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第一章

流されやすい似たもの同士

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「お前も来るんだよ」

「は?そんな話聞いてないぞ? 何しに行くんだよ!」

 シキヤを安定させ、自分の仕事は終わったとくつろごうとしているハイドに向かって、デクスは無慈悲な言葉を投げかけた。
 区画のトップたる聖王に謁見するってことは、それだけの覚悟と責任が伴う。にもかかわらず、一介の闇医者を連れて行くってのはどういう要件なんだ? と慌てるハイドを助けてくれるものは誰もいなかった。

「仕方ないんだよ。お前が彼女を見てなきゃ誰が見るんだ。それにやけにお前を信頼してるみたいだしな。一緒にいるってだけで安定するだろ。何度も言うが、失敗できない任務なんだ。ただ付いてくるだけでいいからよ」

「こんな正装にさせられた時点でうすうす気づいてはいたがな…… 儀式みたいなの全然わからないぞ? 何かあってもお前が全部責任持てよな」

「心配するな。俺に合わせてお辞儀だけすればいい。それと、今のうちに彼女に一言安心させる言葉掛けておけ。もう帰るまで話すことはないからな」

 しぶしぶ了承というか、逃げられない状況に観念したハイドは、奥の部屋で衣装直しをしているシキヤの元へ向かった。

「只今シキヤ様はお召し替えの最中でございます。もうしばらくお時間が掛かりますので、そちらでおくつろぎください」

 ドアの入り口に立つ屈強な男にそう止められ、ハイドは少し離れたソファのところにドッと座り込んだ。傍らにあるモニタには、今日シキヤが取材する予定だった祭りの様な場所の映像が流れている。まったく興味のないハイドは、シキヤの持ってきていたモニタグラスをかけ、なにやらニヤニヤしながら時を待つことにした。


「キヤちゃん、意外とそんな衣装も似合うんだね。かわいいなあ」

 何重にも重ねられた豪華な刺繍の入った着物のような衣装をずっしりと着せ替えられているシキヤの顔は、なぜ自分だけ……と戸惑いの表情を隠せない様だった。

「シキヤ、いい? セリフは覚えたね。その一言だけでいいから。あと聴衆もいないし、とにかく落ち着いて。こっちはお客さんなんだから堂々としてればいいのよ。大丈夫だから!」

 ラキヤスは、先輩らしく気丈に振る舞っているつもりだったが、明らかに動揺が隠せずに、さらにシキヤを不安にさせた。

「なんだか先輩の方が心配になってきましたよ…… でももう大丈夫ですから。こんな大きな区画の聖王陛下にお逢いできるのは光栄ですしね。それに宮殿には興味ありましたし。出来ればみんなにも見せたかったなあ」

 本当はなぜ自分だけがこんな豪華な衣装を着ないといけないのかを問いただしたいところだったが、状況的に身を委ねるのが最善であると察し、とにかく今は心を落ち着けて仕事を全うすることだけを考えていた。
 そんなシキヤの気持ちを知ってか知らずか、見事なお手並みで衣装を着せていく二人のメイドが、シキヤ前に並び、深々とお辞儀をして扉を挟む様に並んだ。

「それでは、こちらへ」

 開いた扉に向かって、3人は歩き出す。


「なんだその格好? どこのお姫様だよ」

 バカっぽい感想を人目もはばからず口にしたハイドを見つけたシキヤは、少し照れながら体に重くのしかかる衣装を引きずるように彼の元に近寄っていこうとするが、すぐにメイドに制止させられていた。
 それを見たハイドは、まじまじとその豪華な衣装を眺めながらシキヤの側にたどり着くと、耳元で軽く囁いた。

「俺も一緒に行くことになった。宮殿とやらに行くのは俺もちょっとたのしみだ。せっかくだからお前もたのしめな。それと、すげー似合ってるぜ」

 ラキヤスとラナデシに軽く会釈して、慣れない正装のポケットに手を突っ込んだまま奥の部屋に去っていくハイドを見て、シキヤは覚悟を決めることにした。
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