしり詰めて設置されていて、大人の腕がようやく入る程度の隙間しかないのだ。
「その子が落ちたってことは、貴女が抱え上げていたって事じゃない!転落に注意しろって船内放送があったばかりで、どうしてそんな危ない事したのよ!?」
レギーナの言うとおりであった。男の子にも遊覧船にもなんの非もなく、全ては母親のせいなのだ。彼女がそんな不注意をしなければ子供は危ない目に遭うこともなかったし、レギーナが濡れたりブラウスを破かれることもなかったのだ。
「あ…あ…も、申しわけ…」
「だから私にじゃなくて、その子に謝りなさいってば!」
顔面蒼白になって謝ろうとする母親に、間髪入れずにレギーナの追撃が決まり、助けを求めるかのように目線を泳がせた母親は腕の中の我が子を視界に捉えた。
男の子は取り乱す母親と怒るレギーナの様子に驚いたようで、泣いていたのもやめてポカンとしている。
母親は震える腕でもう一度、その子を抱き締めた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!お母さんが悪かったわ…!」
「う…おかあ…しゃ…!」
再び泣き出した母親につられたように子供もまた泣き始め、それでようやく満足したようにレギーナはふたりの傍をそっと離れた。
「姫ちゃんカッコ良かあ」
レギーナにスッと寄って行って、ミカエラが茶化すように言葉をかける。
「別に普通でしょ、誰だってああ言うわよ」
レギーナはそう言うが、誰にでも言えるような事ではない。むしろ大半の人はトラブルに対処し解決した自分の功績を誇るか、ことさらに誇りはせずとも謝礼を辞するものではないだろう。そういう意味でレギーナの態度はいっそ例外的ですらある。
そのあたり、さすがは勇者と言うべきであった。
「いやいや、誰にでも真似できるような事じゃないよ。むしろ謝礼を要求して当然の立場なんだから」
「謝礼?頼まれたわけでもないのに出しゃばって?なんかそれってすごい押し付けがましくない?」
同じくレギーナの側にやってきたアルベルトの言葉に本気で引いているところを見ると、本気でレギーナはあり得ないと思っているようだ。というかむしろ『この男は人助けしたら恩着せがましく謝礼を要求するのか』と軽蔑の視線でアルベルトを見ていた。
「いやまあ、一般的にはおいちゃんの言う通りばってんね?普通は人助けの労力に対する対価ばもろうて当然なんやけん、そげん軽蔑してやらんどきーよ」
「そういうもの、なの?」
「そうばい。特に今回やら人命救助やけんね、一生恩に着せたっちゃおかしくなかとよ?やけんこん人も姫ちゃんの行いば『なかなかできる事やない』って褒めよっとやけん、機嫌直しちゃり」
「…そういうもの、なんだ」
苦笑しつつミカエラが助け舟を出し、それでようやくレギーナも納得したようであった。
「ありがとうございます、ありがとうございます!本当に何と御礼を申し上げてよいやら…」
涙声で母親がレギーナとミカエラに礼を言う。だがそれに対して冷淡にもレギーナは言い放ったのだ。
「最初に言うのは御礼じゃないでしょ」
「…えっ?」
「最初に言わなきゃいけないのは『ごめんなさい』でしょ、その子に!」
ポカンとする母親にレギーナはさらに畳み掛ける。
「だいたい、そんな小さな子がなんで海に落ちるのよ!?こんなに高い柵があるのに、船が揺れたわけでもないのに、どうして落ちたの!?」
確かに言われてみればその通りである。窓の空いている上層も壁のない甲板も、成人女性として平均的な身長のレギーナの肩口まである高い転落防止柵が立っている。それも隙間から子供が落ちたりすることのないよう、その柵は支柱の間隔をびっしり詰めて設置されていて、大人の腕がようやく入る程度の隙間しかないのだ。
「その子が落ちたってことは、貴女が抱え上げていたって事じゃない!転落に注意しろって船内放送があったばかりで、どうしてそんな危ない事したのよ!?」
レギーナの言うとおりであった。男の子にも遊覧船にもなんの非もなく、全ては母親のせいなのだ。彼女がそんな不注意をしなければ子供は危ない目に遭うこともなかったし、レギーナが濡れたりブラウスを破かれることもなかったのだ。
「あ…あ…も、申しわけ…」
「だから私にじゃなくて、その子に謝りなさいってば!」
顔面蒼白になって謝ろうとする母親に、間髪入れずにレギーナの追撃が決まり、助けを求めるかのように目線を泳がせた母親は腕の中の我が子を視界に捉えた。
男の子は取り乱す母親と怒るレギーナの様子に驚いたようで、泣いていたのもやめてポカンとしている。
母親は震える腕でもう一度、その子を抱き締めた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!お母さんが悪かったわ…!」
「う…おかあ…しゃ…!」
再び泣き出した母親につられたように子供もまた泣き始め、それでようやく満足したようにレギーナはふたりの傍をそっと離れた。
「姫ちゃんカッコ良かあ」
レギーナにスッと寄って行って、ミカエラが茶化すように言葉をかける。
「別に普通でしょ、誰だってああ言うわよ」
レギーナはそう言うが、誰にでも言えるような事ではない。むしろ大半の人はトラブルに対処し解決した自分の功績を誇るか、ことさらに誇りはせずとも謝礼を辞するものではないだろう。そういう意味でレギーナの態度はいっそ例外的ですらある。
そのあたり、さすがは勇者と言うべきであった。
「いやいや、誰にでも真似できるような事じゃないよ。むしろ謝礼を要求して当然の立場なんだから」
「謝礼?頼まれたわけでもないのに出しゃばって?なんかそれってすごい押し付けがましくない?」
同じくレギーナの側にやってきたアルベルトの言葉に本気で引いているところを見ると、本気でレギーナはあり得ないと思っているようだ。というかむしろ『この男は人助けしたら恩着せがましく謝礼を要求するのか』と軽蔑の視線でアルベルトを見ていた。
「いやまあ、一般的にはおいちゃんの言う通りばってんね?普通は人助けの労力に対する対価ばもろうて当然なんやけん、そげん軽蔑してやらんどきーよ」
「そういうもの、なの?」
「そうばい。特に今回やら人命救助やけんね、一生恩に着せたっちゃおかしくなかとよ?やけんこん人も姫ちゃんの行いば『なかなかできる事やない』って褒めよっとやけん、機嫌直しちゃり」
「…そういうもの、なんだ」
苦笑しつつミカエラが助け舟を出し、それでようやくレギーナも納得したようであった。
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