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41話 Cecil
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七海さんの話を聞いて、僕の頭の中を色々な考えが巡っていた。
七海さんのおじいさんが話した彼奴とは誰なんだろうか。
そこで交わされた約束とは何だろうか。
映画の内容を知るには、一体どうすれば良いだろうか。
しかし、僕の一番の悩み事は桃恵先生の事だった。
今は考えない様にしようと思えば思う程、その事が頭を離れようとはしなかった。
桃恵先生が僕達を騙している訳が無い。
やはり、疑う様な真似は初めからするべきじゃないだろうか。
そうこう考えていると、突然背後からひんやりとした手が僕の首筋に触れた。
「あら?セシル君。こんな所に居たのね。」
僕は恐る恐る後ろを振り返った。
次の瞬間、驚きの余り心臓の鼓動が止まりそうになった。
何と、振り向いた先には桃恵先生の姿があったのだ。
桃恵先生は僕を見て不敵な笑みを浮かべていた。
「ど・・・どうして、桃恵先生がここへ?」
「何言ってんのセシル君。映画の製作会社に陽菜さんが居なかったから、もしかしてと思ってこっちに来たのよ。
私の顔を見るなり、そんなに驚いてどうしちゃったの?」
僕は必死に平静を装うとしていたが、それは最早や手遅れだった。
陽菜さんと七海さんに目を遣ると、二人共顔を引きつらせ、小さく震えていた。
「陽菜さんも七海さんも、そんな顔してどうしたの?」
早く何か話さなくては、警戒している事を感付かれるかもしれない。
しかし、頭の中では分かっていても、口の中が渇き、次の言葉が出て来ない。
「三人共そんなに黙っちゃってどうしたの?」
僕は必死に声を振り絞って桃恵先生に尋ねた。
「先生は、どこまで知ってるんですか?」
桃恵先生が不意に七海さんの方に視線を移した。
「そっかぁ。七海さんが居るって事は、やっぱりあの時見られてたのね。」
「先生は僕達の敵なんですか?味方なんですか?」
「そう言われると難しいわね。敵になるかもしれないし、味方になるかもしれない。
今はどちらでも無いって言っておこうかしら。」
「そんなぁ・・・」
僕はその言葉を聞いて激しく落胆した。
桃恵先生には、はっきりと味方だと言って欲しかった。
この世界に来て、不安で一杯だった僕に対して、相談に乗ってくれたり、いつも優しくしてくれた桃恵先生を疑う事などしたく無かった。
「セシル君。今となっては何を言っても信じて貰えないかもしれないけど・・・
でも、これだけは分かってて欲しい。
彼方が初めて私を訪ねて来てくれた時、今にも不安に圧し潰されそうな姿を見て、とても他人事とは思えなかった。
私に出来る事であれば何でも力になりたいと、本気でそう思ってたのよ。」
「うぅぅぅ・・・。今更そんな事言われても。僕にはどうして良いか分かりません・・・・」
僕は溢れる涙を抑える事が出来なかった。
桃恵先生が敵かもしれないと言うショックよりも、素性の知れない僕の事を、いつも気に掛けてくれていたその優しさが、全部嘘では無かった事が堪らなく嬉しかった。
今の僕にはその言葉だけでも十分だった。
「"ANOTHER WORLD STORIES"については実は私もよく知らないの。
私が知っているのは、ほんの些細な事だけ。
あの日、教室にゲートが出現するのに立ち会えたのも、ある機関の研究の結果のお陰。
ゲートの研究はこの世界で、かなり前から秘密裏に行われているのよ。
そして、ゲートが出現すると思われる候補地の中で、一番有力だったのがこの学校。
だけど、いつゲートが出現するかまでは分からなかった。
そこで私は教師になって、ここで教鞭を振るう事を決めたの。
あの日、私が研究機関の友人から時空の歪みに関しての連絡を受けたのは、ゲートが出現する数分前の事だった。
ゲートからは何が飛び出すか分からない。
だから私はあの時、もしもの時を考えて、とある装置を使って、霊体となって身を潜めていたの。」
「それならそうと、どうして僕達にその事を言ってくれなかったんですか?」
「それは、あなたがこの研究機関に近付くのを避けたかったから。
もし、彼等があなたの存在を知ったら、只では済まないと思うわ。
だけど安心して。私の友人がデータを改竄して、この学校をゲートの候補地から消してたから、あなたの事は機関には、まだ知られて無いと思うわ。」
「そうやって、僕の知らない所で、桃恵先生は僕を守ってくれていたんですね。
もしその事が彼等に知られたら、協力したお友達や桃恵先生の身にも危険が及ぶんじゃないですか?
