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第二章前半【いざ東方へ】

2-10.悪魔の料理

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 昼食にアルベルトが作って出したのは、炊いた白米リゾに何やら具材の沢山入った茶色い液体をかけたものだった。ひと口大にカットされた人参キャロタ岩芋ポタタ玉葱ウニオン、それに斑牛ボースの肉も入っている。香りが強く、どうやら香辛料など色々煮溶けているようで鼻腔を刺激する。
 ただ、どうにも色が食欲をそそらない。匂いはとても美味しそうなのだが。

「これなに?食べられるの?」
「食べられない匂いはしないわね」
「なんこれ、また東方の料理なん?」
「辛そう…」

 またしても初めて見る料理に思い思いの反応をする蒼薔薇騎士団の面々。

「これは『カリー』っていう東方の料理だよ。香辛料さえ何とかなればあとは簡単に作れて美味しいから、手に入った時はよく作るんだ」

(やっぱり東方の料理だったのね)
(見た目はアレだけど、アルベルトこの人の作る料理だし)
(まあ匂いは旨そうばってん。食べてみらんことには何とも)
(辛そう…)

「うん、みんな何考えてるか丸分かりだけどね?」

「まあいいわ、とりあえず食べましょ!」

 空腹に耐えかねたレギーナがそう言って、それで各々匙を手に取る。

「あ、ちょっと辛いかもしれないから…」

 思い出したようにアルベルトが言いかけたが、間に合わなかった。

「かっっら!何これ!?」
「なんなんこれ香辛料何入っとるん!?」
「お水、お水を頂戴!」
「くち…痛い…!」

 途端に阿鼻叫喚のるつぼと化した車内。うっかり自分用の辛めの味付けにしてしまったアルベルトのせいで、4人の美女があられもなく悶絶している。

「あああみんな申し訳ない。ほら、みんなこれ飲んで」

 アルベルトが慌てて冷蔵器から白い液体の入った瓶を出してきてグラスに注いで全員に渡す。みんなそれを一気に飲み干して、それでようやく惨事は収まったようだ。

「辛いなら辛いって先に言ってよね!」
「ほんなこっちゃん。喉の灼けるかて思うたやんか!」
「おくち…いたい…」

「…あら。でも後から旨味が出てくるわね、これ」

 怒りの醒めやらぬクレームの嵐の中、最初にヴィオレが気付く。

「…あら?言われてみれば…」
「ほんなこっちゃん。辛いばってん、なんかもう一口欲しなるほしくなるごたるみたい
「いたい…けど食べる…」

「うっかりいつもの自分用の味付けにしてしまって本当に申し訳ない。斑牛の乳ミルクを飲みながら少しずつ食べるといいよ。
あと白米リゾを多めにして、食べるひと口分だけルーと混ぜて食べると辛味が抑えられるから」

 アルベルトは詫びつつ、空になった全員のグラスに二杯目を注いで回る。確かにミルクを飲みながらだとなぜか辛味が抑えられるようだ。それに言われたとおりに白米と食べると、白米の甘みでも辛味が程よく中和されていく。

「ミルクって普通は寒季ふゆに温めたのを飲むものだと思ってたけど…」
「冷やしても…美味しい…」
「ちゅうか、なしなんでミルクで辛味が抑えられるとやろか」
「まあそれは俺もよく分かんないけど」

 などと話しているうちに『カリー』はみるみる減っていく。みんな辛味に汗を流しつつ、それでも匙が止まらなくなっているようだ。

「ていうかこれ…」
「よう分からんけど…」
「止まらなくなるわね…」
「おかわり…」

 クレアの一言にさすがに全員が彼女を見る。なんと普段少食の彼女が完食した上で木皿をアルベルトに差し出していた。

「…ウチも、もう一杯欲しかけど」
「そうねえ、まだあるのなら」
「…わ、私も」

 そして結局、全員が木皿を差し出した。
 アルベルトは笑いつつ、次は半分ほどの少なめによそっておかわりを注いであげた。そこまで完食して、ようやくみんな満足したようだ。

「これ、ヤバいわね…」
「ダイエットの敵やん…」
「気を付けないとダメね…」
「げぷ…」

 こうして『カリー』は蒼薔薇騎士団の中では「悪魔の料理」と呼ばれるようになった。
 なお後年、この料理がアルヴァイオン大公国で空前の大ブームになって国民食とまで言われるようになることを、この時点ではこの5人はまだ知る由もない。



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