29 / 37
第一章
流されやすい似たもの同士
しおりを挟む
「お前も来るんだよ」
「は?そんな話聞いてないぞ? 何しに行くんだよ!」
シキヤを安定させ、自分の仕事は終わったとくつろごうとしているハイドに向かって、デクスは無慈悲な言葉を投げかけた。
区画のトップたる聖王に謁見するってことは、それだけの覚悟と責任が伴う。にもかかわらず、一介の闇医者を連れて行くってのはどういう要件なんだ? と慌てるハイドを助けてくれるものは誰もいなかった。
「仕方ないんだよ。お前が彼女を見てなきゃ誰が見るんだ。それにやけにお前を信頼してるみたいだしな。一緒にいるってだけで安定するだろ。何度も言うが、失敗できない任務なんだ。ただ付いてくるだけでいいからよ」
「こんな正装にさせられた時点でうすうす気づいてはいたがな…… 儀式みたいなの全然わからないぞ? 何かあってもお前が全部責任持てよな」
「心配するな。俺に合わせてお辞儀だけすればいい。それと、今のうちに彼女に一言安心させる言葉掛けておけ。もう帰るまで話すことはないからな」
しぶしぶ了承というか、逃げられない状況に観念したハイドは、奥の部屋で衣装直しをしているシキヤの元へ向かった。
「只今シキヤ様はお召し替えの最中でございます。もうしばらくお時間が掛かりますので、そちらでおくつろぎください」
ドアの入り口に立つ屈強な男にそう止められ、ハイドは少し離れたソファのところにドッと座り込んだ。傍らにあるモニタには、今日シキヤが取材する予定だった祭りの様な場所の映像が流れている。まったく興味のないハイドは、シキヤの持ってきていたモニタグラスをかけ、なにやらニヤニヤしながら時を待つことにした。
「キヤちゃん、意外とそんな衣装も似合うんだね。かわいいなあ」
何重にも重ねられた豪華な刺繍の入った着物のような衣装をずっしりと着せ替えられているシキヤの顔は、なぜ自分だけ……と戸惑いの表情を隠せない様だった。
「シキヤ、いい? セリフは覚えたね。その一言だけでいいから。あと聴衆もいないし、とにかく落ち着いて。こっちはお客さんなんだから堂々としてればいいのよ。大丈夫だから!」
ラキヤスは、先輩らしく気丈に振る舞っているつもりだったが、明らかに動揺が隠せずに、さらにシキヤを不安にさせた。
「なんだか先輩の方が心配になってきましたよ…… でももう大丈夫ですから。こんな大きな区画の聖王陛下にお逢いできるのは光栄ですしね。それに宮殿には興味ありましたし。出来ればみんなにも見せたかったなあ」
本当はなぜ自分だけがこんな豪華な衣装を着ないといけないのかを問いただしたいところだったが、状況的に身を委ねるのが最善であると察し、とにかく今は心を落ち着けて仕事を全うすることだけを考えていた。
そんなシキヤの気持ちを知ってか知らずか、見事なお手並みで衣装を着せていく二人のメイドが、シキヤ前に並び、深々とお辞儀をして扉を挟む様に並んだ。
「それでは、こちらへ」
開いた扉に向かって、3人は歩き出す。
「なんだその格好? どこのお姫様だよ」
バカっぽい感想を人目もはばからず口にしたハイドを見つけたシキヤは、少し照れながら体に重くのしかかる衣装を引きずるように彼の元に近寄っていこうとするが、すぐにメイドに制止させられていた。
それを見たハイドは、まじまじとその豪華な衣装を眺めながらシキヤの側にたどり着くと、耳元で軽く囁いた。
「俺も一緒に行くことになった。宮殿とやらに行くのは俺もちょっとたのしみだ。せっかくだからお前もたのしめな。それと、すげー似合ってるぜ」
ラキヤスとラナデシに軽く会釈して、慣れない正装のポケットに手を突っ込んだまま奥の部屋に去っていくハイドを見て、シキヤは覚悟を決めることにした。
「は?そんな話聞いてないぞ? 何しに行くんだよ!」
シキヤを安定させ、自分の仕事は終わったとくつろごうとしているハイドに向かって、デクスは無慈悲な言葉を投げかけた。
区画のトップたる聖王に謁見するってことは、それだけの覚悟と責任が伴う。にもかかわらず、一介の闇医者を連れて行くってのはどういう要件なんだ? と慌てるハイドを助けてくれるものは誰もいなかった。