それに、どうて桃恵先生はこんな危険を冒してまで、ゲートを追っていたんですか?」
「それはね。私には、どんな犠牲を払ってでも、もう一度会いたい人が居るから・・・」
七海さんのおじいさんが話した彼奴とは誰なんだろうか。
そこで交わされた約束とは何だろうか。
映画の内容を知るには、一体どうすれば良いだろうか。
しかし、僕の一番の悩み事は桃恵先生の事だった。
今は考えない様にしようと思えば思う程、その事が頭を離れようとはしなかった。
桃恵先生が僕達を騙している訳が無い。
やはり、疑う様な真似は初めからするべきじゃないだろうか。
そうこう考えていると、突然背後からひんやりとした手が僕の首筋に触れた。
「あら?セシル君。こんな所に居たのね。」
僕は恐る恐る後ろを振り返った。
次の瞬間、驚きの余り心臓の鼓動が止まりそうになった。
何と、振り向いた先には桃恵先生の姿があったのだ。
桃恵先生は僕を見て不敵な笑みを浮かべていた。
「ど・・・どうして、桃恵先生がここへ?」
「何言ってんのセシル君。映画の製作会社に陽菜さんが居なかったから、もしかしてと思ってこっちに来たのよ。
私の顔を見るなり、そんなに驚いてどうしちゃったの?」
僕は必死に平静を装うとしていたが、それは最早や手遅れだった。
陽菜さんと七海さんに目を遣ると、二人共顔を引きつらせ、小さく震えていた。
「陽菜さんも七海さんも、そんな顔してどうしたの?」
早く何か話さなくては、警戒している事を感付かれるかもしれない。
しかし、頭の中では分かっていても、口の中が渇き、次の言葉が出て来ない。
「三人共そんなに黙っちゃってどうしたの?」
僕は必死に声を振り絞って桃恵先生に尋ねた。
「先生は、どこまで知ってるんですか?」
桃恵先生が不意に七海さんの方に視線を移した。
「そっかぁ。七海さんが居るって事は、やっぱりあの時見られてたのね。」
「先生は僕達の敵なんですか?味方なんですか?」
「そう言われると難しいわね。敵になるかもしれないし、味方になるかもしれない。
今はどちらでも無いって言っておこうかしら。」
「そんなぁ・・・」
僕はその言葉を聞いて激しく落胆した。
桃恵先生には、はっきりと味方だと言って欲しかった。
この世界に来て、不安で一杯だった僕に対して、相談に乗ってくれたり、いつも優しくしてくれた桃恵先生を疑う事などしたく無かった。
「セシル君。今となっては何を言っても信じて貰えないかもしれないけど・・・
でも、これだけは分かってて欲しい。
彼方が初めて私を訪ねて来てくれた時、今にも不安に圧し潰されそうな姿を見て、とても他人事とは思えなかった。
私に出来る事であれば何でも力になりたいと、本気でそう思ってたのよ。」
「うぅぅぅ・・・。今更そんな事言われても。僕にはどうして良いか分かりません・・・・」
僕は溢れる涙を抑える事が出来なかった。
桃恵先生が敵かもしれないと言うショックよりも、素性の知れない僕の事を、いつも気に掛けてくれていたその優しさが、全部嘘では無かった事が堪らなく嬉しかった。
今の僕にはその言葉だけでも十分だった。
「"ANOTHER WORLD STORIES"については実は私もよく知らないの。
私が知っているのは、ほんの些細な事だけ。
あの日、教室にゲートが出現するのに立ち会えたのも、ある機関の研究の結果のお陰。
ゲートの研究はこの世界で、かなり前から秘密裏に行われているのよ。
そして、ゲートが出現すると思われる候補地の中で、一番有力だったのがこの学校。
だけど、いつゲートが出現するかまでは分からなかった。
そこで私は教師になって、ここで教鞭を振るう事を決めたの。
あの日、私が研究機関の友人から時空の歪みに関しての連絡を受けたのは、ゲートが出現する数分前の事だった。
ゲートからは何が飛び出すか分からない。
だから私はあの時、もしもの時を考えて、とある装置を使って、霊体となって身を潜めていたの。」
「それならそうと、どうして僕達にその事を言ってくれなかったんですか?」
「それは、あなたがこの研究機関に近付くのを避けたかったから。
もし、彼等があなたの存在を知ったら、只では済まないと思うわ。
だけど安心して。私の友人がデータを改竄して、この学校をゲートの候補地から消してたから、あなたの事は機関には、まだ知られて無いと思うわ。」
「そうやって、僕の知らない所で、桃恵先生は僕を守ってくれていたんですね。
もしその事が彼等に知られたら、協力したお友達や桃恵先生の身にも危険が及ぶんじゃないですか?
それに、どうて桃恵先生はこんな危険を冒してまで、ゲートを追っていたんですか?」
「それはね。私には、どんな犠牲を払ってでも、もう一度会いたい人が居るから・・・」
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