「仕方ないんだよ。お前が彼女を見てなきゃ誰が見るんだ。それにやけにお前を信頼してるみたいだしな。一緒にいるってだけで安定するだろ。何度も言うが、失敗できない任務なんだ。ただ付いてくるだけでいいからよ」
「こんな正装にさせられた時点でうすうす気づいてはいたがな…… 儀式みたいなの全然わからないぞ? 何かあってもお前が全部責任持てよな」
「心配するな。俺に合わせてお辞儀だけすればいい。それと、今のうちに彼女に一言安心させる言葉掛けておけ。もう帰るまで話すことはないからな」
しぶしぶ了承というか、逃げられない状況に観念したハイドは、奥の部屋で衣装直しをしているシキヤの元へ向かった。
「只今シキヤ様はお召し替えの最中でございます。もうしばらくお時間が掛かりますので、そちらでおくつろぎください」
ドアの入り口に立つ屈強な男にそう止められ、ハイドは少し離れたソファのところにドッと座り込んだ。傍らにあるモニタには、今日シキヤが取材する予定だった祭りの様な場所の映像が流れている。まったく興味のないハイドは、シキヤの持ってきていたモニタグラスをかけ、なにやらニヤニヤしながら時を待つことにした。
「キヤちゃん、意外とそんな衣装も似合うんだね。かわいいなあ」
何重にも重ねられた豪華な刺繍の入った着物のような衣装をずっしりと着せ替えられているシキヤの顔は、なぜ自分だけ……と戸惑いの表情を隠せない様だった。
「シキヤ、いい? セリフは覚えたね。その一言だけでいいから。あと聴衆もいないし、とにかく落ち着いて。こっちはお客さんなんだから堂々としてればいいのよ。大丈夫だから!」
ラキヤスは、先輩らしく気丈に振る舞っているつもりだったが、明らかに動揺が隠せずに、さらにシキヤを不安にさせた。
「なんだか先輩の方が心配になってきましたよ…… でももう大丈夫ですから。こんな大きな区画の聖王陛下にお逢いできるのは光栄ですしね。それに宮殿には興味ありましたし。出来ればみんなにも見せたかったなあ」
本当はなぜ自分だけがこんな豪華な衣装を着ないといけないのかを問いただしたいところだったが、状況的に身を委ねるのが最善であると察し、とにかく今は心を落ち着けて仕事を全うすることだけを考えていた。
そんなシキヤの気持ちを知ってか知らずか、見事なお手並みで衣装を着せていく二人のメイドが、シキヤ前に並び、深々とお辞儀をして扉を挟む様に並んだ。
「それでは、こちらへ」
開いた扉に向かって、3人は歩き出す。
「なんだその格好? どこのお姫様だよ」
バカっぽい感想を人目もはばからず口にしたハイドを見つけたシキヤは、少し照れながら体に重くのしかかる衣装を引きずるように彼の元に近寄っていこうとするが、すぐにメイドに制止させられていた。
それを見たハイドは、まじまじとその豪華な衣装を眺めながらシキヤの側にたどり着くと、耳元で軽く囁いた。
「俺も一緒に行くことになった。宮殿とやらに行くのは俺もちょっとたのしみだ。せっかくだからお前もたのしめな。それと、すげー似合ってるぜ」
ラキヤスとラナデシに軽く会釈して、慣れない正装のポケットに手を突っ込んだまま奥の部屋に去っていくハイドを見て、シキヤは覚悟を決めることにした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
女の子がいろいろされる話
ききょきょん
恋愛
女の子がいじめらたり、いじられたり色々される話です。
私の気分であげるので、性癖とか方向性はぐちゃぐちゃです、よろしくお願いします。
思いついたら載せてくゆるいやつです。。
エッチな下着屋さんで、〇〇を苛められちゃう女の子のお話
まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)
『色気がない』と浮気された女の子が、見返したくて大人っぽい下着を買いに来たら、売っているのはエッチな下着で。店員さんにいっぱい気持ち良くされちゃうお話です。
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる